12月12日:女性友達に捧げる(7)

12月12日(月)女性友達に捧げる(7)

 

 僕はカウンセリングの仕事をしているけれど、友人や身内のカウンセリングはとてもできないだろうと密かに思っている。実際、そういったことを経験したことがないので、いざそのような場面になると、できるのかできないのか、自分でも分からない。でも、できたとしても、けっこう辛い体験となってしまうだろうと思っている。かつて愛した人を、あたかも臨床事例のように分析しているが、これはけっこう辛い作業であると実感している。

 今頃、彼女は僕を恨んでいるか、畏れているかしているだろう。そして男運の悪さを嘆いているかもしれない。なるほど、僕も含めて、彼女と縁のある男性はみな、どこか「病理」を抱えているかもしれない。しかし、たとえそうだとしても、満足な恋愛ができていないということが、彼女の「問題」であるはずなのである。だから、彼女が「何で彼はあんな人なのか」を追及することを止め、「何で自分はこうなるのか」を追及するようになったとすれば、彼女は一歩前へ進んだことになる。でも、その可能性は低そうである。彼女はとても自分自身を見ることに耐えられない人だったと、僕は捉えている。

 一度だけ、彼女のマンションに上がらせてもらったことがある。そこに、前の男と一緒に写っている写真が飾られているのを見て、僕は絶望的な気持ちに襲われた。その時から、僕は、彼女が実は前の男のことを処理できていないのだということをはっきり悟った。彼女の話から、この男のことは、彼女の中では過去になっている、もしくは過去になりつつあるという印象を抱いていた。ところが、この時、初めて僕は僕の認識が間違っていたことを悟った。この男のことは過去になっているどころか、彼女の中では今現在でも関係が続いているということを知ったのだ。この写真を隠そうともしない彼女の神経が初めは信じられなかった。こういう写真を見て、僕が傷つくかもしれないとは、彼女には予想もつかなかったのだろうと思う。この男に対する恨みが僕の中でも生じてきたのは、この頃からだったかもしれない。

 ある時、2月か3月の頃だったけど、彼女は「私はあなたには相応しくない」と言ったので、僕は驚いたことがある。僕は「なんでそう思うの?」と尋ねてみた。彼女は何も答えなかった。僕もそれ以上には追及しなかった。それからしばらく、僕はこの言葉の意味をいろいろ考えるようになった。あの時、彼女は何を感じていたのだろうと思う。彼女は、僕よりも自分の方が価値の低い人間だということを体験していたのだろうということは推測できる。しかし、その感情が何によって生じたのか、僕の何が彼女の抱えるコンプレックスを刺激したのか、僕にはよく理解できなかった。

振り返ると、そのことがまた、彼女が以前の男にしがみつくことに一役買ってしまっていたのかもしれない。つまり、僕には相応しくないから申し訳ないとでも思ったとすれば、やはり、自分に相応しいのは以前の別れた彼の方だという気持ちが強まるかもしれないからである。僕がもっと早期にそれに介入していれば良かったのかもしれない。

この写真、実はそれ以前にも見せてくれたことがある。彼女が僕の職場に遊びに来て、無邪気にこれが以前の彼氏だと教えてくれた。その写真をわざわざ持って来て、僕に対して楽しそうに話すのである。僕はあまりいい気持ちはしなかった。しかし、そうすることで彼女は何かを伝えたかったのだろうとも思っている。ただ、その時は、それが何だったのかを僕は理解し得なかったのだ。

 振り返ると、多くの場面で、僕は彼女を理解し損ねていたと思うのである。今さら後悔しても始まらないことではあるが、僕は自分の鈍感さや無神経さが腹立たしい。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

 

 

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