5月10日:唯我独断的読書評~『オードリー・ローズ』 

5月10日(水):唯我独断的読書評~『オードリー・ローズ』 

 

 ビルとジャニスのテンプルトン夫妻は一人娘のアイヴィーと幸せな家庭を築いていた。何の不幸せの前兆も見られなかった彼らの生活に一人の男が影を落としていく。 

 発端はジャニスがアイヴィーを学校に迎えに行った日だった。変装した男が母娘を見ている。それから男の姿は毎日のように見かけるようになり、やがてビルも彼の存在を知るようになる。男は彼らの生活に入り込んでくる。 

 男はエリオット・フーヴァーという。テンプルトン夫妻はフーヴァーから信じがたい話を聴かされる。アイヴィーは彼の娘オードリー・ローズの輪廻転生であるという。自動車事故で命を落としたオードリー・ローズの魂は、その事故の直後に生まれたアイヴィーに宿ったのだと言う。 

 ビルはフーヴァーを気違いとみなして請け合わず、フーヴァーを彼らの生活に踏み込ませないように防御するのであるが、やがて、アイヴィーに変異が生じる。「アツイアツイパパママアツイ」と叫んでアイヴィーが狂乱状態に陥る。そうして窓から逃げようとするアイヴィー。あたかもオードリー・ローズが自動車事故で体験したことを再現しているかのように。 

 フーヴァーは言う。オードリー・ローズの霊は、自分が助かるためにアイヴィーを犠牲にするだろう、と。アイヴィーを助け、オードリー・ローズの霊を鎮めるために協力し合おうというフーヴァーの願いも聞き入れられず、ビルは転生など信じず、あくまでもフーヴァーを敬遠しようとする。その一方で、ジャニスはフーヴァーの言葉を徐々に信用していくことになる。 

 やがて、狂乱して錯乱状態のアイヴィーをフーヴァーが連れ出したことで、フーヴァーは誘拐罪を問われてしまい、裁判にかけられてしまう。この裁判が本作の見どころで、輪廻転生をどのようにして証明するかが問われることになる。 

 長引く裁判。その間にもオードリー・ローズの霊はアイヴィーを襲い続ける。そして、本当にオードリー・ローズの霊が取りついているのであれば、アイヴィーに催眠をかけて生前の記憶を呼び覚ましてはどうかということになる。そうすれば被告の証言が成立するからである。オードリー・ローズの存在を裁判官の前に引き出そうというわけだ。しかし、それによって悲劇的な結末を迎えることに。 

 

 本書は1975年の出版で、当時ベストセラーになったというが、それも頷ける。読み始めると止まらなくなる面白さがある。70年代はオカルトがブームだった。本書もそうしたブームの1冊と見られがちだけれど、オカルト小説とひと言で片付けられないものがある。 

 作者のフランク・デ・フェリータは息子に輪廻転生が見られたという経験をしており、この方面についてかなりよく研究したのだろうと思われる。加えて、丹念な描写が一層リアリティをを高める。読みごたえもあり、なかなか重厚な作品となっている。 

 

 オードリー・ローズは、最初は事故で不慮の死を遂げた可哀そうな子供といった印象を受けるのだけれど、物語が進むにつれて、どこか邪悪な存在に見えてくるのが怖い。偶然のような出来事でも、それがどこまでオードリー・ローズの霊が操っているのか分からないっていうのもまた怖い。アイヴィーの言動がどこまでオードリー・ローズの意図によるものかもわからない。そして、徐々にアイヴィーにオードリー・ローズと一体化していくような言動が見られるようになると、早くアイヴィーを助けてあげてと言いたくなるくらいで、分からずやのビルを張り倒したくなってくる。 

 しかし、まあ、ある日いきなり「お宅のお子さんは私の子供の生まれ変わりだ」などと言われたら、誰だって信用できないのが当然と言えば当然である。ビルはそういう「常識人」を象徴しており、神秘に対して懐疑的で、あくまでも合理的な現代人として描かれているように思う。 

 平和な家庭を乱されたくないと願うビル、娘の霊を救済したいと願うフーヴァー、二人の父親の対決、娘を思うジャニス、フーヴァーを信じ始めるジャニス、ジャニスとビルの軋轢等々、三者三様の境遇が絡み合って、オカルトでありながらも彼らの人間的状況を丁寧に描いているところも本書の魅力だ。 

 

 ちなみに本作は映画化されている。僕は映画の方も観たことがある。もう覚えていないけれど、本書を読むといくつかのシーンを思い出した。もう一度映画の方も観てみたい。ビルをジョン・ベックが、ジャニスをマーシャ・メイスンが、フーヴァーをアンソニー・ホプキンスが演じていたのは覚えている。アイヴィー役はスーザン・スイフトで、目のクリクリした可愛らしい顔の女の子だ。 

 

 映画の方は置いておくとして、本書は僕が20代のころに読んだきりになっていたもので、家の整理をしていて発見したものだ。とっくに処分したものと思い込んでいた。なつかしさから読み直したら止まらなくなってしまい、ほぼ一気読みしてしまった。精神分析にかんする言及もふんだんにあるので、それで保存していたのだろうと思う。 

 

 さて、本書の唯我独断的読書評は断然5つ星だ。若いころにハラハラしながら読んで、30年後、同じようにハラハラしながら読んだ。僕が成長していないということか。いや、そうではなく、本書がそれだけ面白いということだ。 

 

<テキスト> 

『オードリー・ローズ』(Audrey Rose)フランク・デ・フェリータ著(1975年) 

広瀬順弘訳 角川書店 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

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