6月19日:メガネを捨てた日

6月19日(日):メガネを捨てた日

 

 工場でアルバイトが決まっている。今まで経験したことのない世界だ。いろんな体験をできればと思っている。

 すでに二回ほど工場入りしているのだけれど、メガネがあった方がいいと思うようになった。

 メガネはあるんだけれど、20年以上昔に買ったものだ。掛けると遠くが見えるのは確かだ。それでも視力の方が落ちているので合わなくなっている。それにレンズ面が傷だらけだ。

 この際、思い切ってメガネを新調してやろうと決めた。

 

 昨日、高槻周辺にあるいくつかのメガネ屋を覗いてみた。買うならここと決めた店がある。それで今朝、その店に行ってみた。

 しばらく待たされたのであるが、僕の順番が来た。いきなり申込用紙みたいなものの記入を求められた。まあ、それはいいとしよう。

 それでレンズは何にするかなどと質問されるのである。遠視用か、近視用か、遠近両用か、などと。

 僕は近視なので、遠くが見える方がいい。その場合、近くのものは裸眼よりも見えなくなると言う。遠くのものを見るためにかけて、手元を見る時は外すなりすればいいと店員は言うのであるが、そうはいかない。工場内ではメガネを外すわけにはいかないのである。

 遠くを見るのを諦めるのはいいが、もう一つ欲しいのは、暗所でよく見えるようになりたいのだ。視力よりもコントラストに関わる部分なので、メガネでどうにかなるのかどうかも分からないのだけれど、メガネでカバーできるのであれば、そうしたい。

 遠近両用にしてもいいのだけれど、値が張る。工場で使うだけなのに。加えて、視力によっては値段が加算されることになるという。一体、いくらの予算を組んだらいいのか分からない。

 僕は訳がわからんと思い、「もういい」と店を出た。遠近云々よりも、0.8が1.0にでもなれば十分なのだ。日常生活ではまず使うことのないメガネなのだ。そこを店員は理解しなかったようだ。

 

 もとい。

 そうではないのだ。僕が思うに、先に検査をするべきなのだ。僕の目が現状ではどれくらい見えるのか検査するのだ。その検査結果に基づいて、こういうメガネがよろしいのではないかなどと勧めてくれる方が良かった。こっちはどんなのを買っていいのかさえ分かっていないのだから。

 店員がそこに気が回らないのだ。どういうのを買うのがいいか分からないようでしたら、一度検査してみて、その上で検討してみませんか、などと言えばいいのである。

 僕が思うに、メガネ屋からすれば、顧客の目の情報は喉から手が出るほど欲しいだろうに。というのは、その人の目の状態を知っていれば、それに適した商品やサービスが提案できるからである。

 だから、「視力検査だけでもしてみませんか」と勧めればいいのである。多分、あまり出来のいい店員ではないのだろう。

 

 メガネを新調するという目的はこうして挫折。無性に腹が立つ。駅前の喫煙所まで来て、憤懣の喫煙をする。

 煙草をプカプカ吹かしているうちに、第二案が思い浮かんだ。

 そうなのだ、メガネなんて視力によって買い替えなければならない。視力が悪くなればメガネの方を適合させていかなければならない。こういうのはイタチごっごのようなものだ。それならいっそのこと視力そのものを良くすればいいじゃないか。メガネの要らない人間になればいいじゃないか。そんなことを思った。

 

 でも、どうやって視力を回復するか。

 闇雲でドラッグストアに入る。視力回復に資するようなサプリメントなんかがあるだろう。その種のサプリを購入する。

 点眼薬も見てみたが、ああいうのは疲れ目などの用途であり、直接視力回復に役立つようなものはなかった。

 

 そうだ。本だ。昔、視力回復の本を買って練習したことがあるのを思い出した。

 今度はジュンク堂に足を運ぶ。なるほど、いろいろある。

 ガボールパッチの本を選ぶ。立ち読みしながらやってみて、暗所で作業する時と近い感覚があった。なんとなく、これは良さそうと思い、購入する。

 

 僕はメガネを捨てるよ。メガネに振り回されるのもゴメンだ。時間はかかるだろうけれど、視力回復を地道にやっていくつもりだ。

 別にオスマン・サンコンさんほど見えなくてもいいのだ。3.0とか4.0とかなくてもいいのだ。両目で1.0から1.2くらいの視力があれば当面はやっていける。その程度の回復なら不可能ではないはずだ。

 さっそく、今日からとりかかる。

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

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