7月24日:書架より~『サラリーマンの自殺』

7月24日(月):書架より~『サラリーマンの自殺』 

 

 本をいくらか処分しようと思っている。大は小を兼ねるとも言うので、大著は小著も兼ねているだろう(これはある程度そうである)と思う。そういうわけで、小著から取りかかるとするか。 

 ということでいくつかの小著を選び、それをもう一度読んで、残しておきたいところはノートにとるなりコピーをとるなりして保存し、もう一度頭に叩き込んでから捨てるということにする。ただ捨てるだけではなく、読み捨てる。 

 それで最初に選んだのが本書『サラリーマンの自殺』である。岩波ブックレット493、川人博・高橋祥友編著である。 

 本書は1999年6月17日に開催されたシンポジウムからの編集である。前年の98年に日本の年間自殺者数が初めて3万人を超えた。その社会的衝撃も大きかったので、このようなシンポジウムが催されることになったのだろう。さっそく、本書を紐解いてみよう。 

 

 開巻冒頭に岡村親宜弁護士の『はじめに』が置かれている。過労自殺を専門にしている弁護士さんでもあるようだ。 

 最初の発表者は編者の一人である川人博氏の『「過労自殺対策緊急事態宣言」を』である。時代がそういう時代であったのだろうけれど、サラリーマンの自殺が過労自殺の観点から取り上げられていることが伺える。それでも、自殺相談の4つの特徴は20年以上経た現在でもあまり変わらないかもしれない。その他、予防に関する事柄、遺族に関する事柄にも言及されているのは当然としても、「中高年いじめ」が取り上げられているのも特徴的だ。いじめは「中高生」だけのものではないのだけれど、その認識がようやく生まれ始めた時代だったかもしれない。 

 続く二つ目の発表は高橋祥友医師による『精神科医からみた自殺の実相』である。まず、統計的資料に基づいて日本の自殺事情を解く。それから自殺の危険因子を取り上げる。この危険因子も昔も今も変わらない感じがしないでもないが、事故傾性まで取り上げているところが精神科医らしい。そこから話は、自殺と縁の深い病気である「うつ病」に移る。うつ病の諸症状、その性格傾向、さらには事例も紹介する。話は自殺に戻って、自殺すると打ち明けられたらどうするかというテーマに入る。この考え方に反対はしないけれど、僕は賛成もしない。最後にマスメディアによる報道についての言及で終わる。群発自殺に関する記述は興味深かった。 

 続いて『相談の現場から』と題して、3名の発表が掲載されている。三者それぞれの立場からこの問題を述べる。 

 ただ、二人目の設樂清嗣氏の発表は、一人一人にカウンセリング能力が必要であり、カウンセリングトレーニングを私たちの日常的活動のテーマにしていくことが大切であると説いている。個人の意見なので僕は口を挟むつもりはないけれど、四六時中カウンセリングマインドを持つなんて、常にカウンセラーでいることが求められるなんて、ゲンナリする内容だ。僕には絶対無理だ。こいつはマジでそんなこと考えてるのかと、訝りたくなった。 

 4つ目にパネルディスカッションが設けられている。参加者(聴衆)からの質問に発表者が答えるという体裁である。ここでなされた質問の中には現在でも未だ答えの出ていないものもあると思う。一方で、それはその質問に答えたことにはなっていないのではないかと思うような回答がされているように感じた部分もあった。 

 それにいちいち釘を刺すつもりもないんだけれど、例えば、自殺者は自殺する前に「死にたい」などと誰かに訴えることがある。そう訴えられた人は、それこそカウンセリングマインドを持って、自殺希望者の気持ちを受け止め、且つ、そこから逃げ出してはいけず、徹底的に聞き役に回り、そうして自殺希望者の自殺予防につなげるのだということらしい。もっともなことを言っているのだけれど、でも、その人が本当に自殺した場合、訴えられた人、その自殺者を受け止めたとされる人はどうなるのだろうか。自殺者の心情を本当に理解していたか、真剣に向き合ったか、安易な励ましとかしていないか等々、そんなことを問われるようになるのだろうか。結局、これは自殺者によって非自殺者が苦しめられる一パターンに過ぎないではないか。二次被害を拡大する可能性の高い思想ではないかとも僕は思うのである。 

 従って、自殺者の自殺は食い止めることに限界があるという認識をすべての基礎におかなくてはいけないと僕は思うのだ。自殺者の自殺は予防できるという認識を基礎の部分においてはいけないと僕は考える。自殺を食い止めることに失敗した非自殺者が責められて、その非自殺者が自殺に追い込まれるようなことになったとしたら、一体、何を予防しようとしていたのか、その意味が分からなくなるってものだ。 

 

 さて、本書の内容は以上の通りで、すでに僕の感想なんかも述べてしまった。あとは特に補足することも見当たらないので、ここまでにしておこう。本書との付き合いもこれで終わりだ。今はあまり本書から学べるものがなくなってきた。処分してもよしと思えている。 

 

<テキスト> 

『サラリーマンの自殺』岩波ブックレット493 岩波書房 

川人博・高橋祥友編著 1999年 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

 

 

 

 

 

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