6月3日(木):キネマ館~『シンドバッド黄金の航海』
『シンドバッド黄金の航海』
1950年代から60年代にアニメーション特撮で人気を博したレイ・ハリーハウゼンの特撮が楽しい1973年の作品。シンドバッドシリーズでは2作目に当たるのかな。
航海中のシンドバッドたちの船に謎の飛行生物の落としていった金の銘板に導かれて今回の冒険が始まる。もう一つの銘板を所有するマラビアの国の皇帝はシンドバッドとともに宝探しの冒険に乗り出す。また、ひょんなことから女奴隷、のらくら息子も冒険に同行することになった。こうしてシンドバッド一行は、忠実な部下たちとともに大海原に乗り出す。
シンドバッドを追うのは悪役クーラである。クーラは黒魔術を駆使してシンドバッドたちを妨害し、苦しめる。クーラの魔術によって、無生物が生きたり、生み出されたりするのであるが、ここにレイ・ハリーハウゼンの特撮が活かされる。
最初に現れるのは、マンドラゴラの根から作られた小獣。トカゲのような体にコウモリのような羽をつけた不気味なヤツだ。こいつはクーラのスパイとしてシンドバッドの周辺を嗅ぎまわる。
次はシンドバッドの船にある木製の船首像。木製の像が動き始め、シンドバッドから海図を奪うのだけれど、この無表情さが却って怖い。僕の中では本作で一番怖いヤツだ。
宝が眠るとされるレムリア島の島民から神として崇められている六本腕のカーリ。六本の腕それぞれに剣を持ち、シンドバッドたちとチャンバラを展開する。多分、本作で一番の見所になるシーンだ。それだけでなく、カーリ像のダンスも見もの。首が左右にカクカク動く姿は愛嬌さえ感じられる。
四種目は、島の地下洞窟に生息する一つ目の半人半馬。神話に出てくるケンタウルスのよなヤツだ。
五種目は、ワシとライオンを組み合わせたようなヤツ。こいつはグリフォンでいいのかな。このグリフォンとケンタウルスの戦い(善と悪の戦いというモチーフ)がもう一つの見どころである。
特撮によって生命を与えられるキャラたちは、神話をモチーフにしていたりして、それなりに魅力的だと思う。技術的には古臭いかもしれないけれど、何て言うのか、センスの良さを感じてしまう。あれは模型を少し動かしては一コマ撮影し、少し動かしては一コマ撮影しというのを延々と繰り返していくのだろう。たいへんな手作業でやったんだろうと思う。
特撮キャラはそんな感じなんだけれど、一方の人間の方はどうか。
悪役のクーラ(トム・ベイカー)は魔術を使うたびに年を取るという設定だ。若さが奪い取られてしまうのだ。この設定が良かったのかどうか、物語が進むほど悪役が弱っていくというのはどうもいただけない。
シンドバッドを演じるのはジョン・フィリップ・ロー。二枚目でハンサムさんなんだけれど、髭フェイスはどうも。魅力が半減しているかも。
女奴隷を演じているのはキャロライン・マンロー。「007私を愛したスパイ」のナオミだ。美人に見える時もあれば、さほどでもないと見える時もあって、お顔は中の上くらい。その分、スタイルがよろしい。おチチは張りもあり、形もよさそう。本作では紅一点でエキゾチックな魅力を振りまいているのがよろしい。
シンドバッドの部下の一人にアルド・サンブレル。この人はマカロニウエスタンでお馴染みだ。本作でもいい味出している。
マラビアの国の皇帝は、顔が焼けただれていて仮面をかぶっているという設定だ。この仮面がオリンピックの前会長の森氏に見えてしまうのは僕だけか。
のらくら息子が冒険に目覚め、船乗りになっていくという成長物語もモチーフに含まれているのだけれど、どうもそれも弱い。
作品は、全体としては悪くないんだけど、どうしても特撮に目を奪われてしまうのと、人物の魅力が薄いという感じがしてしまって、評価が下がってしまう。面白いのは面白い、その一方でマイナス要素も目についてしまう。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)