<#015ー3>初回面接~概要 

 

 さて、S氏との面接が開始しました。Sは彼の発言、Tは私の発言です。個々の発言は枝葉末葉を省略し表現等も簡略化されています。 

 

 (1)T:では気を楽にして、どこからでもどうぞ。 

 (2)S:(背もたれに体をもたせかける。横柄感が増した感じ)話すのですか(T:ええ、どうぞ)。話すと言っても、何を話していいのか・・・ 

 (3)T:ここへ来ることになった事柄から話されてみてはいかがですか。 

 (4)S:そうですね・・・(考えている様子)・・・僕がここへ来たのは、その、DVの問題なんです・・・ 

 (5)T:ほう、そうですか。で、どちらの方?(S氏、キョトンとする)。つまり、暴力をふるう側か振るわれる側か、ということなのですが。 

 (6)S:ああ、そういうことですか、つまり僕はDVの「加害者」だということで・・・ 

 (7)T:「加害者」というのは、誰がそう言っているのですか。 

 (8)S:妻です。 

 (9)T:で、Sさんはどう思っているのですか。 

 (10)S:妻に暴力をふるったので「加害者」なのだと思います。 

 (11)T:なるほど、あなたもそのようにお考えになられているということですか。 

 (12)S:(笑って)違うんですか。 

 (13)T:「被害者」が暴力をふるうことだってありますしね。 

 (14)S:そうか・・・ 

 (15)T:Sさんは暴力を振るった。そのこととSさんが「加害者」であることとはつながらないかもしれませんね。 

 (16)S:確かに・・・(何か迷っている様子)・・・(おもむろにカバンを開いて、A4用紙3枚にびっしり書き込まれた文書を取り出し、手渡す) 

 (17)T:(私は受け取り)何です、これは? 

 (18)S:妻が書いたもので、僕では上手く伝えられないだろうからと、昨夜、妻が作成したものです。真っ先にこれをカウンセラーに読んでもらうようにって。 

 (19)T:こんなもの要りません(文書をS氏に突き返す)。 

 (20)S:いや、それでは困るんです。読んでもらわないと。 

 (21)T:ふむ、それじゃあ、預かるだけ預かっときましょう。後で読みます(本当は読むつもりなぞない)。Sさんにこんなもの持たせてね、私もアタマにきますね。 

 (22)S:そうなんですか(ちょっと驚いた風)。 

 (23)T:そういうのは私は不愉快なんですよ。奥さんが言いたいことがあるなら、奥さんが来て言えばいいのにね(S:そうですよ)。なんだか遠隔操作されている気分になるよ。 

 (24)S:(笑う)ほんと、そんな気分になるんですよ。でも、読んでくれなかったとしたら、妻たちになんと言えばいいのか。 

 (25)T:どうとでも言っていいですよ。ところで妻たちというのは? 

 (26)S:妻と母親、僕からすれば義母ということになりますが、この二人です。それ(文書)も妻が書いたものだけれど、義母のアイデアでもあったようです。 

 (27)T:その義母はあなたがた夫婦にどう関係しているのでしょうか。 

 (28)S:妻は何かあるとすぐ義母に報告する。そして義母が僕を呼び出したりしたこともあるんです。 

 (29)T:Sさんも不愉快な思いをされたことでしょう。 

 (30)S:(要約:妻と義母の話になる。義母は離婚して一人娘を引き取り、以来、母娘だけで生きてきたこと。娘がS氏と結婚後、義母は一人暮らしをしているが、妻がしょっちゅう義母を訪れ、義母もまた彼ら夫婦のところへ頻繁にやってくるという。妻は何か困ると義母に頼る) 

 (31)T:なんだかSさんと妻と義母と、三人で生活しているみたい? 

 (32)S:そんな気がしてくる時がある。義母の存在が大きい。 

 (33)T:奥さんもSさんを頼りにせず、義母を頼りにしているといった感じですか。 

 (34)S:そういうわけでもないけれど・・・妻は僕に背中を押してほしいとよく言います。僕も妻の要望に答えて、励ましたり、勇気づけたり、一押ししたりとやってるつもりなんですが、妻は僕では役不足だと言うんです。義母はその役を果たしてるようで、それで僕に頼るよりも義母に頼るようです。 

 (35)T:そうですか、奥さんはSさんに背中を押してほしいと願っているわけですね。なるほど。でも、背中を押しているのは義母の方なんですね。 

 (36)S:そうですね。だから妻からすると、僕は役に立たないように見えているのではないかと思う。 

 (37)T:そんなふうに見られるのも不快なことですね。 

 (38)S:そう感じる時もある・・・ここへ来ることについても、揉めてしまって。 

 (39)T:どういうことでしょうか。 

 (40)S:(要約:暴力を振るうS氏には治療が必要だということで、妻と義母が決定したらしい。二人は治療機関や相談機関を探してはS氏に見せるのです。最初はS氏は拒否していたのだけど、治療を受けないと離婚するまで言われたので、受けることにした。ただ、どこを受けるかについては意見が対立したままだった。妻と義母はDV専門のカウンセラーがいいと主張したが、S氏はどういうわけか私のところを推したのでした。二人は高槻のあのカウンセラーは止めてほしいと頼むのだけれど、S氏は押し通したようで、文書を持たせたのもそうした背景があってのことであるようだ) 

 (41)T:Sさんは私の何が気に入ってそこまで推してくれたのでしょうか。 

 (42)S:(要約:ホームページに書いてあることが良かったと言う。DVに関しても、被害者と加害者を分け隔てなく考えているという印象を持ったそうで、そこで好感が持てるような気がしたそうであります)だから、さっき、被害者が暴力をふるうことだってあるって言ったとき、あのホームページを書いている先生だと思いました。 

 (43)T:そうだったんですね。でも、妻と義母には私の評判は悪いみたいですね。 

 (44)S:先生には申し訳ないけれど(T:いえいえ)。なんか、怖い先生だと思っているようです。 

 (45)T:でしょうね(S氏、笑う)。逆に聞きたいんですけど、妻と義母が勧めるようなところは何がイヤだと思ったのでしょうか? 

 (46)S:なんていうのか、DVを専門に扱っているようなところのHPなんかを見てると、加害者が悪いと言われている気がして。 

 (47)T:暴力を振るった側だけが悪者のように見られるのには耐えられないという感じでしょうか。 

 (48)S:そうですね・・・こんなことばかり話していていいのかな。 

 (49)T:ええ、この時間はSさんのご自由に。 

 (50)S:妻も義母も今日僕がカウンセリングを受けるのを知っていて、最初は付き添うとまで言ってたんですよ。でも、仕事帰りに直接寄るからと言って断った。きっと、帰宅したらいろいろ訊かれると思う。どうしたらいいのか。 

 (51)T:Sさんは二人に話したいと思っているのか、話したくないと思っているのか、どちらなんでしょうか。 

 (52)S:あんまり、話したくはない。 

 (53)T:それなら話さなくていいですよ。 

 (54)S:妻と義母がそれでは納得しないだろうと思う。 

 (55)T:納得しなかったらどうなると言うんです? 

 (56)S:きっと他のところへ行かされると思う。 

 (57)T:また反発すればいいじゃありませんか。 

 (58)S:それができないんですよ。 

 (59)T:私のところを推したのと同じようになさればいいでしょう。 

 (60)S:いや、次はムリな気がする。今回は向こうが折れてくれたんだけれど、今度は折れないと思う。 

 (61)T:そうですか。しかしですなあ、あの二人があなたのことで納得なんてするのかなあ。Sさんがどんな選択をしても、Sさんが選択する限り納得はされんでしょうなあ。 

 (62)S:僕もそんな気がしています。 

 (63)T:ところで、妻と義母からどんなことを言われるのが一番イヤなんでしょうか。Sさんがもっとも避けたいことは何でしょうか。 

 (64)S:(考える様子)・・・先生、僕って人格障害ですか。 

 (65)T:(驚いて)そうは思いません。 

 (66)S:妻と義母は僕が人格障害だと思っていて、そういう治療が必要だとも考えているのです。カウンセリングはまだいいけど、病院に通うのはどうも・・・ 

 (67)T:まるで、カウンセリングが上手く行かないなら病院送りだ、と言われてるみたいですね。そして、それを妻と義母が決めるということのようですね。 

 (68)S:妻たちは人格障害だと思っている。カウンセリングよりも病院を探した方がいいかもとも話し合っている。 

 (69)T:Sさんが人格障害というのはどこを見てそう言うのでしょうね。 

 (70)S:よくは分からないけれど、DVのような問題を起こすのは人格障害であるとか、そういう情報をどこかから得たようです。 

 (71)T:そうですか・・・(考える)・・・奥さんと義母にカウンセリングのことを訊かれたら次のようなことを言うといいでしょう。Sさんが本当に人格障害であるかどうかを見極めるために、できるだけSさんを刺激やストレスの少ない環境に置いてみたいとカウンセラーが言っていた、と。だからSさんの個人的な事柄にはできるだけ介入しないでほしいと頼まれていると伝えてください。 

 (72)S:それでなんとか切り抜けられますかね。 

 (73)T:分からないけれど、Sさんが人格障害であると決定された方が二人には都合がいいわけでしょう。それなら協力してくれそうな気もするので。 

 (74)S:分かりました。何か訊かれたらそう伝えてみます。 

 (75)T:それはそうと、今日はお仕事帰りだったんですね。(S:ええ、そうです)。勤務が不安定だとおっしゃってましたが、どういうお仕事なんですか。 

 (76)S:(要約-彼は非正規雇用で働いているという。いろんな職場に行くので、始業・終業の時間も現場によってまちまちだと言う。大学卒業後に就職した会社で10年以上勤めてきたが、その会社が吸収合併することになった。会社で人員整理があり、彼はそこで半ば自主退職したようである。それから4年近くなるが、以来、派遣やアルバイトなどを点々としながら現在に至っているという) 

 (77)T:正社員として働かないのはどうしてなんでしょうか。 

 (78)S:(要約-退職した時は、一か所で働いていると可能性が閉ざされる気がしたので、いろいろな仕事を経験しようという気持ちから派遣で働くことに決めた。妻も起業すると言い出した。彼らには子供が一人いる。それまでは子供に手がかかるので妻は専業主婦であったが、子供が小学生になったのを機に、妻は起業した。小さな店を始めたそうだ。それは妻の夢だったようである。退職後、最初の1年くらいはその生活でも良かったのだけど、2年目からはちょっと飽きがきた。今ではこの生活に面白みを感じられない。派遣であちらこちらで仕事をするけれど、達成感が乏しく、不満が多くなった) 

 (79)T:しかし不思議ですね。最初の1年はそれで良かったけれど、その後3年は不満を抱えたまま続けてきたのですね。2年目で再就職することもできたのにね。 

 (80)S:なんか妻が許さないんです。(T:どういうこと)。僕が正社員で働くと、妻は仕事のモチベーションが下がってしまうと言うんです。家計が苦しくて、自分がそれを助けているという感覚がないと頑張れない、とかって言うんです。 

 (81)T:それでは奥さんのためにSさんは不満足な生活を続けているということになるわけですか。 

 (82)S:そうなりますかね。義母からも妻に協力するように圧力をかけられているので。つまり、義母が言うには、僕は大学卒業してから自分の選んだ分野で仕事をしてきた。妻は子育てがあって好きなこともできないでいた。だから今度は娘に好きなことをやらせてあげてほしいなどと言ってくるんです。 

 (83)T:なるほど、今度はSさんがガマンする番だって言われているようなものですね。(S:ほんとそうですよ)。それは腹も立つでしょう。 

 (84)S:時折、イラっとくることはあります。仕事中なんかによく感じます。派遣の仕事が悪いわけじゃないんだけれど、働きながら、なんでこんなことやってんだろうって気持ちになることはあります。 

 (85)T:そういう時は奥さんを恨みたい気持ちになるでしょうね。 

 (86)S:いえ、妻よりも義母ですね。どいうわけか、そういう気持ちになると義母の顔が思い浮かぶ。 

 (87)T:義母の存在が大きいみたいですね。なんだかSさんは義母にずいぶん遠慮しているようにも見えるのですが。 

 (88)S:遠慮と言えば遠慮なんですが、どちらかというと、できるだけ関わりたくない気持ちですね。 

 (89)T:義母の言うとおりにしていれば、関わらずに済むということですか。でも、実際、そうなんでしょうか。 

 (90)S:いや、そうとも言えないかも。何かにつけて妻は義母に言うし、その都度、義母は僕に言ってくるので、よく考えると、あまり変わりはないかもしれない。 

 (91)T:義母と関わりたくないためにやってることが、全然その目的を果たしていないということになるわけですか。 

 (92)S:(少し笑う)そうですね。言われてみればそうかもしれない。もっと別の方法を取らないといけないな。 

 (93)T:おそらく無駄でしょう。Sさんが義母と関わらないようにどんな方法を取っても、妻と義母が結びついている限り、義母の方から関わってくることになるでしょう。 

 (94)S:そうなるでしょうね。ホントだ(注-他人事のような感じで話される)。 

 (95)T:(この時点で開始から45分ほど経過している)Sさん、ちょっとここで一区切りつけてもよろしいでしょうか。(S:ええ)。Sさん、今日、ここに来て話し合いをしてきたのですが、感想なんかを聞かせてもらえませんか。 

 (96)S:感想ですか。そうですね(考える様子)。良かったと思います。(T何が良かったですか)。思っていた以上に義母を意識していたことに気づいた。人格障害ではないと言ってもらえたことも嬉しかった。 

 (97)T:今日は来てよかったなと思いますか。(S:思います)。また来たいと思いますか。(S:できれば来たい)。私もまたSさんとはお会いしたいと思っています。でも、今のところ、その期待は薄いように僕は感じています。 

 (98)S:(ビックリした感じ)そうなんですか。 

 (99)T:今日、Sさんは妻と義母の意見に反して僕の所へ来ました。Sさんの言うことを聞いたのだから、今度はこちらの言うことを聞いてもらうと義母たちは言うかもしれません。どんなことを義母たちが持ち出してくるかわかりません。そうなってもSさんは義母たちの言うことを聞いてしまうだろうと思うのです。 

 (100)S:ああ、そうか。そんなふうに考えたことはなかった。 

 (101)T:もう一つ言うと、今後、状況はますますSさんにとって厳しいものになるかもしれません。もう一度、僕はSさんのことを考えてみたいと思うのですが、今の時点ではいい兆しがまるで見えない思いがしています。(要約-その理由として、義母の存在が大きく、妻は義母の側についていること、そのため夫婦間の問題ではなくなっていること。おそらく、義母が支配権を持つ関係になっているだろうと思われること。義母のやり方として、最初に相手の言うとおりにして、次に、今度はこちらの言うとおりのことを求めるという傾向があるように思うこと。この場合、後から言う方はいくらでも言えることになる。相手の言い分とこちらの言い分とが不釣り合いであっても構わないことになる。義母たちはS氏が私のところで受けるのを反対していたのであり、私に対していい感情を持っていないだろうから、義母たちからするとたいへんな犠牲を払ってS氏の言い分を認めたといった体験をしているかもしれないので、その反動として今度はどんなことをS氏に求めるか予測がつかない) 

 (102)S:どんなことを義母たちはすると思いますか。 

 (103)T:まず、私のカウンセリングを受けることを禁止するでしょう。あなたが受けたくてもダメだと言うでしょう。一回受けたからいいじゃないかとか、今度はこちらの病院に受診して高槻のカウンセラーはその後にしなさいとか、なんじゃかんじゃ言って禁止するだろうと思います。 

 (104)S:まさか、そんな。 

 (105)T:もし、義母が私のところを拒否していても、妻が推薦しているとかいうのであれば救いがあったのですが、妻もまた私のところに対していい感情を持っていないのでしょう。だから見込みが薄い気がしているのです。だから、Sさんが私のカウンセリングを続けたいとなれば、そういう禁止や反対を押し切らなければならなくなるのです。今のSさんを見ていると、そこまでできるかどうか覚束ない気がしているんです。 

 (106)S:そんなこと考えたことなかった。けど、確かにそれも一理あるような気がしてきた。僕はまた受けたいと思います。そのためにどうすればいいでしょうか。 

 (107)T:一つの方法として、二回目の予約を今日のうちに取ってしまうということです。義母たちが介入してくるよりも先に次回のことを決めておくわけです。 

 (108)S:でも、それも無理なんです。今日、受けて、その後のことはそれから話し合うことになっているんです。次の予約とかを取らないように釘刺されているんです。 

 (109)T:Sさんはそれに従おうとされている。(S:そうです)。わかりました。継続していく上で困ったことがあったら一緒に考えることにしましょう。(以下、私の方の感想も述べ、いくつか枠組みに関する話などをして、終了となる) 

 

文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

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