8月21日(土):キネマ館~『巨大クモ軍団の襲撃』
子供の頃に観た映画で、内容もそれなりに覚えていて、確かに観たという記憶もあるのに、タイトルが思い出せず、またその後も出会う機会もなかったという映画がどの人にもあることだろうと思う。本作は、僕にとってそういう映画の一本だ。子供の頃に、多分、ゴールデン洋画劇場で観たきりの映画だ。
おそらくあの時のあの映画はこれだろうと思い、今回レンタルしてみた。ビンゴである。いくつかのシーンは見覚えがあるし、衝撃的だったあのラストもしっかり覚えていた。
「巨大クモ軍団」というと、ついつい『vsGOGOダンサーズ』を思い浮かべる(僕だけか)ところであるが、あちらがすべてCGなのに対して本作はすべてホンモノのクモである。クモ嫌いの人なら悲鳴を上げるシーンが盛りだくさんである。
舞台は牛の品評会を間近に控えているヴェルデ・ヴァレーというアリゾナの村。牧場主のコルビーが丹念に育てた牛が謎の死を遂げた。獣医であるラックは死因を調べ、さらに町から専門家のダイアンも調査に訪れ、死因はタランチュラによる毒であることが判明する。クモの巣を焼き払っても、家畜は襲われ続ける。このままでは品評会に支障が出ると考えた町長は農薬を散布して毒クモを一掃しようと立案する。農薬がクモのエサを殺したために家畜を襲うようになったのでそれは逆効果であるとダイアンが訴えても町長は聞く耳もたず、農薬散布を強行する。農薬散布するパイロットもクモに襲われ墜落してしまう。
その後、クモは人を襲い始める。ラックたちは避難しようと、その道中、姪のリンダを救出する。そして町はずれのモーテルに落ち着くが、外はもうクモだらけの状態になり、ここで足止めをくらう。クモは、換気扇、暖炉、通風孔など、わずかな隙間から入り込もうとする。クモ軍団とラックたちの一夜の攻防戦が描かれる。
一夜明けると、外は一面真っ白で、ヴェルデ・ヴァレーの町はすべてクモの巣に覆われてしまっていた。これがラストシーンなわけだけれど、まさかの人間の敗北なのである。主人公たちは助かるとは言え、「助かって良かったね」と手放しで喜べない結末である。子供心にこのラストは衝撃だったのを覚えている。この年齢になって観ても、やはり衝撃的だった。
クモたちは、動いていないやつは作り物かもしれないけれど、動いてるやつらはすべてホンマもんのクモだ。出演者たちはそれを素手でつかんだり、払いのけたりするのだから大したものだ。クモ嫌いだったら絶対に出演できない映画だ。
そのクモたちであるが、タイトルの「巨大クモ軍団」の「巨大」はクモではなく「軍団」にかかっている形容詞である。一匹一匹のクモは手のひらサイズのものばかりだ。多分、標準的な大きさのクモばかりである。そのクモたちも、自動車で轢かれたり、出演者に足で踏みつぶされたりしていてたいへんである。今だったらどこぞの団体から抗議されるところである。
俳優陣に関しては、主人公ラックを演じたのがウィリアム・シャトナーであったことを今回初めて知った。シャトナーと言えば「スタートレック」のカーク船長役で有名である。シャトナー自身はカーク船長のイメージを払拭したくてその後さまざまな映画に出たそうである。本作のようなB級作品まで出まくったそうである。
牧場主コルビーを演じたのは黒人俳優のウッディ・ストロードである。この人もキャリアの長い俳優さんだ。西部劇にもたくさん出演している。この人の出演で僕が好きなのは『ウエスタン』のオープニングだ。
その他の出演者はまったく知らない。ラックの姪っ子リンダは5,6歳くらいの女の子なんだけれど、三度もクモたちに取り巻かれるというシーンに臨んでいて、本作での功労賞を授与したいくらいだ。
本作はB級作品の割にはよくできていると僕は思う。個人的には4つ星を進呈しよう。クモが人間を占領してしまい、「後のことは知らん、勝手に想像せい」とばかりに観客を突き放すラストシーンに賛否が分かれそうだけれど、僕は「有り」の方に投票したい。低予算ながらよくできた映画である。ただし、クモ嫌いな人にはお勧めしないけれど。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)