8月27日(金):ミステリバカにクスリなし~『ウネルヴィル城館の秘密』
アルセーヌ・ルパンものの一冊だが、作者はルブランではない。ルブランの残したメモに基づいてピエール・ボワローとトーマ・ナルスジャックのコンビが書き上げた作品であるらしい。こういうのは食指が動かない。
シャーロック・ホームズやジェームズ・ボンドなど、原作者の死後も彼らをリスペクトする作家が作品を発表し続けている。宇宙大作戦(スタートレック)シリーズなんかもそうだ。こういうのはどうも読もうという気にならない。コーネル・ウールリッチや坂口安吾のように、作者の死によって未完となった長編を後の作家が書き足して完成させたというパターンもあるが、こういうのもどうも。
本作『ウネルヴィル城館の秘密』も長い間僕の中では読まず嫌いの一冊となっていた。恥ずかしながら、買ってから二十年近くを経て読むことにした。せっかく買った本だから読んでおこうというくらいの軽い気持ちで読んだ。読み始めたら、なんと、止まらなくなってしまった。
ウネルヴィル城館に眠る美術品を頂戴しに、先に潜伏させていた部下のブリュノに手伝わせて城館に侵入したルパン。そこにはすでに「先客」がいて、家人たちが眠らされている。ブリュノの合図で先客たちが城館から一人の人間を拉致しようとしているところを発見するルパン。さっそく、先客のあとを追う。連中が拉致したのはこの城館に生まれた時から住んでいるというベルナルダン老人である。先客たちは老人に拷問をかける。その後に駆け付けたルパンは老人から謎の暗号を聞かされる。ウネルヴィル城館には秘密がある。ルパンはその秘密を解き明かす決意をする。
この先客はガルスラン男爵であることがわかる。以後、城館の秘密をめぐって、男爵とルパンの推理戦が展開される。出し抜いたり出し抜かれたりするお決まりのパターンかと思いきや、彼ら以外に暗躍する第三の人物の存在が浮き彫りになってくる。その辺り、たいへんよくツボを押さえているなと思う。城館の秘密とは何か、男爵とルパンの対決はいかに、そして、この第三の人物は何者なのか、錯綜する謎が読者を引きずり込んでいく。
それに加えて、敵の罠に陥ってしまうルパンとその救出劇、老人の孫娘の誘拐と追跡劇、ルパン逮捕に意気込むガニマール警部の包囲網、城館に住む不幸な娘リュシルとルパンのロマンスの行方などさまざまなエピソードを交えて、物語は忙しいほど目まぐるしく展開していく。ともかく本を置くことを許さないほどサービス満点だ。
推理小説はあんまりネタバレしてはいけないという暗黙のルールがあるので、これ以上詳しくストーリーやプロットに踏み込むのは控えよう。ルパンもの(またフランスミステリ)によくあるように、論理的な推理よりも練りに練られたプロットで読ませる一作だ。
本書は1973年に刊行され、たいへん好評を博したとのことである。「批評のミステリ賞」というものを受賞したそうである。そりゃそうだろうと思う。ちょっとした賞の一つくらい獲得しておかしくない内容である。
僕の唯我独断的読書評は4つ星半だ。面白い。ただ、リュシルとのロマンスに難点を感じる。ルパンは彼女に対して父親のような感情を持っていることだ。父と娘のような関係になっていることである。それはそれで悪いわけではないが、ルパンが妙に年寄りに感じられてしまうのだ。いつまでも若く、そして若い女性を魅了し続けるようなルパンでいてほしかった。
<テキスト>
『ウネルヴィル城館の秘密』(アルセーヌ・ルパン)
榊原晃三訳 新潮文庫
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)