9月17日(火):映画を読む~『Oh!我らがB級映画』(2)
本書の内容は前項でほぼすべて述べたのであるが、それ以外に「わたしだけのベストワン」と題するコラムが随所に挿入されている。映画評論家や著名人が個人的なベストワンB級作品について、その感想や思い出をつづっている。各人が選んだベストワンは以下の通り。
「クラーネの菓子店」(植草甚一)
「地球爆破作戦」(双葉十三郎)
「オクラホマ・キッド」(早乙女貢)
「お六櫛」(佐藤忠男)
「犯罪都市」(渡辺武信)
「悪魔のいけにえ」(藤子不二雄)
「トラック野郎」(吉増剛造)
「赤い砂塵」(小野耕世)
「多羅尾坂内シリーズ」(佐伯俊男)
「制服の胸のここには」(菅原伸郎)
まあ、みんないろんな映画を観てるんだなあ。このリストにあるほとんどの作品を僕は観ていないので、共感できるところは少なかった。けれども、人それぞれの思い出があったりするものだなと思う。
漫画家の藤子不二雄さんが「悪魔のいけにえ」を推しているのは意外という気もするが、「魔太郎がくる」なんて作品はけっこうその影響を受けているかもしれない、なんてことも思ったりした。
さて、本書を読むとそれなりにB級映画に詳しくなった。いや、却って分からなくなったかもしれない。結局、B級映画というものが定義できないからであり、あくまでもA級との比較でしか捉えようがないという感じである。そこで、僕なりにA級とB級とを比較してみた。言うまでもなく、僕の個人的な独断である。
①上映時間
A級は長い(90分以上)。B級は短い(90分以下)。これはアメリカでの定義と一致する。上映時間が短いのは、初めから単館上映を目指していないからである。2本立て、3本立てに割り込もうという目論見である。
②製作費
A級は製作費をかけている。それだけスターを起用した大作映画になる。B級は低予算で作られている。その金額を明確に定義することはできないけれど、基本的にB級は低予算である。ただし、低予算映画がA級作品になることもあるし、莫大な製作費をかけて駄作になった作品もあるので、製作費だけからA級・B級の判断はつかないかもしれない。
③製作期間
A級は時間をかけて製作するが、B級は短期間で製作する。これもどれくらいの期間でそこを分けるのか、その境界線を設定するのは難しい。短期間で仕上げるのは予算がないためである。
④宣材
A級は宣材にも金をかけ、バラエティに富む。B級の宣材はチープなものになりがち。これも予算の関係である。B級作品のポスターなど、出演者や場面の写真をそのまま貼り付けた感じのものであったり、逆にゴテゴテと描き込みすぎたりする(つまり、安っぽさを打ち消そうとしたり、豪華さを打ち出すためにやり過ぎてしまうわけだ)。また、宣伝に時間をかけられないという事情もB級の方にはあるかもしれない。
⑤宣伝文句
A級は正直なところのものを言う。時に、製作費なんぼとか、世界興行収入なんぼといった金額が載せられることもある。当然、B級ではそんなことができない。B級の宣伝文句とかキャッチコピーは、やたらと仰々しかったり、大袈裟だったりする。つまり、B級の宣伝文句はウソが混じっている。
⑥場面
A級には心に残る名場面がある。B級はなんでもない一シーンが脳裏にこびりつく。これは大きな違いだと僕は思っている。
また、B級には無駄なシーン、意味不明のシーンがあったりする。製作者側に何らかの意図が込められているのかもしれないけれど、それが観客には伝わっていないのだろう。あるいは単に尺を稼ぐためのシーンであるのかもしれない。
⑦感受性
A級は論理に訴えてくる。観客は論理的に受け取る。B級は感性に訴えかけてくる。観客は感覚的に受け取る。だから、B級作品のどこがどう良かったのか、論理的に説明することが困難であったりする。
⑧物語
A級にはドラマがある。B級には、ストーリーはあるが、何も劇的なことが起こらないか、やたらと目まぐるしく展開する(つまり詰め込み過ぎる)。また、A級はクライマックスがあり、そこが一番盛り上がる。B級では大したクライマックスがなかったり、それほど盛り上がらなかったりする。
⑨体験
A級は他の人も観ているから体験が共有できる。B級は自分だけがその作品を観たという特別感に浸れる。ある種の優越感を持つことができる。
⑩製作側
A級の監督やスターがB級作品を作ったり出演することはあるが、その逆はなかなか生じない。B級の監督や俳優はずっとB級の世界で仕事することが多い。不思議とその壁は厚いようだ。
⑪等級
A級作品は大体一致する。多くの人がそれをA級と認める。B級は人によってまちまちである。同じ作品が、ある人にとってはA級であり、別の人にとってはB級であったりする。A級は世間が認めるものであるが、B級は自分が決めているのである。
⑫内容
A級は万人受けする内容を持つ。B級はA級がやらないようなことをやる。A級がストレートで勝負するピッチャーであるとすれば、B級はやたらと変化球とか魔球とかを投げてくるピッチャーのようなものである。
以上、僕のB級観である。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)