7月18日:キネマ館~『トプカピ』

7月18日(金):映画『トプカピ』

(『トプカピ』)
 さて、VHSを整理していると、昔録画した映画なんかも見つかる。好きだった映画をそこで発見した時はとても嬉しくなる。
 『トプカピ』が、消されずに、残っていたのは嬉しかった。思わず見てしまった。
 この映画、エリック・アンブラーの原作で、ちょっと不思議な雰囲気のあるミステリ映画だ。
 オープニングの色鮮やかな映像、見世物小屋のような雰囲気のセット、時代は感じさせるけれど、どこかノスタルジックでファンタジーのような感じを受ける。
 でも、それはオープニングだけの話。主人公たちの宝石窃盗計画が進行し、舞台がギリシャに移る頃には、すっかり現実感を取り戻して、見入ってしまう。
 原作では、彼らの目的が宝石を盗むことにあるということも伏されていたように思う。映画ではそれを最初に提示して、この窃盗の手段と計画遂行への過程を追う。
 この物語を面白くしているのが、シンプソン(ピーター・ユスチノフ)である。シンプソンはギリシャでガイド、遺跡販売からポルノ写真の密売と、要は金になることであればなんでも飛びつくような人である。
 そこに現れた窃盗団のリーダーであるウォルター(マクシミリアン・シェル)らにシンプソンは雇われる。自動車をトルコまで運転して、ある人物に渡してほしいという依頼だ。金欲しさに安易に引き受けるシンプソンである。
 国境の税関に差し掛かる。シンプソンのパスポートが期限切れであることから、車が念入りに探索されてしまう。車から武器が発見されてしまい、トルコ情報局の尋問を受けることになった。
 逮捕を免れたい一心で策を弄すシンプソンだが、結局、トルコ情報局に彼らの監視と報告を義務付けられて釈放される。つまり、ウォルターたちをスパイすることになったわけだ。
 彼らは窃盗計画を練る一方、シンプソンは情報集めに懸命になる。その懸命ぶりさもまたユーモラスだ。
 その後、メンバーの一人が手を負傷し、シンプソンが代役として選ばれてしまう。最初に窃盗団のウォルターに雇われ、次にトルコ情報局に雇われ、そして金の魅力に負けて、トルコ情報局を裏切り、ウォルターらに協力することになったわけだ。この同調性がいい。
 同調性と言えば、ピーター・ユスチノフの体形がクレッチマーの言う「躁うつ気質」タイプの体格とよく一致する。つまり、絶妙な配役という感じがする。
 ギリシャ、そしてトルコのイスタンブールの街並みや情景も異国情緒があって、見ていて面白い。トルコではバック・ギャモンとレスリングが盛んなのかとも思うし、向こうのレスリングは一斉に競技するということも知らなかった。
 そして、全篇に流れる音楽がいい。僕はサントラ盤を持っている。それくらい好きだ。
 この全体の賑やかさとは対照的に、宝石を盗むシーンの静寂感が際立つ。本作のクライマックスのシーンで、緊迫感が高まると同時に、初めてその計画の全貌が見られるのだ。ああ、そういう方法をするのかとか、ここでこれを使うのかといったことがそこで、ジグソー・パズルのように、組み合わさっていく感じがする。
 ほんと、よくできた映画だなと思う。一見の価値あり、というところだ。

 気質と体形の話が出たのでついでに述べておこう。
 ウォルターは計画のためには非情にもなれるし、あまりに知的である。スラリと痩せた体格から「分裂気質」に該当するだろう。
 エリザベスはきらびやかな宝石に目がない。また色情的であり、情熱的でもある。「分裂気質」を感じさせるけれども、「躁うつ気質」をも併せ持っているかのよう。特に「躁的」な感じが色濃い。ウォルターとシンプソンの橋渡しができるのも頷ける。
 ハンスは激情的で、呑兵衛のコックとケンカするくらいだ。骨格ががっしりして、筋肉質の「てんかん気質」ということになろうか。「てんかん気質」を思わせるのはハンスだけで、だから彼だけが最終的に孤立してしまう。
 セドリックは「躁うつ気質」を感じさせるし、口のきけないジョセフは「分裂気質」を思わせる。ジョセフは命令に従うだけという場面が多く、機械のように正確に任務を遂行していくし、また、積極的に他者と関係を持とうとしていないように見えるので、やはり「分裂気質」を思わせる。
 こうして見ると、ウォルター、ジョセフの二人、シンプソン、セドリックの二人とがエリザベスを中間に挟んでうまく結合しているという人間関係が見えてくる。残念なことに、ハンスはどこにも属さない。他のメンバーと共通性が少ないからだと僕は思う。
 まあ、勝手に作中人物たちを分析してみたが、別にこんなことをしなくても作品は十分楽しめる。ただ、こういうところにもキャスティングの上手さを僕は感じているということなのだ。また、強烈なインパクトを残す、サングラスをかけたトルコ情報局リーダーもナイスな配役だ。

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

(付記)
 とりとめもないことを書いているな。でも、これは僕の好きな映画の一つだ。ついつい余計な分析までしてしまう。こういう映画が近年は少なくなったなと思う。
(平成29年1月)

 

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