<T6-15>E氏の日常
(事例)
「毎日がとても虚しい」とE氏は訴えます。朝、とても重たい気分で起床し、出勤の準備をします。妻や子供とは言葉を交わしますが、その会話に活き活きしたものが感じられないと言います。仕事に関しては、今の所、毎日出勤しています。具合が悪ければ休んでもいいし、早退してもいいとは言ってもらえているのですが、E氏はそれはしたくないと話します。それをすると自分の立場が失われそうだからです。
日によってはそれなりに仕事もこなせるのですが、それでも以前ほど効率的に作業ができていないように感じています。気分が重く、否定的な将来を思い浮かべてしまうそうです。
否定的な将来とは、例えば、このまま病気が長引いて、職を失い、家庭も失うのではないか、そして再就職もできず路頭に迷うのではないかといった不安を抱えているということでした。
気分の日内変動として知られていることですが、夕方になると、いささか気分がましになるとE氏は話します。ところが、そこで気分がましになったと言って喜べないのです。彼は却って罪悪感を覚えるのです。彼によると、日中は気分が優れず、そのために周りに迷惑ばかりかけて申し訳ないと話すのです。
(解説)
E氏の「うつ病」は、ある程度のところで抑えられています。これは薬物療法のおかげなのでしょう。それなりに活動性は維持されており、否定的な将来に関しても、それが貧困妄想などに発展することはないようでした。また、厭世観もE氏からはあまり聴くことがなかったのですが、これは家族や上司との関係が維持できているからであると思われます。
E氏がどの程度の効率で仕事をできているのかは定かではありません。効率が良くないというのはE氏の主観的評価であり、現実を反映しているとは限りません。彼は、能力はあるのに、その能力を使用できていないといった体験をしていることになります。能力はあるのに能力はなくなったといった体験は「うつ病」ではよく見られるものであります。これと真逆になるのが「躁病」であり、能力はないのに有ると信じ切ってしまう、現実には備わっていない能力が自分には備わっていると信じてしまうのであります。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)