8月22日:キネマ館~『ジャガーノート』『突裏口』

8月22日(日):キネマ館~『ジャガーノート』、『突裏口』

 

『ジャガーノート』

 大勢の人々に見送られて、豪華客船ブリタニック号は1200人の船客を乗せて出港する。その頃、ブリタニック号を所有する運輸会社の専務の自宅にジャガーノートと名乗る男から電話が入る。ブリタニック号に爆弾を七か所仕掛けた、7つのドラム缶に爆弾は仕込まれており、それらは22時間後に爆発する、と。

 急遽対策本部が設けられる。犯人の要求に応じて身代金を払いたい会社側とテロに屈したくない警察側とで意見が対立する。警察は容疑者を割り出し、犯人逮捕に全力を尽くす。ブリタニック号には爆弾処理の専門家チームを派遣して爆弾処理に当たらせるということが決まる。

 軍隊からファロンを隊長とする爆弾処理チームが派遣される。海が荒れる中、彼らはブリタニック号に乗船することができ、爆弾処理に取り掛かる。

 一方、警察は逆探知を用いて犯人を追跡しようとする。以後、警察の追跡劇と爆弾処理班の頭脳戦と不安に怯えながらも生きようとする乗客や乗務員たち三者の姿が交互に描かれ、立体的に物語が展開していくことになる。

 警察は犯人を割り出し、調査し、追跡するも、綿密に練られた犯人の計画になす術がなくなる。爆弾処理班の方も、犯人の仕込んだブービートラップに翻弄される。この息詰まるような頭脳戦が見所である。犯人の方が一枚も二枚も上手を行く中で、タイムリミットが迫ってくる。スリリングな展開だ。

 犯人を追う刑事役をアンソニー・ホプキンスが演じている。彼の妻子がブリタニック号に乗っているという設定である。そういう私情を持ち込まずに仕事をする姿にプロフェッショナルなものを感じるけれど、感情的になる方が人間味があるかもしれない。

 爆弾処理班のチーフであるファロンはリチャード・ハリスが演じる。最初、リチャード・ハリスがどうもミスキャストのような感じがしていたのだけれど、物語が進んでいくほどハリスが適役に思えてきたのが不思議だ。死と隣り合わせの状況で仕事をしてきた男を演じるのだが、本当にそういう人間であるように見えてくる。

 ブリタニック号の船長にオマー・シャリフが扮する。この人の上品な雰囲気が豪華客船船長という役柄にピッタリという感じだ。

 あと、余談だが、『ナイル殺人事件』のサイモン・マッコンキンデールが操舵士役で出ていた。ラストのクレジットで名前を見かけてビックリだ。そういえば操縦桿を握っている人が画面に映っていたけれど、あれはサイモン・マッコンキンデールだったんだ。まったく気づかなかった。

 さて、本作はミステリ映画としては十分に面白い。爆弾処理も、最後は赤線か青線かどちらかを切断するというところに行き着くのだけれど、それもどうなるのか最後の最後まで分からない、とにかく最後までハラハラしどおしである。

 スリルやサスペンスは十分であるが、登場人物たちのドラマの部分は手薄になっているかもしれない。乗船客たちの人間ドラマが薄いように思う。そのため、あまり乗客に感情移入できないところがあった。なんか淡々としている印象が残っているんだな。2時間の映画という性質上、あまり個々の人物まで踏み込む余裕もなかったのかもしれない。

 最後の犯人とファロンとのやり取りも、どこか感情移入できないのだ。一番重要なシーンであったかもしれないんだけれど、そこもなんか淡々とした印象が残っている。

 それでも僕の中では4つ星の評価だ。ミステリ映画としてはたいへん面白い。爆弾処理の場面はどこも手に汗握るものばかりである。

 

 

『突裏口』

 第二次大戦、フランス戦線に駐留しているアメリカ軍部隊。彼らはじきに帰国できると信じているが、彼らが送り出されたのは前線であった。目の前にはドイツ軍が塞いでいる。ところが、別の任務のため、第1部隊と第3部隊は夜のうちに移動する。夜が明けると、6人(後に8人)のアメリカ兵だけが残されており、それだけの人員でこの場を死守するように命令されていたのだ。彼らは敵側にこちらの事情が知られないように大軍が控えているように見せかけるのだが。

 スティーブ・マックイーン主演の戦争映画。ほかにジェームズ・コバーンらが共演。

 本隊から半ば見放された形で取り残された6人だが、悲観することなく、タフガイぶりを発揮する辺り古きアメリカ映画という感じがする。夜の間にドイツ軍の襲撃を受け、隊長を失う。マックイーンらは独断でドイツ軍のトーチカ破壊を試みる。地雷地帯を這い進むくだりは本作中一番スリリングなシーンだ。しかし、この作戦は失敗する。

 翌朝、本隊が合流してアメリカ軍の攻撃となるが、ここでもマックイーンはタフガイぶりを発揮。一人爆弾を抱えて敵陣に突っ込む。

 マックイーンが演じたようなヒーローはもはや時代遅れであると思う。現代ではこの手のヒーローはウケないと思う。体当たりして殉死するようなヒーローより、あっと驚くような奇策を用いて情勢を逆転させるようなヒーローがウケると思う。60年ちかく前の作品であるためにどうしても古臭さや時代の違いは目についてしまうかもしれない。それでも面白く鑑賞することができた。

 現代の人が見れば、主人公のようなキャラをどのように受け取るだろうか。主人公は基本的に一匹狼だ。あまり仲間と上手くやっていこうとは思わないようだ。任務のために一応チームワークは持とうとするかもしれないが、最後は単独行動したがるようだ。僕が思うに、主人公は軍隊には適応できないのであるが、戦争には過剰適応しているのだ。戦争が彼をそのような人間にして、彼は自分をそのようにした戦争に戦いを挑んでいくかのようだ。戦いのために戦うかのようで、彼には勲章も帰国もない。おそらく終戦ということも彼にはないのだろう。どういうわけか、主人公がそのような人間であるように僕には見えている。

 僕の解釈はさておいても、本作はそれなりに面白い映画だと思った。古臭さだけはどうすることもできないとしても、3つ星半は進呈したいところだ。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

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