12年目コラム(4)―<臨床心理士資格への嫌悪>
高槻カウンセリングセンターとして開業して(開業した平成17年を1年目と数えると)、今年、12年目を迎える。何か記念的なことをしようかと考えながらも、結局、何も思いつかず、このブログ欄にて特別コラムを書くという安易な案に落ち着いた。
その間にはいろんなことがあった。初期の頃、悩みの種は資格に関するものだった。
僕は僕でカウンセリングの資格は持っている。ただし、それは「臨床心理士」ではない。僕が「臨床心理士」の資格を持っていないということで、初めから信用されなかったことも度々あった。その都度、僕は傷ついたものだけど、それでも「臨床心理士」だけは目指さないと決めている。
振り返ると、1990年代の中ごろのことだった。当時、「臨床心理士」を国家資格へという運動が盛んだった。何も考えていなかったのか、僕はそれはそれでいいではないかと単純に思っていた。でも、この資格の蓋を開けてみてびっくりだ。それ以来、僕はこの資格をたまらなく嫌悪するようになった。
ここから少し話がややこしくなるので、注意してお読みください。
臨床心理関係には様々な学会があるのだけど、その中の一つで日本臨床心理学会というのがある。1980年代に日本臨床心理学会から枝分かれして、日本心理臨床学会が誕生する。「臨床心理士」は日本心理臨床学会が推す資格だった。日本心理臨床学会はこの資格を国家資格へ高めようという運動をするのだけど、これに真っ向から反対したのは、日本心理臨床学会のかつての母体であった日本臨床心理学会だった。こうして「臨床心理士」の資格問題に関して両学会が争うようになったわけだ。1990年代中ごろというのは、この論争のけっこうな真っただ中だったように思う。
当然のことながら、資格としての「臨床心理士」に嫌悪感を抱いていた僕は日本臨床心理学会の意見に賛同するようになった。
このコラムでは、僕がどうして資格としての「臨床心理士」を嫌悪するのか、そしてなぜそれを目指さなくなったのかを述べていこうと思う。お断りしておくけど、これはあくまでも僕個人の見解である。
もう一つだけ注意しておくことがある。僕は「資格としての臨床心理士」を嫌悪しているのであって、「臨床心理士の資格を有している臨床家」を嫌悪しているのではないという、その違いである。決して個人を攻撃しているのではないということをご理解していただきたく思う。
(誕生の経緯)
「臨床心理士」の資格の必要性は主に医療現場で働く「心理士」によって強調されたものである。教育や福祉の領域で仕事をしている「心理士」たちは、あまりその必要性を説いていなかった。
医療現場で働く「心理士」たちの仕事というのはもっぱらテストをすることだった。医師から委託されて患者さんに心理テストを実施するわけだ。それが「心理士」の仕事であって、治療とかセラピーにはほとんど関与できなかったのではないかと僕は思う。
また、医療現場で仕事をする人たちには「国家資格」がある。医師に限らず、薬剤師や看護師、さらには事務員にまで、病院で働く人たちには国家資格があるわけだ。その中で、「心理士」には国家資格がなかったので、言葉は悪いが、一段下の存在とみなされていたり、自分たちが低い立場の存在だと感じていたかもしれない。その人たちが「臨床心理士」の資格を主張したわけである。
要するに、「臨床心理士」という資格を必要としたのは一部の「心理士」だけであるということだ。彼ら自身の必要性から生まれた「資格」なのだ。決して社会や患者さんの必要性から生まれた資格ではないということである。
(医師を意識しすぎる)
そのような背景があるものだから、「臨床心理士」の資格制度は医師をすごく意識しているのだ。例えば、今はどうなっているのか興味もないので僕は知らないけれど、1990年代中ごろ当時、僕が調べたところでは、「臨床心理士」になるためには、4年制の心理学系の大学を出るか、大学院を出ている必要があった。それも「臨床心理士」協会が指定する大学である必要があった。それが受験資格である。
試験は筆記と面接から成る。筆記テストの方は過去問題集が出版されている。僕も解いてみたけれど、決して難しい問題ではない。たいへんなのは受験資格を得るまでだ。僕は協会指定の大学を出ているわけではなく、おまけに心理学方面ではなかったので、受験しようと思えば大学から行きなおさなければならなかったわけだ。
さて、その後に最低でも2年のインターン実習がある。インターン実習というのは基本的に無報酬である。はっきり言う、よほど経済的に恵まれていないとこれは取得できないな、と僕は思った。
それから審査を受けて、合格すれば「臨床心理士」の資格が得られる。この資格システムは医師免許のシステムと同じなのである。
なんでこんなシステムにするのか。僕の見解では、かつての「心理士」たちの劣等感のためであろう。あくまでも医師と肩を並べようとしているかのようだ。意地の悪い見方をすると、かつて、医師たちの下で働いていたことの恨みを晴らさんとするかのようにも見えてしまうのだ。
「臨床心理士」が医師を意識するその在り方には呆れるものもある。例えば、「臨床心理士」の資格を取得すればスクールカウンセラーになることができる。このスクールカウンセラーの時給が8000円と聞いたことがある。これは医師の給料に匹敵するのだ。つまり、お医者さんの報酬を時間給で計算すると、大体1時間で8000円になるそうだ。こんなところまで医師と張り合おうとしているのか、そう思うと、僕はますますこの「資格」を軽蔑したくなるのだ。
長くなりそうなので、<コラム5>に引き継ぐことにする。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)