#014-07>ギャンブル問題への条件(3) 

 

 前二節で、週に1回のカウンセリングを3年続けることという条件が揃いました。本節では、3年続けるに当たっての注意事項を述べようと思います。 

 

(三つ目の条件) 

条件 

「週に1回のカウンセリングを3年続けること。それに必要な準備を当人がすること」 

 この文章の後半部分を本節では取り上げます。 

 

 必要な準備とは何かと言いますと、時間とお金のことであります。 

この問題を抱えている人は何よりも金銭の問題を抱えています。中には予算のまったく無い状態でカウンセリングを受けに来られる方もおられます。その場合、彼らは継続していくことがすぐに不可能になってしまうのです。 

誤解のないように申し上げるのですが、私は決してお金の問題を言っているわけではないのです。もちろん、料金は頂かなければならないのですが、それはこの条件の主要な部分ではありません。 

突発的にカウンセリングの門戸を叩いてみたところ、すぐに破産してしまうという人も過去にありました。それは、パチンコ店に入ったものの、すぐにスッカラカンになって出てくるのと同じことでありまして、結局、ここでも同じ事を繰り返しただけという人もあるのです。 

つまり、このカウンセリングが、ギャンブル依存の生様式の一環になってしまうのです。新しい傾向を身に着けるどころか、馴染みのある結末を繰り返すだけになるのです。従って、これはクライアントにとって不利益となると私は考えるのです。その不利益を最小限にしたいと思うので、このような条件をつけているのです。 

まずは、長期的に通えるだけの、3年は通うつもりで計画と予算を組んで、それから受けていただきたいと願うのです。 

 

(本人の負担) 

条件の後半部分は、その予算や準備は、できるだけ本人が負担するということであります。家族や配偶者がカウンセリング料を負担することもあり、また、そうせざるを得ないという人もおられるのですが、これもやはり彼らの進歩を阻害することにつながるように私は思うのです。 

もし、周囲の人が負担するのであれば、必ず本人から返済してもらうようにしなければなりません。その返済もきちんと計画されなければなりません。そうでなければ、これは彼らの借金パターンと同じ経緯をたどってしまうことになりかねないのです。 

 

(家族の負担は本人の自覚を不明瞭にする) 

 また、家族が負担する場合であっても、必ず一部だけの負担にして、あとは本人が負うようにしなければいけないのです。 

 厳しいことを言っているように思われそうですが、そうしなければ、このカウンセリングが誰のためのものなのかがはっきりしなくなるからです。 

 正直に言えば、ギャンブル依存というのは、本人にギャンブルをするだけの資産があるのであれば、問題にならないことも多いのです。アルコールや薬物のように身体的な弊害をもたらすということもないのです。本人が自ら望んで改善するかどうかにかかっているのであって、条件が許すなら、この人は別に一生をギャンブル依存で過ごしても構わないことだと私は思うのです。 

 もし、家族の人が費用は負担するから「治療」をしてほしいというのであれば、この「治療」は家族の人が求めているものであって、本人の「治療」ではないということになり、本人の自覚が乏しくなるかもしれないと、私はそのように思うわけです。 

 

(もう一つ別の問題) 

 家族が費用の全額を負担することは、また別の問題を生み出すことになるのです。 

 これも私の個人的印象の域を出ない話なのですが、ギャンブル問題を抱える人たちは、しばしば世界や他者を搾取的に捉えているように思われるのです。あたかも世界は奪い合いで成立しているかのように語られる人もあるのです。 

 例えば、ギャンブルで負けた時に、「取られた分は諦める」とはならずに、「取られた分は明日取り返す」という発想になるのですが、これは搾取的な思想ではないかと私は思うのです。 

 ある男性はお金を工面するために、所持品を質入れしました。期日までに支払えなかったので、その品物は質流れしたのでした。その話をする時、彼は「質屋に持って行かれた」と表現されました本当は買い戻すことができなかった」であります) 

 もし、このような世界観、認識をする傾向があるとすれば、家族が彼のために負担することは、彼からすれば「奪取」の意味合いを有することになると私は思うのです。つまり、家族から「借りる」とか「負担」してもらうではなく、家族から「奪う」といった認識になり得るということであります。 

 さらに、彼らのその世界認識には、根底に憎悪の問題が潜んでいることも多いように思われるのです。自分や他人、世界をどこかで恨んでいるのです。一部の人は、こうした破壊傾向を強く有していました。 

もし、彼の分を家族が負担して、家族が破産するようなことになれば、それは彼の無意識的願望が成就したということになりうるのです。家族が破産することも当人自身の破産であっても)、当人の自己破壊傾向の結果である私は思うのです。彼らの中には自己毀損的な経験を持っている人もあるのです。こうした考えは突拍子もないものに見えるかもしれません。追々、考察していきたいと考えています。 

 要点は、家族や周囲の犠牲は、彼らの破壊衝動を満たすために用いられる可能性があるということなのです。 

 ここでは一つのキーワードとして「蕩尽し切ること」という言葉を挙げようと思います。つまり「無駄に使い、しかも使い果たす」ということです。特にお金に対する彼らの態度にはそれが濃厚に見られるように思います。 

 ある男性は、ギャンブルこそしなくなりました。それまでは給料を全額パチンコに注いできたのでした。でも、彼は今ではパチンコの代わりに、買い食いしたり、無駄使いしたり、人に奢ったりして、やはり同じように給料の全額を使い果たしているのです。彼もまたギャンブル時代の生き方をそのまま続けているのですが、当人はギャンブルをしなくなったのだから、これくらいいいではないかと開き直っていたのでした。 

 

(予算と計画の詳細) 

 さて、予算と計画ということですが、一応、余計なこととは思いつつも、詳細を述べておこうと思います。 

私のところのカウンセリング料は、一回が6000円です。一年間で50回通うとすれば、年間30万円ということになります。3年間だと90万円になります。もちろん、それを一括で払うわけではないので、3年間でトータル90万円支払うことになるという計算であります。まず、これが可能になるような現実的な計画を立てていただきたいと願うのです。 

これって、高額だと思われるでしょうか。私はそうは思いません。ギャンブル依存の人たちは、これまでにおいて、この金額を支払えないことはなかったのです。彼らは、人によって差異がありますが、半年くらいで90万円を浪費していることも珍しくないのです。本当は彼らに不可能な金額ではなかったのです。 

 一回6000円を継続的に支払えるように、年間で30万円ほどの支出になることを見込んで、現実的に検討していくこと、それが可能であると見通しがついてからカウンセリングを始めるようにお願いしたいと思います。 

 

 最後に、いつものようにここまでの条件をまとめておきましょう。 

 条件「週に1回のカウンセリングを3年続けること。それに必要な準備と計画を当人が立てておくこと」 

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

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