3月3日:Yさんの念押し

3月3日(土)Yさんの念押し

 

 昨日はそれで、けっこうたいへんな一日だった。昨日のクライアントだけでなく、この数日のクライアントのことで、僕はけっこう気持ちが掻き乱されていた。少ししんどい日々が続いていたのだ。

 Yさんに連絡して、会った。Yさんは優しい。僕は昨日、そのことをすごく実感した。そして、「ああ、僕はYさんから愛されとるなあ」と、本当に体験した。Yさんは「自分の気持ちを伝えるのが下手だ」ということを述べたことがあるのだけれど、僕には十分気持ちが伝わっている(つもりでいる)。その気持ちだけで、僕は充分だ。僕の方の気持ちも彼女に伝わっていたらいいなあとは思う。彼女が僕に与えてくれているものを、同じように彼女に与えることができていたらいいなあと思う。

 たいへんな仕事ですねと、僕はよくクライアントから言われる。本当にたいへんな仕事だ。もし、誰からも尊敬されて、好かれているというような臨床家がおられるとしたら、少なくとも僕はその人を信用できないと思う。臨床家は恨まれるものだ。逆に過度に好意をもたれたとしたら、それは疑わなければならない。人から尊敬されたり、感謝されることを期待する人は臨床家には向かないと僕は思う。敵意を剥き出しにして来られる人や、猜疑心の塊のような人とも会わなければならない。何度も試されることもあるし、クライアントから落第点を頂くこともある。僕の目の前でやってくれたらいいのに、陰でこそこそとネット上に書き込んだりするような、裏で何をやっているか分からないという人もおられる。いいクライアントとだけやっていきたいとは思うが、そうもいかない。

 怒りを駆り立てられてしまうクライアントもいる。逆転移というやつだ。面接後に激しい怒りを体験することもある。僕の義務として、僕が体験しているその怒りに対して目を向け、その怒りがどこに由来するものであるかを僕は突き止めておかなくてはいけない。すぐにそれが分かる場合ばかりとは限らない。十時間以上かかることもある。さっさと無視してしまえば、それで済ませられるのであれば、本当にラクである。一時間の面接で6000円は高額だとおっしゃられる方もおりますが、こちらは自分の精神的安定を犠牲にして仕事しなければならないこともあるので、僕は決して高い料金ではないと思っている。むしろ、自分を安売りしているように感じる時さえある。

 こういう話はYさんにはできない。僕はそう感じている。労働上の困難を話すことは、これから職に就こうとされるYさんの気力を挫いてしまいそうに思うからだ。僕もこの仕事をやっていて、当然、良かったこともたくさん経験している。苦しいことが重なると、今回のような状況に陥ることがある。でも、大抵は何とかなるものであるし、少々のことでは僕も潰れはしないのである。あまりYさんに心配をかけるのも良くないなと思っている。

 Yさんと会って、話をしていると、僕は改めて空腹を感じた。いいことだ。身体への注意が戻ってきたということだから。彼女と別れて、僕はラーメンでも食べに行こうと決めた。ちょうど帰り道に「ラーメン横細」(本当は「横綱」だけれど、あの看板はどうしても「横細」に見えてしまうので、僕はそう呼んでいる)があるので、寄って帰ることにした。Yさんは偉いと思ったのは、「帰りに呑んじゃダメだよ」と僕に念を押したことである。あの念押しがなければ、ラーメン屋で思わずビールでも注文していたかもしれなかったからだ。うーむ、僕のことはどうやらお見通しのようだ。

 ビールは飲まなかったけれど、ビールを飲んだことにして、そのビール代をYさんとの旅行資金貯金箱へ入れておいた。これでいいのだ。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

 

 

 

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