6月17日:『探偵を探せ』 

6月17日(日)『探偵を探せ』 

 

 僕は推理小説がすごく好きだった。それも海外の作家で、推理小説の黄金時代の作品が好きだ。最近の流行作家のものは読まない。 

 若いころはたくさん本を買って、片っ端から読んでいった。でも、中には読まずに終わったものや、途中で投げ出したものもある。最近、それを後悔しているのだろうか、そういう読まず嫌いに終わった本を引っ張り出して、読むようになっている。 

 すでに何冊か読んだ。エラリー・クイーン『ドラゴンの歯』なんてのもあった。当時、エラリーが前半でほとんど活躍しないということで興味を失くしてしまったのだろうと思う。中途で投げ出した本だ。読み直してみると、けっこう面白かった。 

 今回、これもなぜか二度三度と挑戦して挫折するという憂き目にあった本なのだけれど、パット・マガーの『探偵を探せ』に再挑戦した。僕が高校生頃に購入した本で、20数年前から本棚に置き去りにされていた本だ。今回、めでたく完読した。なんで途中で投げ出すのか自分でも理解できないほど、面白かった。 

 舞台は休閑期のホテルである。ホテルの所有者で資産家の夫を殺そうと妻は企んでいる。夫の財産目当てで殺そうと計画している。夫は妻の思惑に気付いている。そして、妻の犯行の証拠を夫は彼が依頼した探偵に渡すことになっている。その探偵は今日明日中に来るだろうという。妻は夫を殺す。その後、道に迷ったと言って一人の男が訪れる。妻はこの男が夫の雇った探偵だろうと思うが、次々に新客が登場する。新聞記者、セールスマン、作家、旅行中の女性、この4人の中に夫が雇った探偵がいるはずだ。妻は推理を働かして、目星をつけた一人を殺してみる。しかし、新たな謎が生まれ、妻は推理を続けなければならなくなる。 

 通常は探偵が犯人を推理するのだけれど、犯人が探偵は誰かを推理するという、逆のパターンをやっているのが面白い。探偵は誰かということと、もう一つの軸として、夫は証拠物件をどこに隠したかという謎を設定し、物語を豊かにしている。そして、恐らくこれが昔の僕には苦痛だったのだろうと思うのだけれど、妻の一人称で書かれていて、妻の推理、葛藤、罪に対しての感覚が薄れていく様子などが丁寧に書き込まれている。今の僕はむしろその点がとてもいいと思っている。 

 それにしても、読者は犯人と一緒になって推理をしていく。最後の方で犯人は重要な部分を見落としていたことに気付く。それはその人物が当の探偵であることを如実に示す証拠なのであるが、犯人も僕もそこを見落としてしまっていた。ああ、そうだったのかと、僕はしてやられたような気持になったね。当該箇所をページを遡って調べてみる。ああ、確かにここに書いてあった、ここは確かに読んでいたのにと思ってしまう。作者に一杯食わされて喜ぶ、これが僕の推理小説の楽しみ方なのだ。この食わされ方が見事なほど、僕は嬉しくなるのだ。ああ、どうしてこんな面白い作品を、20数年間も本棚に置き去りにしていたのだろうと、今さらながら、僕は自分の不甲斐なさを思う始末である。 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

 

 

 

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