5月6日:キネマ館~『スリーパー』

5月6日(土):キネマ館~『スリーパー』 

 

 冷凍睡眠による200年の眠りから目覚めた男。そこは独裁者が統治する警察国家だった。男は異端として警察から追われる身となる。道中、女と出会い、女もまた追われる身となる。国家警察から逃走する男と女。男は国家につかまり、洗脳されてしまう。女は政府の転覆を狙う地下組織と合流し、彼らは男を国家から救出する。洗脳を除去されて、男は女とともに政府の中枢に潜入し、政府の陰謀を阻止し、地下組織を勝利に導く。 

 こんなふうに書くとどんだけ本格的なSF作品だと思われるかもしれない。でも、ウッディ・アレンがやるとそうならないから面白い。 

 

 それ以前に『アニー・ホール』や『マンハッタン』などを観たことはあるけれど、「ウッディ・アレンって、そんなに面白いの?」ってのが僕の正直な感想だった。いや、その二作品は映画としてはよくできていて、僕も好きなんだけれど、ウッディ・アレンからコメディアンの感じは伝わってこないのだ。僕の中では、ウッディ・アレンは映画作家といった位置づけであって、喜劇役者ではなかった。 

 本作は僕のその認識を改めさせたのだ。本作で僕はウッディ・アレンが好きになったといってもいい。チャップリンやキートンのような正統的なドタバタコメディで、理屈抜きで楽しめる作品だ。 

 それにしても、ウッディ・アレンが体を張ること。一つ一つの動きがまたコミカルで面白い。召使ロボットのくだりや長いテープレコーダーに巻き込まれるところなんて、チャップリンへのオマージュみたいな感じがある。 

 

 喜劇の方は言葉で説明するよりも、実際に観た方がよろしかろう。僕が説明したところで面白さの1割も伝わらんだろう。もう少し作品内容に関して僕の思うところを述べておこうか。 

 先述のように、そこは独裁国家である。この政府に不満を抱く者も多いわけだ。200年の冷凍睡眠から彼を蘇生させた医師たちは、彼に政府転覆を期待するのである。彼が国家に登録されていないからである。その人々の期待を背負ったヒーローがウッディ・アレンである。人々を救済するヒーローが小心者で、見栄えもパッとしない、冴えない小男なのである。また違った意味でのアンチ・ヒーローをアレンが演じているわけだ。そこがいいとも思う。 

 200年後の世界はどうなっているのか。人々の生活はさまざまな文明の利器に囲まれている。セックスや自慰でさえ、機械仕掛けなのはなんだか象徴的だ。だから人々は政府に不満があっても反抗しなくなるのか、などと思ったりもする。 

 音楽もまたごきげんだ。200年後の未来の物語なのに、音楽は古めかしいジャズだ。ディキシーランド系のノリノリのジャズ音楽が作品に陽気さを添える。 

 

 他の俳優陣としては、アレン映画ではお馴染みのダイアン・キートンヒロイン演じるこの人はいいね。僕の好きな女優さんの一人だ。本作では芸術家で、陽気で、天真爛漫なところもあり、どこか抜けてるところもありと、憎めないキャラを演じる。『アニー・ホール』のような翳りのある役もいいのだけれど、本作の方が魅力的だ。 

 地下組織のリーダーを演じるのはジョン・ベックだ。70年代にはたくさんの映画に出ていた人で、一般の人がヒーローとしてイメージするのは、アレンよりも、彼の方ではないかと思う。男前の戦士といった感じだ。 

 あと、国家警察警官たちも忘れてはいけない。ドジばっかりやって、アレンとともにドタバタのスラップスティックをやってのける重要な役どころだ。全身ユニフォームに身を包んで個性がない。それは召使ロボットも同じだ。こういう役はすべて没個性というか、無個性なのだ。でも、どういうわけか人間的に感じるのは僕だけだろうか。彼らの動きが機械的でありながら、機械になり切れていない感じがあり、同じ印象を警察官の方にも受けるのだ。 

 

 好きな映画の話になると尽きることがないので、この辺り止めておこう本作は僕のオキニーだ。 

 

寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

 

 

 

 

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