1月18日(水):ミステリバカにクスリなし~『SAS イスラエル嘆きの壁の女』
SASことプリンス・マルコものの一冊だ。僕はスパイ系の小説は苦手なのだけれど、シリーズものになっているとちょっと興味がそそられる。つまり、それだけ人気があるということであり、それだけ面白いのだろうと思ってしまうわけだ。本書もそうした感覚で購入した一冊だったが、長年未読のままだった。処分することを前提に読み始める。
少しだけ物語に触れておこう。
元KGBの大佐が、ソ連からアメリカへ亡命してきたのだが、アメリカで襲撃されて病院に運ばれる。死に際に大佐は機密情報を漏らした。そこには信じがたい情報もあった。イスラエルの参謀長官であるツヴィ・ハルペルン将軍がソ連のスパイだというのである。その確証を得るために、CIAの殿下こと、プリンス・マルコ・リンゲがイスラエルに派遣された。
ここまでの導入はいいとして、ここからだ。マルコは、まず、アルペルン将軍の愛人であるルート・ハネヴィムと接触する。ラビの未亡人で宗教教育家の女である。接触は成功したものの、今少しの所で頓挫してしまう。マルコが命を狙われるのだ。すでにマルコの動静をスパイしている連中がいるようだ。
ルートに直接接点を持つことができなくなったマルコは、ルートの男関係から入っていく。ルートのもう一人の愛人であるズーカス主教に突破口を見出そうとする。
ズーカス主教と接点を持つために、マルコは主教に犯されたアメリカ女ジェニファーと接触する。ジェニファーを通じて、主教と直接かかわりのありそうな女ロニの存在を知り、マルコはロニに近づこうとする。
そうこうするうちに、ジェニファーはテロ集団につかまり、殺されてしまう。ズーカス主教も逮捕されてしまう。こうしてマルコの作戦は振り出しに戻ってしまうわけだ。
つまり、ハルペルン将軍の懐に入り込むために、ルート→ジェニファー→ロニ→ズーカス主教と巡って、再びルートに戻るという流れがあるわけだけれど、さすがに回りくどい感じがしないでもない。中盤まで物語が進んでいる感じがしないのが、本書の難点だ。
その難点を除けば、それなりに面白い話である。特に、ハルペルン将軍たちの企みが明かされるくだりは爽快である。マルコが将軍がスパイであることの確証をつかみ、彼らが何をしているのか、何を企んでいるのか、パズルのピースが組み合わされるように輪郭づけられていくところは面白かった。
しかしながら、別の難点もある。いたるところでセックスとバイオレンスシーンが見られる。前者はよくても、後者がちょっと苦手だ。特に女が殺されるシーンは、あまり細かい描写はしないでもらいたいところだ。
冒頭で、亡命してきた大佐がホテルで女と交わっているシーンがある。この女はソ連側のスパイで、大佐の監視役だということだが、大佐が女の正体を悟り、セックスの最中に女を殺す。痛々しい殺し方に辟易する。このくだりだけで10ページ費やしているのだが、そこまで丹念に書き込まんでほしいと著者に頼みたいくらいだ。
テロにつかまったジェニファーも悲惨である。犬に犯され(獣姦というやつだ)、マルコの眼前で喉をかき切られて死んでしまう。セックスシーン、お色気シーンはいいのだけれど、こういう残酷なバイオレンスシーン、殺戮シーンやリンチシーンなどは読む気が失せる。
ミステリとしてはそれなりに面白いのだろう。ただ、僕の好みには合わない。それに、物語よりも、ユダヤ教のメッカであるイスラエルの描写に興味が持っていかれるほどであった。多分、この種の作品が好きな人にとっては面白いのだろうけれど、僕の唯我独断的読書評は3つ星だ。
<テキスト>
『SAS イスラエル嘆きの壁の女』(ジェラール・ド・ヴィリエ)
田部武光 訳 創元推理文庫
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)