4月14日:『不思議な物語』を読む(1) 

4月14日(金)『不思議な物語』(リットン)を読む(1) 

 

 昨年の12月にレオーノフ『泥棒』を読んで以来、規模の大きい長編小説を読む気にはなれなかった。この間、短編小説などはいくつも読んだが長編小説には手を出す気にはならなかった。気分が乗らないのだ。 

 今回。再び規模の大きい長編小説を読もうという気持ちが生まれ始めたのだ、これを機にE・ブルワー・リットン『不思議な物語』(A Strange Story)に着手する。約90章から成るこの小説を、10章ずつ区切って、読んだ部分のメモを残す。今回、第1章から第10章までを読み終えたので、ここに記す。 

 

 物語は私(語り手、フェニック)がLの町に来るいきさつから始まる。旅行中、Lで医師として働くフェイバー博士を助けたことから、フェニックはフェイバーの後任としてLの町で働くことになる。その後、フェイバーは引退する。 

 Lの町にはアベーヒルと呼ばれる上流階級の住む世界があり、職人たちは下町に住んでいる。ヒルの住人で、町を取り仕切っているのがポインツ夫人である。 

 ヒルの専属医師として、ポインツ夫人らはロイド博士に決定する。ロイド博士は修道院長の館に住むことになる。ロイド博士は、フェニックと見解を異にする人物で、動物磁気や催眠術などの神秘な事柄を治療に持ち込む。 

 その後、ロイド博士は病に倒れ、フェニックに呪詛の言葉を残して他界する。 

 ある時、診察の帰途、フェニックはロイド博士を思い出し、修道院長の館に足を踏み入れる。彼はそこで美しい女性を見かけ、魅惑される。この女性がリリアン・アシュレーである。 

 アシュレー夫人は、ヴィガーズ氏の薦めで修道院長館へ越してきたのだった。ヴィガーズ氏とは法律家でロイド博士と親交のあった人物である。 

 フェニックは、ポインツ夫人の晩餐に招待される。その時、フェニックが恋をしていることが明らかにされる。その場で、アシュレー家の名使いが来て、リリアンの具合が悪く、医者を探しているという話が飛び込んでくる。フェニックはアシュレー家を訪れ、リリアンの治療を施す。 

 

 第1章から第10章までと、任意で区切ったのだけど、フェニックがLの町に住むようになるいきさつから、ロイド博士との確執を経て、リリアンと出会うまでが描かれている。 

 フェニックは、現実的で、実直で生真面目な医師であり、迷信や神秘的なものを極力排除しようとするところがある。名声や富に対する執着も薄く、研究一途な学徒でもある。そんな彼だから恋愛に対してはどう対処していいか分からないのだろう。ポインツ夫人とのやりとりで、その指摘によって、彼は自分が恋をしていることを知るくらいである。 

 しかし、このくだりはとても面白かった(第7章辺り)。ポインツ夫人はそれを見通しているのである。それでもフェニックの意に反するようなことを示唆して、フェニックに自覚させようとしているようで、なかなか凄腕だなと僕は感じた。 

 

 さて、物語はまだ序盤である。今後、これがどんなふうに展開していくのか楽しみである。何とか、挫折することなく、この長編小説を読み終えたいものである。 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

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