3月8日:ヘンテコな脅迫状 

3月8日(水):ヘンテコな脅迫状 

 

 いやあ、笑った笑った。大いに笑わせてもらった。こんなに可笑しい思いをするのも久しぶりなものなので、さっそく今日のブログにしたためよう、と即決したよ。 

 クライアントさんが脅迫状を受け取ったというのだ。それで不安に襲われていたというので、僕もその脅迫状を拝見させてもらったわけだ。ところが、その脅迫状の可笑しなこと。 

 受け取った方は気味が悪いと思うのは当然で、僕が面白がるのもその人に申し訳ないんだけれど、第三者から見るとそれが面白くてしょうがないのだ。 

 

 この人が脅迫状を受け取るのは二通目だそうだ。前回の文面よりも今回の方が内容的に激しいようである。同一人物によるものなのか、別人のものなのかは、一通目も目を通さないとなんとも言えないのだけれど、おそらく同一人物ではないかと思う。 

 高槻のごく限られたエリアにそういう脅迫状が配られているらしい。どうも深夜にこっそりと家のポストに投函するようである。 

 おそらく、最初に試みた時にはほとんど反響がなかったのだろう。それで二回目は内容をもっと激しくしたのではないかと思う。でも、中には脅迫状通りに行動した被害者もいるかもしれず、それで味を占めて再度脅迫状配りをしたとも考えられる。その辺りはよく分からないけれど、きっと従わなかった人の方が多かったのではないかと思う。 

 

 その脅迫状の全文を先に載せておこうか。一字一句その通りではないけれど、大体このような構成である。 

 

 「はじめまして。 

 これはあなたとあなたの家族に関係するものなので、最後までお読みいただくことをお勧めします。 

 〇月〇日の19時~21時の間に、〇丁目の郵便ポストの上に三万円を封筒に入れてテープで貼ること。雨天の場合は封筒が濡れないよう袋にいれること。 

 警察に知らせても無駄だ。実行犯を捕まえても、自分たちの組織はびくともしない。生活困窮者から募集すれば実行犯はいくらでも確保できる。 

 もし、指示に従わなかったら、あなたの氏名と住所をSNS上にばらまく。氏名も住所も分かっているのだ。 

 一回目の指示に従わなかったら、二回目はペナルティを課す。それでも従わなかったら三回目はさらにペナルティを課す。(一覧表が添付)。 

 もし一回目の指示に従ったら、以後、続けて要求されるのではないかと思うかもしれないが、自分たちはそういうことをしない。もし、こちらが続けて要求すれば、あなたは全力で抵抗してくるだろうからだ」 

 

 脅迫状はまず、 

 「はじめまして」から始まる。次いで、 

 「これはあなたとあなたの家族に関係するものなので、最後までお読みいただくことをお勧めします」といった文章が続く。 

 ずいぶん丁寧で親切な脅迫状だな、と僕は思った。 

 

 そこから急に本題に入る。 

 「〇月〇日の19時~21時の間に、〇丁目の郵便ポストの上に三万円を封筒に入れてテープで貼ること」と指示がある。 

 ご丁寧に「雨天の場合は封筒が濡れないよう袋にいれること」などと書き添えてある。 

 これの何がおかしいかと言うと、金額と指定場所も、尚且つ雨天の場合のことまで事細かに指示が書いてあるのに、時間だけ19時~21時と幅があることである。非常にアンバランスな感じがする。 

 こういう場合、「19時に置け」などと、時間を明確に指示するはずである。そうでなければ、この犯人は19時から21時まで2時間もポストの前で見張っていなければならなくなる。犯人にとってこんなリスクの大きいことは避けたいはずである。もし、目を離したすきにポストの上に置かれたとしたらどうなるか。通りがかりの親切な人は、ポストの上に封筒が置いてあるのだから、それをそのままポストの投函してくれるかもしれないし、警察なり郵便局なりに通報してくれる人も現れるかもしれない。犯人はどういうつもりだろうか。 

 こういう脅迫行為で、犯人にとってもっともリスクがかかってくるのが、お金の受け取り場面であると思う。そのように考えると、犯人にこのリスクをできるだけ避けたい思いが割り込んできたのかもしれない。これだけの金額をここに置けと指示している最中に恐れが生まれて、それが時間指定の曖昧さとなって現れたのではないかと思う。 

 

 続いて、「警察に知らせても無駄だ」ということが記してある。 

 「実行犯を捕まえても、自分たちの組織はびくともしない。生活困窮者から募集すれば実行犯はいくらでも確保できる」というようなことが記されている。 

 わざわざこれは組織犯罪だと自白してくれているのである。金を取りに行くのは闇バイトで募集した実行犯である、とのことらしい。 

 3万円で危険を冒す実行犯が本当にいるのかね、とも訊きたくなる。でも、それ以前に、組織のトップクラスの人間が脅迫状を書くかね。脅迫状を書く人間も闇バイトで応募するはずだろうと思うのだ。というのも、脅迫状を書いて送りつけることは、現金を取りに行くことの次にリスクの高い行為であるように思う。だから、組織のトップは、現金を取りに行くことも、脅迫状を書くことも、どちらも手を染めないだろうと僕は思うのだ。 

 従って、組織なぞ存在しないのだ。本当に組織犯罪であれば、自分たちは組織だなどと言わないはずである。いつでも末端の実行犯を切り捨てることができるように、そこは明記しないだろうと思う。 

 僕が思うに、最初に指定場所に指定金額を置けと書いたところで恐れが表れ、それが指定時間の曖昧さにつながり、さらにその恐れから「自分たちは組織でやってる」などと大風呂敷を敷かなければならなくなったのだろうと僕は思っている。怖くてしょうがないのだな。 

 それよりも、闇バイトで募集すれば生活困窮者から実行犯を確保できる、というようなことをわざわざ書くかね。むしろ、この脅迫状を書いている当人が生活困窮者なのだろうと僕は思うのだが。うっかり自分の情報を漏らしてしまったのではないか、という気がしないでもない。もし、そうである仮定すればこの犯人精神的緊張力が持続しないのだろうな。人格水準が低下して、自我漏洩してしまうのかもしれない。 

 

 文面はさらに続いて、 

 「もし、指示に従わなかったら、あなたの氏名と住所をSNS上にばらまく。氏名も住所も分かっているのだ」といった内容が続く。 

 ここが恐喝の部分になるわけだけれど、指示に従わないと氏名と住所をSNS上で発表すると言っているだけである。相手の弱みを握っているとか、秘密を嗅ぎ当てているとか、そういうことを何も言っていないのである。要するに、強請りのネタを何も持ち合わしていないということが見え見えなのである。 

 

 続いて、「一回目の指示に従わなかったら、二回目はペナルティを課す。それでも従わなかったら三回目はさらにペナルティを課す」などということが書いてあり、以後のスケジュールまでご丁寧に記載してくれている。 

 一回目、〇月〇日、3万円、ポストの上に置く。 

 二回目、〇月〇日、5万円、どこそこに置く。 

 三回目、〇月〇日、10万円、どこそこに置く。 

 四回目、〇月〇日、30万円、複数人で家に押し掛ける。 

 こんな一覧表を載せてくれているわけだ。この犯人はずいぶん親切な人だなと思ってしまう。 

 これを例えば、「一回目の指示に従わない場合、さらなる手段を用意している」などと言う方が脅迫状としては「正しい」と僕は思う。こんな事細かに計画を記すなんて、犯人はとても親切な人であるか、強迫的な人である。 

 それよりも、最後のやつなんてひどいものだ。複数人で家に押しかけるとしか言っていないのである。家に押しかけて何をするかまでは言えないのである。要するに、ハッタリである。本当に組織員がいるなら、こういう人間が押しかけてきて、こういう行為をするぞなどと書けるはずである。 

 

 犯人の親切はさらに続く。 

 「もし一回目の指示に従ったら、以後、続けて要求されるのではないかと思うかもしれないが、自分たちはそういうことをしない。もし、こちらが続けて要求すれば、あなたは全力で抵抗してくるだろうからだ」といういささか支離滅裂な内容で締めくくられている。 

 ここは、「一回目の指示に従ってくれたら、氏名と住所をSNS上で公表したりはしない」と書くのがスジというものだ。結局、何を強請っているのか書いている脅迫者が見失っているということではないか、という気がする。 

 だから、脅迫者は「お願いだから、三万円だけちょうだい」と言っているような気がしてくるのである。非常に小心者の切実な願いという感じを僕は受ける。 

 

 犯人が本当に恐喝するつもりなら、もっとましな脅迫文を書くだろう。それに、限られたエリアに複数軒投函するということもしないだろう。一エリアに一軒くらいにして、広範囲に投函するだろう。エリアが集中しているということは警察に手がかりを与えることになるからである。どのエリアの家が狙われているのか分からないようにして、できるだけ手がかりをつかまれないようにするものではないか。 

 ましてや同じ家に二通も脅迫状を投函するなんて、犯人の手落ちである。こういう強請りは見込みがないとなれば次のカモを探すものである。同じ家に投函すると、それだけ手がかりを残すことになるからである。同じ家に何通も送るほど犯人にとっては不利になるはずである。 

 

 この脅迫状を書いた人物は、おそらく犯罪に手を染めるような人間ではなく、とても小心者であり、三万円くらいなら払ってくれるだろうとでも期待しているのか、要求する金額にも小心さが表れているように思う。また、小心さは妙な親切となっても示されているようだ。 

 そして、恐る恐る書いていったのだろう。葛藤しながら、あるいは迷いながら書いたという感じが濃厚である。それが指定時間に表れ、組織犯罪を仄めかし、最後の支離滅裂な締めくくりにつながっていったのだろう。そういう感じを僕は受ける。もっと言えば自分書いている脅迫文に恐れをなし、人格水準が低下しているようにも思われてくる。自分で心的緊張を高めておいて、そうなっているのだから笑い話もいいとこだ。 

 

 僕だったら、逆に、その日の19時から21時までポストの前に立っていたい。一体、どんな人間が封筒を取りに来るのか一目見たいと思う。もちろん、封筒の中身は空っぽである。 

 そうだ、忘れていた。犯人は相手が正直にお金を封筒に入れて置いてくれると初めから信じているのである。自分が出し抜かれるかもしれないというようなことは考えていないのだろうな。とても人のいい犯人である。まあ、脅迫状を送るというようなことは止めなはれ。そういうことには向いてない人であるようだ。 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

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