6月23日(火):唯我独断的読書評~『連想実験』(C・G・ユング)
僕が最初にユングにハマった本だ。『変容と象徴』や『タイプ論』などよりも、はるかに面白いし、勉強になる。ユングは、やはり、初期に限るなとあらためて思う。
連想実験というのは、単語連想テストのことである。江戸川乱歩の「心理試験」でも登場するテストである。このテスト自体はそれ以前からあったものだが、その着眼点や解釈はユング独自のものだ。この研究でユングは注目されることになったのだ。
ユングのその後の研究も、この単語連想テストの研究が常にベースにあるはずなのだが、ユング派の人でもあまりこれに触れる人は多くない。夢、神話、象徴、錬金術などに関するテーマは、いくらも本が出されているのに、連想実験の本はめったに見かけないのは残念である。それはつまり、ユングを勉強しようとする人が、ユングの基礎になっている部分を学ばないままテキストを手に取ることになってしまうからである。
そう考えると、僕が最初のユング体験をこの本でしたことは、けっこう幸運なことだったのかもしれない。あれは1993年頃だったと思う。夢中になって読んだ。当時、本友達がいたのだけれど、彼にもこの本を貸してあげたことがある。彼も面白いといって読んでいたのを思い出す。僕個人は、それから二度くらい読んでいるのだけれど、今回、少し久しぶりに読んだ。それでもやっぱり面白いと思う。
ユングが注目するのは、単語連想テストにおける、反応の乱れである。それらは誤反応として処理されてきたのだけれど、そこに被験者のコンプレクスが現れると気づき、実例を通して証明していく。フロイトに対しても好意的だった時期の論文であり、嬉しくなってくる。
ヒステリー患者、癲癇患者の施行例を挙げて、どういうところで、どういう形でコンプレクスが現れるかを説くあたり、推理小説を読むような楽しさがある。このテストを用いて、盗難事件の犯人を特定したという事例も面白い。また、決してコンプレクスを見せないとして、どの単語を言われても一つの単語でしか答えないと頑なに決めた男性の例でも、その一つの単語がすでにコンプレクスの表れであり、実際のテストでもきれいにコンプレクスを現しているところは、読んでいて爽快ですらある。
あと、近縁関係にある者同士の反応は類似するかといったテーマや、家族布置のテーマも興味深い。
最後の二章は、単語連想テストよりも、コンプレクスについてのものであるが、コンプレクスの概念も布置という概念も、初期の頃の見解は理解しやすい。
学術論文でもあるので、細かなデータが提示されているけれど、難しければそこは読み飛ばしても大丈夫である。それでも内容は理解できる。
あと、これは訳語の問題であるが、「繰り返し」「反復」「再生」といった言葉をきちんと使い分けてほしいと思った。使い分けができている箇所もあるけれど、「反復」と「再生」が区別されていない箇所もあり、ちょっと混乱したところがあった。
確率平均ということも少し説明がほしかったな。あとがきを読むとそれが分かるのだけれど、脚注にでも入れておいてくれたらと思う。
さて、本書の評価であるが、これは五つ星間違いなしだ。内容もさることながら、フロイトと仲が良かった時代のユングの姿が魅力的だ。ここにはアーキタイプもヌミノースも出てこない。アニマとアニムスも、影も大母も出てこない。神秘的なことは何一つ登場しない。一途なほど実際的で、臨床的なユングの姿がある。
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)