<#1-2>一人で仕事することに関して
当センターは私(寺戸順司)が個人で運営するカウンセリングルームであり、他にスタッフなどを雇わずに、一人で仕事をしています。そこは開業当初から現在まで貫徹しています。
一人で仕事をするというのは何かとたいへんなことも多いのでありますが、それでも私は一人で仕事をする方を選びます。助手とかスタッフは不要であります。
なぜ、一人でするのか、いくつか理由もあります。個人的な理由でありますが、スタッフがいると、そのスタッフに任せきりになってしまうだろうと自分では思うのです。そして、自分の好きなことだけに集中して、その他のことはスタッフに押し付けてしまうのではないかとも思っています。一人で仕事をするというのは、私のその「甘え」を断ち切りたいという思いもあります。
加えて、一人で何かをする方が自分には向いていると思うのです。あまり人と一緒に共同で何かをするというのは苦手でありまして、他者へ配慮して、自分の力が発揮できないという感じがしてしまうのです。学生のころから、勉強は(もし勉強するのであれば)一人で黙々とする方が好きでした。友達で集まって勉強するという人たちもいたのですが、どうも私にはそれは不得手でした。
今、こうして一人で仕事をしています。予約の受付から、事務仕事も、お茶汲みも、HP作成や広報もすべて一人でこなしています。
それに、クライアントが来られる場合、そのクライアントを見る人が少ない方がいいと私は考えています。あまり人目にさらされたくないと思う人も中にはおられるからです。クライアントが来られて、会うのは私一人だけというのが、私には良いように思えています。
さて、私がもっとも敬遠したいのはクライアントの情報の共有というものであります。今はチームで一人のクライアントを支えるというところが多く、正直に言えば私などは時代遅れであります。
チームで仕事をしている場合、一人のクライアントに関することはチーム内で共有されることになります。いわば、チームでその人の情報や秘密を保持するという傾向が強くなるわけです。それがどうも私には好きになれないのであります。
例えば、ケース検討会のようなものが開かれます。私も研修中は自分のケースを参加者の前で発表したこともあります。なんとなく気持ちが悪いのであります。クライアントには秘密保持を約束していながら、こういう形でその人のことを発表しなければならないというのが、どうにも不愉快でもありました。確かに、ケース検討会も必要なことでありますが、自分のクライアントのことを話すことも、他の人のクライアントのことを聞くことも、どこか私の中では抵抗感があるのです。
もう一つ、そして、これがもっとも大きな理由でありますが、チーム内でクライアントの何が話されるかに関するものであります。
私は若いころにクリニックに在籍していたことがありまして、そこで先生方がクライアントのことをあれこれ話されるのであります。あの人はこういう問題を抱えているのではないかとか、この人にはこういうアプローチがいいのではないかとか、そういったことを、割と日常茶飯事的に、話されるのであります。
そこまではいいとしましょう。同僚の意見を聞くということも有益でありましょう。ただ、「それ、本人の目の前で言えるの?」という疑問が私に生まれるのであります。けっこう「えげつない」と感じるようなことが話し合われたりしていたこともあります。
こういう感覚に陥るのは私だけかと思っていたのでしたが、ある家族療法家・短期療法家の書籍に次のようなエピソードを読んで私は非常に安心しました。そこではスタッフが集まってクライアントについての検討会が開かれていました。ある時、クライアント本人を招いてケース検討会を開催したのですが、みんな思うようにモノが言えなかったそうであります。本人を前にしてはとても言えないようなことを平然と言い合っていたんだなと私は思うのですが、どこでもこういうことが起きるのかもしれません。
私はそれがイヤなのであります。本人を前にしてはとても言えないことでも、私が個人内で考えている分にはいいのでありますが、それを他者と話し合うのは好まないのであります。ざっくばらんに言えば、クライアントの悪口といいますか、影口をたたいているような感覚を私は覚えてしまうのであります。
私のクライアントのことは、私の中だけに仕舞っておきたいと願っております。その思いもまた私が一人で仕事をする理由にもなっているのであります。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)