3月6日(火):言わないYさん
今日は定休日であるが、午後から再びYさんに来てもらって雑用を手伝ってもらっている。午前中は家の方の仕事を少し片づけていた。
Yさんには資料の整理を手伝ってもらう。手伝ってもらって、僕は助かるのであるが、気になることもある。Yさんは今仕事を探している身である。一緒に作業をしていて、Yさんが就職するには、まだいくつかの関門を経なければならないなと感じてしまった。Yさんに限らず、何人かのクライアントさんにも同じものを感じたことがあるのだけれど、「雇いにくい人」というタイプの人があるものである。これはつまり、雇用者の目から見て、「使いにくい」とか「扱い辛い」というように見えてしまう人のことであって、その人たちの性格や能力を指しているのではないということを明記しておく。
「雇いにくい」タイプに見える人としての典型的な行動は、「言われたことだけはします」とか「できることしかしません」とか「私のやり方でしかやりません」というもので、その人たちはそういう雰囲気を醸し出してしまっているのである。この言動なり雰囲気は、雇う側に拒否反応を引き出してしまうかもしれない。僕はこれまでの経歴において、こういう人たちの何人かと一緒に仕事をしたことがある。それはたいへんである。逐一指示を出さなければならないし、こちらが手一杯で目が行き届いていない時は、その人は何もしていなかったりする。それで随分がっかりきたものである。そのタイプの人たちは、上の人が忙しそうにしていると、遠慮して引き下がる人である。本当は引き下がるよりも、「何か手伝いましょうか?」とか「次は何をしたらよろしいですか」と聞いてくれる方が、上の人にとってはありがたいものである。もちろん、次の指示を出す間、上の人の仕事は中断してしまう。しかし、全体として見れば、そうした方が職場全体は動いていくのである。
偉そうなことを言っても、僕たちは初めはそういう段階を多少なりとも経てきたものである。今、仕事を普通にこなしている方でも、最初はそういうものだったのではないかと思う。僕もそうだった。僕の最初の「労働体験」なんて、今から振り返ると、相当ひどいものだったよ。いつかそれを話してもいい。でも、人はどこかでそういうことを学ぶものだと思う。もし他の人たちが仕事をしていて、自分の手が空いたとすれば、その時「今、自分は何をするように求められているだろうか」を知るようになるものである。そこで自分の仕事を見つけることができないなら、自分から仕事を求めていくようになるものではないだろうか。Yさんにしろ、幾人かのクライアントにしろ、そういう体験が乏しかったのだろうと思う。
後から聞いたところでは、Yさんは心配事を抱えてしまって、夕べはほとんど眠れなかったのだと言う。僕はそれを早く言ってほしかった。正規の雇用関係であれば、「じゃあ、今日は帰って休んで」とか「たいへんなことは分かるけど、無理しないでこれだけをやってくれ」などと言われることであろう。言わないということは、周囲の人からすれば、その時のYさんの能力や性格だと判断してしまい、Yさんの個人的事情に依るものとは思ってくれないということも生じるかもしれない。これはYさんにとって損失をもたらすものである。Yさんが僕に対しても言ってくれないということで、僕は何回かがっかりしたこともある。言ってくれれば力になれたかもしれないのに、後になってから、あの時、実はこうだったというような形で言うので困るのである。言うのがいつも遅いのである。そして、言ってくれたことで僕が手を煩わすことより、言ってくれなかったことで被る損失の方がお互いにとってはもっと大きい物なのだということが、彼女にはなかなか理解してもらえないのである。これまた、困ったことである。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)