4月30日(日):唯我独断的読書評~『ユートピアの罠』
ジョン・ウインダムの遺作となった『ユートピアの罠』読む。僕の中では読み捨てキャンペーンである。
イギリス貴族オックスフィールド卿は完全な人間による共同体の実現を試み、その恰好の舞台となる太平洋の孤島タナクアトゥア島を買い取る。そこに理想社会を築くために植民者を募集し、38人の男女が先遣隊としてタナクアトゥア島に送り込まれた。しかし、その島は核実験によって放射能汚染された島であり、突然変異した毒グモが支配する島だったのだ。
第1章では、主人公であり語り手であるアーノルド・デルグレンジがこの計画に参加するまでの経緯、並びに、計画の実行過程が丹念に描かれる。
第2章では、タナクアトゥア島の歴史が語られる。ここはかつては人食い人種の住む島だったが、イギリスと交易してから文化的になり、先進国と友好的な関係を築くようになる。しかし、この島の付近で核実験をすることになり、イギリスは先住民に島を捨てさせた。ここから因縁の始まりである。彼らの一部は島に残った。ちなみに、核とか放射能とかいったことは、未開民族からすれば迷信であり、妄想のように見えるものなのだと、改めて思った。
ここまでは正直に言って、読んでいて退屈でもあった。
第3章で先遣隊が島に上陸する。島には鳥や他の動物が見られないこと、山の頂上の方に白い靄がかかっているのが見えることなど、いくつかの異変に彼らは気づく。また、到着早々、何者かによって無線機が壊されてしまい、外部と連絡を取ることができなくなる。そして、標本採取に向かった男、探検に出た一行がクモに襲われて死亡する。外部と遮断され、クモの脅威に曝されながら、彼らは生き残るために防衛策を練る。
ところが、脅威はクモだけではなかったのだ。白人たちによって自分たちの島を追い出された先住民の子孫が彼らに恐ろしい復讐を企てる。最後は主人公のアーノルドと女植物学者カーミラ二人のサバイバルとなっていく。
作者ジョン・ウインダムは『トリフィド時代』で人気SF作家の仲間入りした人である。「異種生物による人類侵略テーマ」(と言っていいのかな)で多くの傑作を残している人である。本書もそのテーマに属するといえるだろうか。
本作品は彼の遺作であり、1969年に執筆された。ところが、理由は分からないけれど、本作を作者の死後十年に刊行するという遺言を残したのだ。遺言通り、作者没後10年の1979年に本書が出版されたといういきさつがある。ファンにとっては長い10年だったかもしれないな。
本作は、すでに述べたように、第1章、第2章辺りは少々退屈する。以後も、主人公とカーミラの思想対決は、興味をそそられる部分もあるけれど、幾分冗長といった観もある。
彼らに危機が迫るようになってくると、俄然、面白くなる。中盤からラストにかけて、一難去ってまた一難の冒険譚はスリリングでもあった。
ストーリーは面白いし、その設定もいい。文明批判、学術的討論にも事欠かず、クモの生態にも詳しくなるかも。ともかく、内容は充実していると思う。
さて、僕の唯我独断的読書評価は3つ星半といったところか。いくつかの難点がなければ間違いなく4つ星以上になっていただろうに。
<テキスト>
『ユートピアの罠』(Web)ジョン・ウインダム著(1979)
峰岸久訳 創元推理文庫
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)