7月29日:キネマ館~『怪奇!兎男』

7月29日(火):キネマ館『怪奇!兎男』

 僕の飲み友達にホラー映画が好きだという人がいる。先日もその人と会って、ホラー談義で楽しいひと時を過ごさせてもらった。その時、それぞれ今度の休みの日はホラー映画を見ようと約束した。つまり、お互いに新ネタを持ち寄ろうということだ。
 今日は僕の休みだ。日中、炎天下をテクテクと歩いてレンタル屋さんに行く。そのレンタルビデオ屋さんは、少し離れていて不便だけれど、商品が豊富で気に入っている。
 さて、汗だくになって店内に入り、ホラーのコーナーに向かう。たくさんあるなあと思う。パッケージ見ると、どれも怖そうだなあなどと思う。ホラーも恐怖系とかショック系、嫌悪系などの種類がある感じがする。
 いろいろ見ていて、ふと思う。僕はホラー映画を全く見ないわけではないけれど、今はそういう気分じゃないなと。怖いのを見たくなる時とそうでない時とがあって、今はホラーの気分じゃないなと。
 でも約束しているしなあと思い、どうしようかと迷う。結果、怖くないホラーを借りようということに決まる。どうせ話のネタにするだけなんだから。
 さて、怖くないホラーと言うと、絶対に棚のゴールデンゾーンにはない。最上段か最下段、そして棚の端っこの方に忘れられたように置いてあったりするようなやつだ。
 ホラー映画っていうのは、8割、9割が低予算のB級作品なのだ。そんな中で、ごく稀に低予算ながらヒット作が生まれたりする。アイデアが凝っていたり、個性的だったり、筋がひねってあったりする作品で、それらはA級作品にはない魅力もあり、尚且つ、A級ではそういうアイデアは絶対に出ないだろうと思うこともある。そのような時に、B級がA級を見返してやったかのような爽快感を僕は覚える。
 まあ、それはともかく、棚を探す。「死霊の盆踊り」があればいいなと思うが置いてないようだ。だから他に何か手頃なのを探す。
 あった、あった。「怪奇!兎男」。これは絶対に怖くない。そう信じ、借りる。

(『怪奇!兎男』)
 映画評論家の江戸木純さんが書いていたように記憶しているのだけれど、アメリカとかではB級作品にツッコミを入れながら楽しんだりする風潮があるそうだ。日本ではあまりそういう観方はされないようだけれど、それなりにB級作品の需要もアメリカではあるようだ。
 本作、『怪奇!兎男』もツッコミどころ満載だ。トニー・アーバンという人が制作、監督、脚本とやっている。一人が何役もこなしているのは低予算のB級の証拠だ。
 物語はこうだ。動物愛護団体の女性たちが動物研究所から檻に入れられている一匹のウサギを解放する。それは遺伝子操作されたウサギだということらしい。立派な建物の研究所なのに、動物がウサギ一匹しかおらず、尚且つ、そのウサギがぬいぐるみなのだ(笑)。それを隠そうともごまかそうともしないで、ぬいぐるみであることがバレバレなのだ。
 森に逃げたウサギを、一人の孤独で内気な青年が見つける。青年は自分の畑に入ったウサギを追い払おうと格闘する。地面に這いつくばり、転がり、ぬいぐるみ相手に格闘するわけだ(笑)。その時、ウサギに引っ掻かれてしまう。
 青年はその後、前歯が突出し(付けているだけなのが丸わかり)、耳がとんがり(これも付けているだけ)、ウサギのような丸い糞を出すようになり(チョコボールだ)、ウサギのようにぴょんぴょん跳ねるようになり、そうしてウサギ男になってしまう(笑)。もちろん、CGも何もなしだ。
 くだらない設定だけど、お色気だけはしっかりある。婦警、研究所職員、記者、売春婦、そして「パイパイパイ・クラブ」(大笑)のメンバーたちと、女性陣は豊富だ。「パイパイパイ・クラブ」ってなんだ?と思うが、実態は分からない。入会にはメンバーのお仕置き(お尻をスパンキングされる)があり、枕で叩きあう(日本だと枕投げ)ことなんかの活動をしているようだ(爆笑)。
 町の人たちはウサギ男に次々殺されてしまう。まったく緊張感も恐怖感もないシーンが延々と続く。そしてウサギ男を退治するために女性陣が立ち上がる。彼女たちは作戦を練る。また、ウサギ男に警戒されないために自分たちもウサギに扮する。要はバニー姿になるだけなのだが。
 5人の女性たちがバニーの衣装に着替える。この着替えのシーンもしっかりあるというのがB級感があって良い。そうして、ウサギ男の家に、バニーちゃん5人が颯爽と向かう(大爆笑)。
 そしてエンディングロールで、キャストやスタッフの名前が流れた後、「この映画では動物をいっさい傷つけていません」という文句が出てくる。そりゃそうだろう。動物なんて一匹も出て来ないんだから。

 ああ、面白かった。学芸会並みの演技、悲鳴とお色気、それにツッコミどころだけはしっかりある。でも、見ても何も残らないというのもすごい。
 B級映画を見ると、一流の映画を作るっていうことは本当に難しいんだなあと感じる。喜劇のように人を笑わせることも難しいし、ホラーもまた人を怖がらせるためにはいろんな工夫とか技術を駆使しないといけないのだなと思う。
 映画を知ろうと思うのなら、B級作品を見た方がいいということを今日は再確認した。

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

(付記)
 いいネタを仕入れたと思い、その友達と次に会った時、この映画の話をした。友達も大ウケだったけど、「もうちょっとちゃんとしたやつを観てよ」と叱られてしまった。もう、その友達とも会うことはなくなった。その人との愉しい思い出になった。
(平成29年2月)

 

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