<#016-10>「性格は変わりますか」 

 

<Q> 

 「カウンセリングを受けると自分の性格が変わりますか」 

 

<状況と背景> 

 基本的にこのような質問はこれからカウンセリングを受けようという人が発するものです。カウンセリングを受けるようになると、この種の質問とか疑問は影をひそめるようであります。というのは、クライアントの関心が別の方向に向かうからであります。 

 

<A> 

 性格は変わるものであり、カウンセリングや心理療法はそれを目指しているものであります。 

 

<補足と説明> 

 さて、この質問は内包されるテーマが非常に大きいので、簡潔に、表面的な事柄だけ概観しておきます。 

 

 性格というものをどのように定義するかは人によって異なると思います。ここでは性格とは「その人の言動や思考、態度などに関するその人の傾向ないしはパターン」と定義しておきましょう。 

 性格は環境や他者との関係性において顕現されるものであります。その場面や相手に応じて現れる性格傾向は異なってくるものです。従って、「私の血液型はA型である」と同じように「私の性格は陽気です」とは言えないものなのであります。前者は関係性とは無関係に自分が所有しているものであり、性格はそういう性質のものではないということであります。 

 基本的に性格傾向というものは変わるものであります。性格が不変のように見えるのは、変化が非常に緩慢であるか、微小であるかするためであります。人が状況の中で生成の過程にいる限り、性格は変わっていくものであります。 

 ただ、性格の中にも変わりやすい部分と変わらない部分とを区別する専門家もいます。その人の持って生まれた素質であるとか、気質であるとか、そういう先天的に有しているものは変わらず、後天的に身に着けたものが変わると彼らは考えるのであります。私もおおむねそれに賛同するのです。 

 ただし、この理論においては、どこまでが先天的な部分で、どこからが後天的であるかという線引きを求められてしまうのであります。要するに遺伝か環境かという不毛な議論に私たちは導かれてしまうのです。これは決着のつかない問題であり、ここでもそれは取り上げないことにします。 

 

 それよりも、後天的に身に着けた性格傾向をさらに一次的と二次的に分けると便利です。その方が理解しやすくなるだろうと思います。 

 一次的とか二次的とか、それはどういうことかと言いますと、要するに「病前性格」と「病気によってもたらされる性格」ということであります。心の病や症状、問題等はその人の性格変化として現れるのであります。 

 これを二次的と称するのは、それがしばしば一次的性格傾向を地盤に有しているからであります。感情豊かだった人が嫉妬深くなるとか、活動的で冒険を好む人が荒々しくなるとか、几帳面だった人が強迫的になるとか、そのように一次的に有している性格傾向の上に二次的傾向が形成されるのであります。 

 カウンセリングや心理療法において、クライアントの症状が改善されて、性格が変わるという場合、変化するのは二次的性格傾向の部分であります。それは、二次的性格傾向が消失した、あるいはその傾向が背景に退いた、あるいはその性格傾向が一次的性格傾向に統合されたなどするわけであります。 

 ここでも先述と同じ疑問が生まれることでしょう。では、一体どこまでが一次的傾向であり、どこからが二次的傾向であるのか、その境界線をどこで引いたらいいのかという疑問であります。その境界線を求めることは困難であり、尚且つ、それを求めてもさほど有益でもないので、私たちはここに踏み込まないようにしましょう。ただ、その人の生が上手くいかなくなることと、二次的傾向が表に現れることとは相互に関連していると言えそう私は思うのです。 

 従って、クライアントや質問者が自分の性格が変わるかと問う時、そこで取り上げられている「性格」とは二次的性格傾向であると考えられるのあります。二次的性格傾向は生の困難や心の問題と関係しているからであります。 

 

 さて、性格を一次的と二次的とに分ける利点がもう一つあります。これは少し余談になるのですが、ここでの質問者は自分の性格が変わることを期待しているのでありますが、性格変化を過剰に恐れる人たちもおられるのです。治療を受けると性格や人格をがらりと変えられてしまうのではないかとか、自分が自分でなく他の自分にさせられてしまうのではないかとか、そのような種類の不安を抱えている人もいるのであります。 

 要するに、この人たちは「洗脳」とか「マインドコントロール」といったものを念頭に置いているのですが、性格傾向を二分することによってこの不安は解消されることになります。性格改善といっても、人格とか性格のすべてを、つまりその一次的性格まで変えるわけではないということを理解していただけるからであります。 

 

 先ほども少し触れましたが、ある人の心の病はその人の「性格の変化」として当人ならびに周囲の人には体験されることが多いのであります。そういう事情があるので、一次的性格傾向(病前性格)と二次的性格傾向を区分しておくと良いでしょう。周囲の人にとっても問題となり、その人のことで悩まされるのは、その人の二次的性格傾向の方であります。 

 性格傾向が場や他者との関係において現れるものであるので、だからカウンセリングはクライアントの生活空間で行ってはならなくて、尚且つ、家族などに立ち会ってほしくないのであります。その人が本来的にどういう人であるのかを私は見たいと思うのです。つまり、ここでの表現に従えば、その人の一次的性格傾向の方を知りたいと願うわけであります。そのために二次的性格傾向が発現される状況を遠ざけたいのであります。 

 もし、二次的傾向が表に出ないような関係性であれば、クライアントはそれだけ二次的傾向と関わらなくなっていくでしょう。クライアントは一次的傾向をより体験するようになり、それにより関わるようになり、それによって二次的傾向が影を潜めてくれば、その人のより本来的な部分が表に出てくるようになるので、その人はより生きやすくなるでしょうし、そこからさらなる改善や発展の道が開けてくるのであります。カウンセリングによって性格は変わるのであります。 

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

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