10月19日:書架より~『性格はいかにつくられるか』 

10月19日(土):書架より~『性格はいかにつくられるか』 

 

 性格心理学分野で著名な詫摩武俊の著書。思わず引きつけられてしまう魅力的なタイトルを持つ岩波新書の一冊。 

 今月は性格・人格・パーソナリティを復習することを目標としている。その一環で本書を読む。この本を買ったのも20数年前だ。当時は一生懸命読んだ記憶がある。今では内容の方は頭からスッカリ抜け落ちてしまっているが、今回、読み直しをして、記憶を新たにしようと思う。 

 

<Ⅰ性格とは何か> 

 人の性格はどの場面でもいつも話題とされ、問題とされる。性格とは、ここでは「その人の行動の中に、いかにもその人らし独自の傾向を認めることができ、人の行動の背後にあって、特徴的な行動を生み出しているものを性格と言う」と定義されている。続いて性格の判断について。 

 

<Ⅱ性格の研究史> 

 この章では性格研究の歴史が顧みられる。テオフラストスに始まり、ヒポクラテスの体液説から時が流れて19世紀のバーンゼンを経て、心理学へ。ただし、性格に関しては精神医学方面から発展してきた。類型論と特性論。 

 ここまでが本書の導入ないしは序説とみなすことができる。次章から本書の中心テーマに入っていくことになる。 

 

<Ⅲ性格形成の環境的要因> 

 性格の分野では生得説と経験説、遺伝か環境かという問題があった。本章では、主に経験説、環境要因について述べている。 

 (Ⅲ―1)生物としての人間の特殊性 

 人間は他の哺乳動物とくらべて早産であること、ポルトマンのいう生理的早産説。 

 (Ⅲ―2)人と家庭環境 

 人間は生理的に早産の形で生まれてくるので、生後の家庭環境が重要となる。野生児の記録から、人間の子供が人間らしく成長するためには、人間に育てられ、人間との交渉を持つことが大事である。人に育てられたチンパンジーは、かなり人間に近づくが、種としての超えられない壁もある。幼児期の体験、精神分析的見解。 

 (Ⅲー3)親の育児態度と子供の性格 

 子供の性格の研究法について概説し、母親の育児態度とそれによって形成される子供の性格傾向。水原、牛島、依田による研究。親の育児態度と子供の性格傾向との関連性は認められるが、なぜある型の育児態度がある型の性格を生むのかについては明らかにされていない。調査のやり方、測定方法などについても批判の余地がある。 

 (Ⅲ―4)育児態度を規定する諸要因 

 それぞれの親子には、親自身、子供自身各々の事情がある。母親にも神経質な母親、虚栄心の強い母親、情緒的に未成熟の母親、支配的・専制的な母親、民主的な母親などが考えられ、それぞれの育児にも違いが生まれる。母親の存在の重要性はホスピタリズムの研究が示している。加えて、社会的階層要因もある。社会階層が異なると育児態度にも違いが出てくる。他にも地域差によって、文化によって、育児に関する姿勢が異なってくるであろう。次いで、著者のドイツ留学時の経験と観察より、ドイツと日本の母親の子供に対する姿勢が記述される。 

 (Ⅲ-5)役割性格 

 子供は生まれた時から何らかの地位を与えられる。長男とか次男とか、男の子とか女の子とか、その地位によって形成される性格傾向は役割性格と呼ぶことができる。性差による性格の違い、並びに出生順位による性格傾向の違いが述べられる。役割性格に近い概念として、社会的性格がある。これは所属する集団の標準的な行動様式を取り入れていくことによって形成されていく性格でる。 

 

<Ⅳ性格形成の遺伝的要因> 

 Ⅲ章が環境要因を取り上げたのに対して、続く本章では遺伝要因を取り上げる。著者がかなり力を入れて研究している領域である。 

 最初に遺伝に関する研究について概説される。性格研究としては、家系研究法と双生児法とがある。 

 (Ⅳ-1)家系研究法 

 ある特性が一つの家系に頻繁に見られるとすれば、その特性は遺伝の規定を強く受けていると考えられる。この観点から家系が研究されることがある。ゴールトンの研究が有名である。一例としてのカリカック家の家系。家系研究法のいくつかの欠点。その欠点のために双生児法が重視される。 

 (Ⅳ-2)双生児法 

 この節は主に双生児そのものに関する記述である。一卵性と二卵性、双生児出生の確率、連身双生児の問題、日本の事情、三つ子以上の多胎児等々の内容が綴られる。 

 (Ⅳ-3)双生児法による性格の研究 

 双生児法の目的は、性格形成に当たっての遺伝的条件と環境的条件とがどのように関与しているかを知ることである。それを判定するための各種の計算法(ちょいと読むのが面倒な箇所だ)。ドイツでの双生児研究の一例としてエックレの研究。エックレ、ロッティヒ、ケーンなどの研究は既存の性格学に依拠しているのに対して、ゴットシャルトは双生児合宿法を行った。著者も日本で双生児合宿を行ったところ、活動性、根本気分、危機事態への対応、などではかなりの類似性を示した(遺伝的に規定されているところが大きい)。この双生児合宿法の研究の支えとなったのは人格の層理論である。人格は知性的上層と感情的基底層という二つの主要層から構成されていると考えられる。層構造の上層から下層にかけて遺伝的規定性が大になっていく傾向を認めることができる。また、双生児研究には異環境双生児の研究もあり、犯罪双生児の研究もあり、病気などの罹患傾向についての研究もある。 

 (Ⅳ-4)双生児に見られる差の分布 

 遺伝子的には同一とされる一卵性双生児であっても、兄弟・姉妹間に性格の違いが見られることがある。このような差は親や養育者の態度や期待によって左右されるところがある。つまり、遺伝的に同一であっても、環境の影響によって性格に変化が出てくるということである。著者の観察した一例はなかなか興味深い。家庭内が調和的で、家族間の緊張がなく、双生児たちの愛情が強ければ、双生児間の関係は安定したものとなり、相互に似てくる。 

 (Ⅳ-5)知能の遺伝 

 知能に関して。双生児研究によれば、知能の遺伝性は否定できない。ただし、出生時の条件などによっては双生児間でも知能に差異が生まれる。例えば、出生時の体重の差、出生間隔、新生児仮死などの条件である。その他、遺伝要因の強い能力と遺伝性の低い能力など。 

 

<Ⅴ性格の個体的要因> 

 性格の基礎には生理学的要因が働いていると考えられる。中枢神経系、自律神経系、内分泌系それぞれについて述べ、最後に薬物、体格・容姿による性格変化ということにも言及する。 

 この章は生理学的方面からの性格研究に関する章となっている。 

 

<Ⅵ性格の一般的発達> 

 最後に人間の性格の発達に関して、ごく大雑把なアウトラインが示される。乳幼児期から児童期、青年期、成人期へと、心的発達と性格形成とが述べられる。 

 Ⅴ章、Ⅵ章は、本書においては、ほとんど補足的な扱いである。 

 

<Ⅶ総括> 

 本書のまとめに該当する章。性格を研究するに当たって、遺伝も環境も軽視することはできない。性格形成に及ぼす環境の影響は、一次的、二次的といった階層を仮定することができ、一次的であるほど遺伝の規定を受けることになるが、各階層の混合である。また、性格は遺伝によってのみ規定されるものではなく、受身的に形成されるものではない。人は自分の意志によって積極的に性格を形成していく側面もあること。 

 

 以上、本書を読んできたが、性格研究においての一分野に特化した内容となっている。特に遺伝の問題である。どこまでが遺伝によって規定されているのか、双生児法を用いての著者自らの実験・観察を紹介しつつ、丹念な叙述がなされている。どこか双生児に魅せられているような節もみられるが、心理学者にはそういうのがよくあることだ(だから研究の対象に選ぶ)。 

 内容的には興味深い記述に溢れていた。僕はどうしても環境説・経験説に偏寄しやすい考えをするので、自分のその傾向を抑制するためにも、遺伝説を学ぶのは有益であると思った。 

 古い本ではあるものの、参考になるところ、考えさせられるところ、興味を惹かれるところも多かった。 

 

<テキスト> 

『性格はいかにつくられるか』詫摩武俊 著 

岩波新書 1967年 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

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