11月7日:飛び込み自殺者

11月7日(月)飛び込み自殺者

 

 先週(11月3日)、僕は大阪の辺りを歩いたということを書いた。その帰りに電車の事故があり、たいへんな影響があった。何本かは運休し、ダイヤは大幅に乱れたそうである。駅のアナウンスでは「人身事故による影響」と言っていたが、電車での人身事故と聞くと、僕はすぐに飛び込み自殺を連想するのである。

 一度だけ飛び込み自殺の場面に遭遇したことがある。僕が二十代の中頃だったと思う。毎年、お盆になるとアルバイトに行く現場があって、その帰りの電車の中で経験したのである。JRの環状線に乗っていて、僕はたまたま先頭車両の、更に先頭の方に乗車していた。外で「わあーっ」と叫ぶ男性の声が聞こえた。その叫びは前方から聞こえたと思うと、瞬く間に足元へと引きずられていった。つまり、その叫び声が僕の足元から聞こえてくるのである。そして、ポキポキとかグシャグシャというような、肉や骨が粉砕される音が足元に響くのである。そこで電車は止まり、確認作業に入る。当然、車掌は「人身事故」だとアナウンスする。

僕は間違いなく自殺だったろうと確信している。環状線というのは、ご存知の方もおられるだろうが、高架の上を走っているのである。道端からパッと飛び込むというわけにはいかないのである。何らかの形で、意図的に線路に入り込まなければならないのである。その男性がどこから入ってきたのかは不明である。ちょうど駅と駅の中間の所でそれが生じたので、どちらかの駅から歩いてきたか、あるいは、外からよじ登って入り込んだかのどちらかであろう。

その男性は、また、工事や点検等の作業員ではなかった。と言うのは、そのような人たちは単独では作業しないものであるからだ。何人かで班を組んで作業するのが普通であり、電車の接近を監視する安全監視人を置くのが通例であるからである。それに、そのような作業をしている感じはどこにも見られなかったのである。

これから年末になると、このような人たちが増えるのだろうと思う。ある年の冬、僕は酒を呑んでいて終電に乗り遅れそうになったことが度々あった。その都度、人身事故によって電車が遅れているということで助けられたことがある。僕は毎回思ったものである。人身事故なんてそうそう生じるものではないはずだと、きっと飛び込み自殺者が出たのだろうと。

まあ、それはともかくとして、走行中の電車に飛び込むというのは、確実に死に至るだろうと思う。但し、相当おぞましい死に方をしてしまうということだけは必至である。僕は、あの時の環状線の体験、あの男性の「わあーっ」と骨肉の砕け散る感触だけは、今でも脳裏にこびりついてしまっているのである。僕の足元では、目も当てられない惨状が繰り広げられていたのではないかと思う。そう思うと、今でもゾッとするのである。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

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