4月28日:「不思議な物語」を読む(4) 

4月28日(金):「不思議な物語」を読む(4) 

 

 ブルワー・リットン「不思議な物語」第31章から40章までを読んだのでメモを残す。 

 

 市長主催の舞踏会。フェリック医師は外国から帰郷したばかりのフィリップ・ダーヴァル卿と会う。彼らは魂についての論議を行う。フィリップ卿は、悪の裁きのために帰郷したのであり、フェリックにその助手を依頼する。フィリップ卿は小箱から秘薬を取り出す。フェリックは魂の神秘に触れる。そこで悪の権化とされる人物、マーグレイヴとフィリップ卿の激しい闘争場面を見る。 

 清明な意識を回復した時、フェリックが見たのは幻覚を見る以前の光景そのままだった。意識を離れた魂を彼は経験する。フェリックはフィリップ卿に小箱の秘薬を研究させてくれと頼むが、フィリップ卿は断る。この時のやり取りが後にフェリックに不利な証言となってしまう。 

 その夜、往診の帰り、フェリックは道端に倒れている人間を発見する。それはフィリップ卿だった。卿は何者かに殺されていたのだ。霊薬、秘薬の入ったあの小箱は持ち去られていた。 

 フィリップ卿の遺言執行人として、フェリックの昔の知人であるストラーンが町に来る。フィリップ卿の遺言の中に、卿はこれまでの研究の手記を残しており、学識のある人間にその研究を引き継いでもらいたいというものがあった。フェリックがその任を負うことになった。 

 その頃、リリアンがLの町に帰ってきた。フェリックはリリアンに会いに行く。そこでリリアンにマーグレイヴとは関わらないようにと約束させる。しかし、それ以後、リリアンのフェリックに対する態度が変わっていく。 

 フィリップ卿の意思を継いで、フェリックは卿の手稿を読む。そこにはアレッポにて、不老不死の霊薬を巡って、聖者とルイ・グレイルのことが語られる。聖者はグレイルに秘薬を与えることを拒む。その後、聖者は殺され、グレイルが姿をくらます。不老不死の霊薬は失せていた。 

 卿の遺稿を読んでいるうちに、フェリックは幻覚を見る。マーグレイヴの姿をそこに見る。その後、フェリックは深い眠りに陥ってしまう。眠りから覚めた時、卿の遺稿が紛失していることに気付く。 

 遺稿の紛失をストラーンに知らせるフェリック。遺稿はどこを探しても出てこない。ストラーンは密かにフェリックを疑う。その後、治安判事のヴィガーズが警察を伴ってやってくる。彼らは、フィリップ・ダーヴァル卿殺人事件の容疑者として、フェリックを拘留する。 

 

 物語がめまぐるしく展開して、とても細部まで書ききれないけど、大体そういう流れだ。フィリップ卿とフェリックの論議、フィリップ卿の遺稿に描かれている聖者の言葉など、神秘思想が展開され、哲学的な内容が多くなる。 

 リリアン・アシュレーが物語に復帰するが、相変わらず、彼女には神秘的な雰囲気がつきまとっている。妖精的な存在だ。そして、マーグレイヴとのかかわりがそれとなく暗示されているようだ。リリアンには謎が多い。 

 フィリップ・ダーヴァル卿が姿を現したと思ったら、すぐに舞台から消える。ジュリアス・フェイバー博士、並びにロイド博士とその家族もそうだったが、表舞台から姿を消す登場人物が多いように思う。それも本作の特徴的なところだ。 

 そのフィリップ卿は聖者を殺したとされるルイ・グレイルを追っているのだけど、どうやらグレイルとマーグレイヴが同一人物であることがうかがわれる。霊薬によって若返ったグレイルがマーグレイヴであるようだが、そこはまだ明確にされていない。 

 フィリップ卿が師事した聖者が魅力的だと感じた。卿はフェリックに言う。魔術には人を助けるものと人に災厄をもたらすものとがある。いわゆる白魔術と黒魔術だ。両者の闘争が一つのテーマとして見えてくる。 

 卿の殺害事件、小箱の紛失、さらには遺稿の盗難と、立て続けに事件が起きて、謎が深まり、物語が面白くなってきた。これらの謎に加えて、リリアンの変貌、マーグレイヴの不穏な動き、フェリックの焦燥などが絡み、輻輳する。 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

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