#10-4>出会いから結婚まで~出会い 

 

(出会い) 

 二人の人間が結婚するためには、彼らがそれぞれの人生の途上で出会っていることが前提となります。二人はどこかで出会うのです。どういう出会い方をするかは人それぞれでありましょう。 

 しかし、出会ったからといって、即座に恋愛に陥るわけではなく、通常、出会ってから交際が始まるまでにある程度の時間が置かれることになるのです。これは、相手のことを知るための時間でもあり、相手の存在が内面化していく(スタンダールふうに言えば結晶化されていく)ために必要な時間でもあります。上手くいかない夫婦の中にはそうした時間がなかったという人もおられるのです。 

 すでに次の「潜伏期」の領域に入っているのですが、本項で取り上げるのは「潜伏期」が欠落しているような例であります。 

 

(一目ぼれ) 

 それは、要するに、一目ぼれのような現象です。出会ったその日のうちに「この人と結婚する」と決めるのです。出会ったその日のうちにではなくとも、一回会った人と結婚を決めてしまうのであります。あまり信じられないかもしれませんが、状況によっては頻繁に見られることであるという印象を私は受けています。 

 まず、この一目ぼれのような現象を述べておきましょう。これは相手のことが内面化される以前に相手が心を占めてしまうということを意味しているのです。しかし、一瞬で相手が心を占めたという人は、一瞬のことで相手が心からいなくなる可能性もあると私は考えています。非常に脆い関係しか築けないのではないかという気がします。 

 そして、出会った瞬間に相手のことが心を占めるということは、それはある種の自己喪失であり、相手に呑み込まれている状態であるように私には思われるのです。分かりやすく言えば、それは相手に惚れているのではなく、相手に魅了されている、虜にされているだけのことであり、恋愛とは言えないものであると、私はそう考えています。 

 ある男性は、妻とそういう出会いをしたのでした。一目見た瞬間、彼女を運命の人だと思ったそうであります。メロドラマとしてはいいかもしれませんが、精神的に健全とも言えないように私は思うのです。ユング派の人なら、彼は彼のアニマと直面したために非常に危険な精神状態に置かれているなどと解釈するかもしれません。 

 あまり細部に渡って記述することは控えたいと思うのですが、彼の生活史を聞いていくと、どうも妻と出会った時から何かが決定的に彼の中で壊れてしまったような印象を私は受けるのであります。それまでの彼が姿を消してしまったような感覚を私は覚えるのです。当人は、それ以前も以後も同じ自分であると体験しているのですが、私には別人のように感じられてしまうのです。結局、この妻との関係が悪化して、離婚が現実味を帯びてきた時、彼は本当に壊れてしまうのであります。 

 

(設定された出会い) 

 出会ったその日のうちにこの人と結婚すると決めるなんて信じられないと思う人もあるでしょうが、ある状況や場所においては、そういうことが通常的に生じるのです。特に、設定された出会いの場においてはよく起きることであると思います。 

 例えば、婚活パーティーで妻と知り合ったという男性がそうでした。お互いに結婚相手を探す目的で参加したのですから、初対面のその日のうちに結婚を決めたそうであります。私はこういう人を何人か知っていて、そのうちの幾人かは結婚前に関係を解消しており、他は結婚に至るようです。そういう形で結婚に至った人たちのどれくらいの夫婦が上手くいっているのかは分からないのですが、彼らのうちの上手くいかなかった人たちの話を私はお伺いするのであります。 

 

(もう後がない) 

 一目ぼれとまではいかなくとも、相手と出会ってすぐ、その相手との結婚を決めたという例には次のような人もおられます。 

 いろいろな事情で婚期を逃してしまった40代前半の女性でした。彼女はどうしても結婚したいと望んでいます。しかし、彼女の周囲の独身男性といえば20代の若い人たちばかりで、彼らはまだ結婚も考えていないし、それに20歳近く年上の女性に興味を持つこともありませんでした。 

 年齢相応の独身男性と知り合うこともなく時間が過ぎてきたのですが、ある時、彼女は一人の男性と出会います。営業先に勤めていた40代の男性であったようで、彼が独身だと聞くとすぐに彼女の中では結婚相手が決まったようでした。 

 この女性の個人的な事柄になるので詳述しませんが、彼女にとっては結婚しているという事実が絶対に必要だったのでした。その事実があるのとないのとで彼女の中では全然違ってくるのであります。おそらく、この男性を逃すともう後がないという思いだったのでしょう。彼女は積極的に結婚を働きかけ、彼との結婚を実現させたのでした。 

 結婚はしたものの、幸せは長続きしなかったのであります。もともと自分たちが幸せになるための結婚ではなかったのです。少なくとも彼女の中ではそうではなかったのです。結婚したという事実、それによってある証明をできれば彼女にとっては十分だったのでした。 

 

(パートナーのことをよく知らない) 

 出会ってすぐに結婚を決めたという場合、相手のことを十分に知らないうちに結婚してしまっていることが多く、結婚して初めて相手がどういう人であるかが分かったりするのです。時には(と言ってもこちらの方が多いと思うのですが)、結婚してもなお、自分がどういう人と結婚したのか知らないまま夫婦でいたりするのです。 

 一目ぼれのような形で始まった結婚は、私の個人的な見解ですが、徹頭徹尾、自分本位の結婚なのだと思います。自分が助かるための結婚であったりすることが多いのではないかと思うのです。 

 また、こうした一目ぼれのような結婚は、相手を選択することで悩みたくないという気持ちの表れであるかもしれません。悩んだり、選択したり、そういうことが苦手な人であるのかもしれません。そのように思うこともあります。 

 加えて、あまりこれは言いたくないのですが、このような一目ぼれ恋愛というのは、手っ取り早く結婚を済ませてしまいたい気持ちの表われであるかもしれません。実は私はそう思っているのです。 

 いずれにしても、そこには関係性の問題を私は感じてしまうのであります。相手と知り合って、十分に関係を築いて、お互いのことをより分かり合って、といった一連の過程を省いてしまうのです。関係形成を省いてしまうのです。関係形成の途上を無かったものにして、関係完成へ飛躍しているように私には見えているのですが、そこには関係性の問題を認めることができるように思うわけであります。 

 そして、もし結婚前から関係性の問題などを抱えているとすれば、その問題はそのまま結婚後の夫婦生活にも持ち込まれることになります。上記の場合などでは、その問題がそのまま維持される形で結婚に行き着いているからであります。 

 

(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

 

 

 

 

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