3月14日(火):VIVAマカロニ~『皆殺しのガンファイター』
アンソニー・ステファン主演のマカロニ作品。1970年公開。
シェイクスピア劇を独演中のジョーは、そこでならず者5人を殺して保安官事務所に拘留の身となる。保釈金を払った叔母のおかげで留置場から出ることができたジョー(代わりに叔母からのパンチを食らう)。叔母から亡くなったフランク叔父の鉱山を引き継いだことを知り、ジョーは鉱山のある町へと向かう。
町に着くジョー。町はバーグという男が牛耳っており、叔父の鉱山もバーグの所有となっていた。叔父はポーカーに負け、鉱山をカタに取られ、その後、谷に落ちて事故死したというが、不審を抱いたジョーは単身鉱山に張り込む。そこは暴力が支配するバーグの独裁世界となっていた。ジョーは叔父の死の真相を探り、鉱山を取り戻そうとする。一方、バーグの方でもジョーを片付けようと部下を送り込む。
マカロニウエスタン最多出演の記録を持つ(らしい)アンソニー・ステファン。どういうわけか、僕は本作のアンソニーが一番いいと思っている。シェイクスピア俳優に扮し、実際、シェイクスピア劇を作中で演じるのだど、それがまたいい。その他、旅芸者の老人に変装したりと、他の作品では見られないようなステファンの演技も見られる。
ラストは30分近くに及ぶ銃撃戦を繰り広げる。90分程度の映画のうち、ラスト30分が撃ち合いという構成だ。この銃撃戦のウエイトがあまりに大きいわけであるが、変装したり、トリックを使用したりと、工夫を凝らして、飽きさせないような作りになっている。
ステファンは、例えばジュリア―ノ・ジェンマのようなアクロバティックなことはしない。だから目を見張るようなアクションはあまり期待できない。その分、ガンファイトにアイデアを盛り込み、さまざまな趣向を凝らして、それによって他のマカロニアクションと引けを取らないようにしているのではないかとも思う。
悪役のバーグを演じるのは、これまたマカロニ悪役でお馴染みのエドゥアルド・ファヤルドだ。スペインの俳優さんだ。悪役でも、紳士然とした悪役とか軍人とかの役が似合う人である。本作では幾分粗野な悪役ボスを演じていて、少し珍しい感じがする。
バーグの部下のボドをフェルナンド・ビルバオが演じる。知能は低いが怪力の獣といったキャラだ。こういう俳優さんをよく見つけてくるものだ。僕の中では本作で妙に印象に残っている。
その他の脇役陣は、床屋をフェルナンド・セルリ、その娘をヴェロニカ・ロロセックが演じる。二人はジョーに協力する役柄だ。床屋の方は、仕事を娘に丸投げして、自分は酒浸り。娘は、父に愛想を尽かしているようでも、仕事はこなす。激しい銃撃戦を繰り広げる本作の中でひときわ平和的な人たちだ。
もう一人女優さんがいる。酒場の女主人リタを演じるメアリー・バズ・ボンタルだ。なかなか可愛らしいお顔をしているが、本作では主人公との間に何もない。そういうロマンス的なエピソードが皆無である。
ところで床屋父娘はシェイクスピアを知らないらしい。海の向こうのガンマンだと思っている。これはまあまあな時代錯誤である。シェイクスピアは西部開拓時代よりもはるかに昔の人である。この時代にはシェイクスピアは歴史上の有名人になっていたはずである。
しかしながら、シェイクスピア劇に夢中になるなんて堕落だといった信念の持ち主たち、つまりバリバリのプロテスタントたちが、イギリスやヨーロッパからアメリカに移住してきたのだから、シェイクスピアを知らないという上記のシーンも、案外、リアルなのかもしれない。
物語には全く関係がないけれど、そんなことまで考えてしまう。
本作は傑作とまでは言えないけれど、僕のお気に入りの一作だ。
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)