7月14日:津和野へ

7月14日(日):津和野へ

 

 島根の二日目。

 朝、トイレに行く。僕の部屋にはトイレがないので、その階にある共同トイレを使わなければならなかった。男性用のトイレは使用中だった。すると、通りがかった旅館の人が「女性用を使いんさい」と勧めてくれた。誰も使っておらんけえ、使いんさい、と言ってくる。う~む、都会では考えられんことだ。僕は両親の部屋に行って、トイレを使わせてもらった。

 そこで、今日は津和野まで足を延ばそうということになった。

 

 津和野までの道は、なかなか景色が良かった。片方には山があり、反対側には川があり、小さいながら町が並んでいる。静かでいい所だろうなとは思うけど、車がなければ生活できないといった場所だ。

 津和野に着く。小京都の一つだそうだ。確かに両サイドを山に挟まれていて、盆地みたいになっているし、街並みもどこか風情があって、よろしい。

 

 最初に稲荷大社にお参りに行く。伏見の稲荷大社と比べると幾分規模は小さいけれど、山の中腹の建立は風格が感じられる。また、伏見のは本殿から鳥居の道が山まで続いているのに比べて、こちらは鳥居道を通って本殿にたどり着くという構造になっている。こちらの方が正しい感じがした。

 僕たちは本殿の直下にある駐車場まで車で来たのだけれど、本当は鳥居道を登ってきた方がいいのだろう。駐車場のところにトイレがあって、トイレの男性用、女性用を示すマークがキツネになっているのもご愛嬌だ。

 

 稲荷大社を後にすると、西周の旧宅を見に行く。こんな所にあるなんて知らなかった。看板で知った。

 ところが、西周宅は分かりにくく、最初は通り過ぎてしまった。車通りから細い道に入るのだ。一車線しかない道で、かつては畦道だったのだろう。その途中に昔の家がある。そこが西周旧宅である。

 屋内に足を踏み入れることは禁じられていたけれど、庭をぐるりと一周できて、外から屋内の様子が見えるようになっていた。

 昔の家だ。ここなら静かに勉強できたことだろうなと思わせる家だった。

 

 西周旧宅から森鴎外の旧宅はすぐ近くである。川を挟んでいるだけだ。次に僕たちは森鴎外旧宅に向かう。こちらはすぐに見つかる。

 西周邸とは違って、ここは入り口までは入れるけれど、その奥に入ろうと思えば入場料が必要となる。入場料を払ってでも見たいっていうほどのファンでもないので、入り口までにしておく。

 旧宅の奥側には森鴎外記念館が建っている。ここも入場料が必要になるが、そこまでのファンでもないので、前から覗くだけにする。

 

 そこからさらに足を延ばして長門峡まで行く。単調な一本道路を延々と行く。

 到着したが、そこは自然の景観が堪能できる散策路で、雨天のため行くのは中止した。天気のいい日でないと、ちょっと危ないかもしれない。

 結局、そこの道の駅で休憩する。道中、線路際にカメラを設置していた人たちがいた。鉄道マニアだろうか。撮りテツのような人だろうか。ひょっとしたら汽車が走る日かもしれない。僕も線路際で少し待機する。来たのはディーゼルの貨物車だ。一応、写真に収めておく。後で聞いたところでは、今日は汽車の日ではなかったそうだ。

 

 益田に戻る。ユメタウンで買い物だ。去年まで知らなかったけど、これのすぐ裏は海である。風力発電の風車が今日は回っていた。

 僕の方は特に買いたいものなんてない。去年同様、帽子を一着購入する。

 母たちは買い物をしている。僕の鞄を買ってあげると母が言う。最初は辞退したのだけれど、結局、お言葉に甘えて、鞄を一つ買ってもらった。

 僕は感覚がおかしくて、普段の生活でお金を使うことはためらわないのに、旅行でお金を使うことには抵抗感がある。旅行やレジャーに行っても、極力、お金を使わないことにしている。多分、普通の人はそういう時にこそ財布のひもが緩むのだろうけれど、僕は反対で、財布のひもが固くなる。

 

 帰る前に今日も病院に行く。伯父の見舞いだ。僕はと言うと、前日同様、病院内には足を踏み入れず、周囲を歩く。

 この病院の周囲には住宅がけっこうあるんだけれど、この人たちはどこで働いているのだろう、どうやって生計を立てているのだろうとか、そんな余計なことを考えてしまう。益田にも産業はあるんだけれど、大阪のようなオフィス街とか工場地帯とかいうのがなさそうだ。みんなどこに働きに行っているのだろう。

 

 旅館に戻る。

 今晩、父は旧友と会うことになっていて、旅館の部屋に集合することになっていた。だから、母が僕の部屋で過ごすことになった。

 また、近所ではお祭りがあり、花火も上がっていた。僕の部屋から花火がよく見えた。

 しかし、母と二人ってのも、なんか気まずいな。結局、僕は独りのほうが落ち着くようだ。母がテレビを見ながら、横になっている。僕はそのそばで黙々とジャネを読んでいる。あまり家族らしい光景ではないな。

 

 父の方は宴会が終わったので、母は部屋に引き上げた。

 僕の方はそのままだ。テレビはつけたままだったけれど、相変わらず、本を読み続けている。それが一番、僕らしいと、思った。

 

 前日同様、遅めに風呂に入り、スーパードライをひっかけて、眠る。島根の二日目がこうして終了。

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

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