8月8日:唯我独断的読書評~『流刑の惑星』

8月8日(水):唯我独断的読書評~『流刑の惑星』(クラーク・ダールトン)

 たまにゃSFでも、と思い、昔読んだ本から本作をチョイス。あのローダン・シリーズ(あのクソ長いシリーズ)の生みの親でもあるクラーク・ダールトンのノンシリーズの作品。

 地球の罪人が送り込まれる流刑地、囚人惑星のハーデスに新たに11人の囚人が送られてきた。しかし、犯罪人だらけの流刑地からイメージされていたのと大違いで、そこは治安の行き届いた理想的な惑星だった。彼らには住居と職が与えられ、新たな住人として迎え入れられたのだ。

 囚人の一人ログ・カーターは移送船で知り合った女囚人のキムと結婚し、記者の仕事を獲得する。隣人のハンスとも友好な関係を築き、彼らは平和な日々を過ごし始める。

 一体、この流刑地をここまで変えたのは何者だろうか。脱走不可能とされる惑星から脱走した唯一の人間ロン・パーカーは、どうしてハーデスに舞い戻ることができ、政府主席の地位を得ることができたのか。そして、このロン・パーカーという男、キムの父親の秘書をしていた人物であることが判明する。

 一方、ハーデスがイメージ通りの惑星ではなかったことに立腹する人間が他にもいた。ログたちと同じ船で移送されたルイ・パラッティである。ルイはこの平和な惑星を破壊しようと目論んでおり、キムを誘拐する。

 ログはキムの救出に向かうが、彼はさらに大きな敵との戦いに巻き込まれていく。彼は地球政府によるハーデス破壊計画である「リフト作戦」に敢然と戦いを挑むことになるのであった。

 スピーディーな展開が心地よく、簡潔な文章によって流れるようにストーリーを読むことができる。いかにも大衆向けの作品といったところである。

 最初はパラッティらの反政府軍との戦いに、続いて地球政府との戦いにと、ログの直面する戦いは二重構造を有している。もちろん、戦いに勝ってめでたしというわけにはいかず、地球側からの反撃がラストに待ち受けているのも、なかなか心憎い演出である。ただ、若干、詰め込みすぎという印象も残ってしまった。

 それに、他の不満要素もある。移送船でログに味方したイェンティンやヘンドリックはどこへやらである。後々、彼らの出番があるだろうと期待すると肩すかしを食らってしまう。いい奴らだったのに、彼らは最初に登場するだけの脇役だったのか。

 同じことは隣人のハンスなどにも言える。どうも、その場面だけの人物というのが目立つ。一度表舞台に登場すると、それきりという感じの登場人物が目立つように思った。ゴルムやフングルーバー軍曹などもそれに近い扱いだ。

 こうなると、どうしても主人公の一人舞台の物語という観が強くなる。もちろん、それはそれで構わないのだけど、もう少し脇役の人物たちにも活躍してほしかった。そうすると物語にもっと興味がもてたかもしれないのだが。

 さて、本書の唯我独断的評価であるが、上述のような難点が目に付くものの、面白く読むことはできた。SFにつきものの科学的説明なんかもほとんどなく、理数系が赤点の僕でもスンナリと読むことができたところは、大いに評価したい。

 ということで、結局、3つ星ということにしておこう。

<テキスト>

『流刑の惑星』クラーク・ダールトン(1966年)

松谷健二 訳  ハヤカワSF文庫

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

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