<#10-8>出会いから結婚まで~交際期(2)
(交際期-続き)
通常(といってよければ)、交際から結婚までは一年から長くても二年といったところです。交際期間がそれよりもはるかに短いか長い場合、どこかに問題が潜んでいると考えてよいように私は想定しています。前項では交際期間が過度に短い場合を取り上げました。本項では交際期間が過度に長い場合を取り上げることにします。私の経験範囲では、交際期間が短すぎる例よりも、長い例の方が多いように感じています。
交際期間が3年以上あるという夫婦であっても、交際期間が長引いた理由なり事情なりがある程度明確な人たちもあります。交際期間中に夫が二年間の海外出張を命じられたとかいった例もあります。事故に遭って大けがをしてしまい、その治療とリハビリの期間は結婚を見合わせたという例もあります。中には、交際期間中は定職に就いていなかったので、職に就いてから、あるいは見習い期間を終えるまで結婚を待ってもらったといった例もあります。
このような交際期間が長引いた理由が明確である例はここでは取り上げることはしないでおきます。私は疑い深いので、このような例においても「問題」が感じられてしまうのですが、それは脇へ置いておきましょう。一応、結婚が遅れた理由がハッキリしており、双方がそれに同意しているので、それはそれで良しとしておきたいと思います。
問題になるのは、そうしたはっきりした理由もなく交際期間が長引いているというものであります。交際期間が8年とか10年とかあって結婚に至るといったこともあれば、それだけの交際期間があるのに未だに結婚の話が出てこないといった人たちもおられるのです。
30代の時にその男性と知り合った女性は、40歳を過ぎた今でもその男性とは結婚せずにいます。この女性は結婚してもいいと考えているのですが、相手がそうではないらしいのです。このままダラダラと相手と関係を続けた方がいいのか、それともその男性に見切りをつけて他の男性と結婚した方がいいのか迷う、ということで来談されたのでしたが、この女性にとって問題は前者でも後者でもないのであります。
交際期間は結婚に対する「抵抗」が如実に顕在化する時期であると私は仮定しております。結婚を前提に交際しているはずなのに、結婚に至らないのは、二人のうちの一方ないしは双方が結婚に対する「抵抗」感を抱いていると仮定して間違いではないように思うわけであります。
上述の女性の例では、男性の方が結婚に対しての抵抗感が強いように見えることと思います。しかし、そういう男性を結婚相手に選んでいる彼女の方に結婚に対する抵抗感がないとは言い切れないようにも思うのであります。従って、彼女の方にも結婚に対する抵抗感、あるいは嫌悪感が無意識的に潜んでいることが考えられるので、彼女が主訴として持ち込んだ迷いは問題の本質に触れていないのかもしれないのです。
結婚に対する抵抗感や嫌悪感は、交際期間に顕在化するので、交際期間が長引いたり、あるいは過度に短縮化されたりするのであると仮定しています。喩えて言えば、怖い場所を通らなければならない時に、思い切って猛ダッシュで走ってそこを通過するか、あるいは、その場所に足を踏み入れることを渋り続けているか、そのようにイメージすると分かりやすいでしょうか。
結婚に対する抵抗感や嫌悪感は夫婦の双方が持っている場合もあれば、どちらか一方が持っていることもありますし、双方ともそれを持っているけれど一方がより多く持っているという場合もあることでしょう。
もし、結婚するとなると誰でも二の足を踏むかもしれないし、結婚に踏み切るのは度胸がいるものだから、こういう抵抗感は誰もが持っているものなのではないかと疑問をお持ちになられる方がいらっしゃるとすれば、その疑問は正しいと思います。その疑問を踏まえれば、結婚に関する抵抗感や嫌悪感を克服できなかった人たちが、それらの感情をそのまま持ち続けたまま交際期間を長引かせているということになります。交際期間が理由もなく長引くのは、結婚に対しての抵抗感や恐怖感、嫌悪感をその人の中で克服できていないからである、ということになります。
この抵抗感や嫌悪感は、交際期間中に克服されずに結婚に至ることもあります。この場合、抵抗感がより少ない方が結婚に踏み切るのであります。夫と4年近く交際して結婚に至った妻がいます。結婚に踏み切ったのは彼女の方でした。もし、そこで彼女が強くアプローチしなったらどうなっていたでしょうか。私のその問いに彼女は、結婚しないであのまま交際が続いていたでしょうとお答えになられました。私も同感であります。
そして、私はこれは一つ確信しているのでありますが、夫婦の一方が夫婦の問題でカウンセリングを求める時、この人の方が結婚に対する抵抗感が少ないはずなのであります。結婚に関しての抵抗感の強い方はカウンセリングを受けたがらないのであります。と言うのは、夫婦のことを考えたくないとか、結婚のことに触れられたくないとか、そういう思いが強いからであります。その人たちにおいては、夫婦をよくしていくよりも、夫婦のことや結婚のことを意識に上がらせたくない気持ちが勝ってしまうのだと私は思います。
従って、夫婦問題でカウンセリングを受けに来た妻の場合、尚且つ彼らの交際期間が三年以上の長期に渡っている場合、結婚や夫婦に関しての抵抗感・嫌悪感が強いのは夫の方であるということになるのです。この見立ては大抵の場合、外れることはないのです。夫のこの抵抗感や嫌悪感は、夫婦関係に持ち込まれるだけでなく、カウンセリングにも持ち込まれているのであります。
さて、ここまでの記述では誤解を招くかもしれないので、より正確に述べておきましょう。
結婚に対する抵抗感や嫌悪感があっても、それだけならこの人は結婚をしないでしょうし、交際することもないでしょう。仮に交際してもすぐに関係を解消させてしまうでしょう。そういう人が本項で問題となっているのではないのです。抵抗感と同時にその反対の感情もあるのでこの人は結婚に葛藤を覚えるのであります。
要するに、結婚したい願望と結婚したくない願望とがその人の中で同居しているわけであります。先ほど抵抗感を克服して結婚するのだという話もしましたが、これも結婚したい願望が結婚したくない願望を上回ったおかげで結婚に至ったということなのであります。この両方の願望が等しい力関係にある状態が苦しいのであります。この人は、一方では結婚したいから交際をするのですが、他方では結婚したくないからその決定を先送りしたくなるわけであります。
この人たちは結婚に対して両価的であるわけです。結婚したいという積極的願望があるので交際を始めることができるのです。しかし、この交際期間中に、結婚のことが視野に入ってきてそのことが意識化されるようになると、結婚したくないという消極的願望が表に出てくるのでしょう。こうして交際期間が長引いてしまうのではないかと思います。
しかも、この消極的願望は結婚後もそのまま引き継がれていくので、夫婦生活にもそれが顔を出すことがあり、尚且つ、カウンセリングを巡ってもそれが現れるということが考えられるわけなのであります。
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)