T6-18>再発に関して

 

 よくクライアントやその家族の方々から「再発しませんか」と問われることがあります。それに関しては、「再発するかもしれないし、しないかもしれません」と答えるしかないのです。なぜなら、それは将来のことに関しての問いであり、私にはそういう予知能力が備わっていないので、確実なことが何も言えないからです。

 一言、申し上げれば、「心の病」は極めて人間的な現象であると私は捉えており、その人が人間として生きている限り「心の病」の可能性は常にあるものだと理解しているのです。人間である限り、再発の可能性も当然あるのです。

 再発は、その人の受けた治療よりも、その人が遭遇する危機などの方が影響するものであります。どの人も自分が将来どんな危機を経験するのかは分からないのであります。だから再発という現象は常に起こり得ることでもあるのです。

 ただ、再発を恐れるのはまだ「治癒」していない人であることの方が多いのです。一度でも「治癒」を経験した人は、それほど再発を恐れないものなのです。一度、それを克服した経験が彼に確信を持たせるからです。つまり、以前も回復したのだから、今後再発しても同じように回復していくことができるはずだという確信が生まれるのです。

 それに、クライアントが「病」から回復すると、回復後の彼の生活が充実したものになっていくことも多く、それだけ「病」がその人の生活から遠のいていくのです。「病」や「再発」を気に病むことよりも、他の事柄に多くの心的なエネルギーが注がれるようになるのです。

 再発ということを過剰に心配するのは、その「病」の体験がそれだけ当人にとって苦しかったということもあるでしょうが、「病気」と「治癒」との関係の考え方にも拠るのではないかと私は考えています。

 例えば、「治癒」ということが、罹患する以前の状態に戻ることだというようにイメージされているとすれば、再発は常に起こり得ることのように思われるでしょう。しかし、どんな「病気」であれ、それが「治癒」するということは、以前の段階に戻るのではなく、何かが前進しているものなのです。登山で言えば、登った道をそのまま降りてくるというイメージではなく、向こう側へ下り立つというイメージで私は捉えているのです。以前と同じ地点に戻ることではないのです。「治癒」や「回復」を達成した場合、その人の中で何かが以前とは変わっていることが多いのです。従って、再発と言う場合でも、以前と同じものをそのまま繰り返すというわけではないのです。

 それに、身体の「病気」であれ、心の「病気」であれ、それが発症するためには様々な外的条件も揃っていなくてはならないことなのです。E氏の場合もいろんな条件が重なっていました。もし、E氏に今後ともそのような条件が揃ったとすれば再発する可能性はあり得るでしょう。もちろん、同じ条件が揃うということは可能性としては低いでしょう。ただ、もし万一、E氏にそういう条件が今後揃ったとしても、今回と同じような反応はしない可能性は高いと言えるでしょう。なぜならE氏の内面で変容した部分が多いからです。以前のE氏とは違っているから、恐らく違った反応をすることになるでしょう。

 ここまで述べてきて、読者の方々が混乱されたのではないかと私は危惧しています。あまり細部に立ち入らないようにしましょう。でも、最後に一つだけ申し上げておきたいことがあります。それは「病からの治癒」と「病(という体験)の克服」の違いについてです。

 通常、「病気が治癒する」と言う場合、それは顕現していた症状が消失したか正常範囲内に収まったかを意味するものだと私は捉えています。その「病気」に対して、当人がどのような感情を抱こうと、「病気」の体験をどのように意味づけようと、そこではまったく等閑に付されています。

 「病を克服する」というのは、もう少し当人の個人的な感情や意味づけに関連するものです。一言で言えば、克服するとは「あの病気があったがために」から「あの病気があったからこそ」に変わっていくということなのです。前者においては「病気」の体験はそれこそ呪わしい体験でしかないのです。後者においてはその体験はとても意味のある体験として体験されているのです。こんなふうに克服できた人は、まず再発を恐れないものなのです。

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

PAGE TOP