<#016-9>「薬に依存してしまうのではないか」
<Q>
「薬に依存してしまわないでしょうか」、「薬が手放せなくなるのではないか」といった質問であります。
<状況と背景>
医師でもない私にこういう質問を寄こすというのは、本当はお門違いもいいところであり、私としては答えようがないのであります。加えて、質問者のことも一切分からないのでありますので、尚更答えようがないのであります。
どこかの病院やクリニックなどに通っておられる方から寄せられるのでしょう。そこで薬を処方されて、それを服用しているようであります。市販のお薬のことではないようです。
心の病を「うつ病」系統群と「統合失調症」系統群というように大きく二つに分けてみましょう。こういう質問(といいますか不安)は前者に属する人から発せられるものであると私は考えています。後者に属する人の場合、もう少し違った内容のものになると思います。
質問者がお薬を服用されているのは確かであります。その薬が割とよく効いているのでしょう。いい意味で(悪い意味であっても)効果があるので、それを手放せなくなるのではないかとか、このままでは薬に依存してしまうのではないかといった心配が生まれるのでしょう。
また、恐らくですが、薬の服用期間が比較的短い例が多いのではないかと私は考えています。治療初期の段階にある人かもしれません。治療の後期に差し掛かっているとか、薬の服用期間が長期にわたっているということであれば、また違った内容の心配を表明されるのではないかと私は考えています。
そのような人から発せられる質問であると私は考えています。ここでもその想定で答えたいと思います。
<A>
「お薬のことはそれを処方した病院にてお尋ねください」
又は、「そのような思考をしないためにお薬を服用してください」
<補足と説明>
さて、服用しているお薬に依存してしまうのではないかという、その思考の根拠はどこにあるのでしょう。どういうことから質問者にその不安が生まれているのでしょうか。そこは全く不明であります。全く分からないということを前提にして私の見解を綴ることにします。
私はこの種の質問は「うつ病」者における貧困妄想と同系統のものであると仮定しています。だからこの質問者が「うつ病」系統群に属する患者さんなのだと思う次第であります。
貧困妄想ということですが、例えば「うつ病」と診断されて休職している人がいるとしましょう。この人が、このまま仕事ができなくなれば、収入がなくなり、財産も失い、家族もろとも路頭に迷わなければならなくなり、一家はバラバラになり、自分も路上でのたれ死ぬことになる、ということを、真剣に信じるようになるというわけであります。
この思考が妄想的であるのは、何よりもその事態に陥る可能性が限りなく低いという事実があります。その人には多少の貯金がある場合もありますし、経済的援助を頼めそうな親類縁者がいる場合もありますし、行政の支援を受けることも可能であります。だからそのような思考内容がそのまま現実のものになる可能性は限りなく低いわけであります。
しかし、それよりも、この思考が妄想的であるという根拠は、この思考に「時間的体験の異常(歪み)」が認められるところにあります。もし、仮に、この人の想定しているような貧困状況が実現するとしても、それは少なくとも数年は先のことでしょう。3年とか5年とか先のことであるかもしれませんし、10年後、20年後のことであるかもしれません。遠い将来のことが今にも起こりそうに体験されているということであれば、そこには「時間体験の飛躍」があるわけであります。
また、今は病気で休職中であるとしても、5年後とか10年後とかには病気から回復して再び仕事に就いているかもしれません。従って、この思考には、現在の状態が不変のまま継続するという意味合いが濃いわけでありまして、ここには「時間体験の停滞」を認めることもできるのであります。
以上を踏まえると、この貧困妄想は、時間的体験の飛躍と停滞が折り重なった上で成立しているということになります。
それと同じ構図を「このまま服用を続けたらその薬に依存してしまうのではないか」という質問に私は見てしまうのであります。依存するにしてもそれは遠い先のことであるでしょうし、その頃にはお薬を必要としない状態になっているかもしれません。同じように時間体験の飛躍と停滞が認められるように思うのです。
そのように考えていますので、このような質問は、仮に(真正の)妄想とまでは言えないとしても、妄想的観念であると私は思うのであります。つまり、この質問自体がその人の「症状」であると思うわけであります。そのため、この症状(この質問)がなくなるために薬を飲んだ方がいいということになるわけであります。
次に薬に依存してしまうという「依存」の方に重点を移行してみましょう。
薬を処方される際に、最初に効力の大きい(つまり、強い)薬を処方されることがあります。だから、それはよく効くだけでなく、副作用の問題なども起きたりするのであります。そこでそれを処方した医師と相談して、薬を調整していく必要が生まれるのです。
依存という観点にたてば、その方が望ましいのであります。効力の強いものから徐々に弱いものへ、服薬量も多いものから徐々に少なくしていく方向でやっていく方が、依存の可能性が低下するのであります。
それとは逆に、最初は微力なものから服用して徐々に強くしていくとか、徐々に増やしていくといった方向で進む方が依存度を高めるのであります。効力が弱い薬を服用している段階で、その薬に対する耐性がついてしまうからであります。また、結果的に服用期間が長期に渡ってしまうからであります。アルコール依存などはこのパターンの典型なのであります。
従って、もし治療の初期の段階で、処方された薬がよく効いているということであれば、それはむしろ依存する可能性が低いのであります。ただし、あくまでも「依存」という観点に立った上での話でありますが。
現実には、その人の体質とか体調とか健康状態、さらにはその人の置かれている状況などに応じて薬も調整されていくでしょう。なので、私のような一介のカウンセラーにこんな質問をするだけ時間と労力の無駄というものであります。質問者は余計な回り道をしているに過ぎないのであります。その薬を処方したお医者さんに直接相談すべき事柄なのであります。今後はこのような質問を寄こさないようにお願いしたいところであります。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)