12月12日:キネマ館~『盗聴作戦』『パニックインスタジアム』

12月12日(土):キネマ館~『盗聴作戦』『パニックインスタジアム』

 

『盗聴作戦』

 ローレンス・サンダーズの小説の映画化。僕はこの原作を読んだことがある。全編、盗聴テープや盗撮フィルム(いずれも文章でだけれど)で構成されていたものだった。読んでいてイライラしてきて、「技巧的には優れているかもしれないけれど、こんなの小説じゃねえ」などと言って、それこそ文字通り、本を投げ飛ばした。映画を観て、「ああ、こういう話だったのね」と初めて理解した次第だ。

 金庫破りの罪で10年の刑に服していたアンダーソン(ショーン・コネリー)が刑務所を出所するところから映画は始まる。娑婆に出たアンダーソンが狙うのは、セレブが住む超高級マンションである。このマンションから金品を丸ごといただいてしまうという大計画を立てる。計画実行のために彼はメンバーを集める。運転手、技術屋、鑑定人、見張り役など、若者から年寄りまで個性的なメンバーが集まる。

 この計画だけ見るなら単なる大掛かりな泥棒のストーリーなんだけれど、この計画に厄介ごとが絡んでくることで物語が面白くなる。アンダーソンは資金調達のためにマフィアにこの話を持ち掛ける。マフィアはアンダーソンの条件を飲むが、その交換条件として、マフィアの困った一員をこの計画のメンバーに入れ、犯行中にこの一員を消せという任務をアンダーソンに課す。結局、この余計な任務がアンダーソンの命とりになってしまったのだが。

 さて、なかなか凝った作りの映画だと思う。メンバーたちも個性的だ。技術屋のクリストファー・ウォーケンは本作がデビューということだろうか。鑑定人には名脇役のマーティン・バルサムが演じるのだけれど、「オネエ」ぶりがハマっている。ショーン・コネリーは金庫破りの名人みたいな役で、金庫破りはセックスのようなものだと言うくらいであるが、どうしても金庫を開けようとしない住人にしびれを切らすあたり、名人のプライドが傷つけられるのだろうか、どこか人間臭い悪役を演じているように感じた。

 この作品のもう一つの軸は盗聴・盗撮である。ある者は浮気調査のために盗聴し、ある者は政治犯の動向を見張るために盗撮する。いずれにしても、どこかで誰かに監視されているのだ。現代の監視社会を先取りしているようだ。堅固な超高級マンションでさえ監視の手が及んでいるのだ。どこにもプライバシーなんてものは無いのかもしれない。ただ、盗撮も盗聴もすべてアナログではあるが。そして、これも同じことだと僕は見做しているのだけれど、誰も自分の知らないところで盗聴・盗撮されているように、犯人たちも自分たちの知らないところで警察に通報されてしまっているのだ。人知れず犯罪を犯すということもできないのである(これはこれで良いことではあるけど)。

 

『パニックインスタジアム』

 この映画も子供の頃に洋画劇場で観て、死ぬほど震え上がった作品だ。いい機会なのでもう一度、それもきちんと見ておきたいと思ってレンタルした。

 ホテルの一室の窓からサイクリングする男性を狙撃する。銃を分解し、衣服に隠し、ホテルを後にすると、車に乗り込む。車はやがてスタジアムに到着する。全米が注目するフットボール決勝戦が行われることになっている。スタジアムに入ると、観客席には向かわず、スコアボードの上に登り、身を隠す。狙撃犯の行動はすべて一人称で映される。

 試合が始まる。男を発見したのは上空カメラである。ライフル銃を手に佇んでいる。スタジアムの支配人(奇しくもマーティン・バルサムが被ってしまった)に連絡が入り、支配人が警部(チャールトン・ヘストン)へ通報する。警部はジョン・カサベテス演じるスワット隊の出動を要請する。

 スタジアムは超満員状態である。そこには借金苦でこのゲームに命がかかっている男、選手の友人である神父、スリとその女、職を失った男性とその妻子などが観戦している。彼ら一人一人のドラマが進行するが、それと無関係に、あるいはそんなドラマなど嘲笑するかのように、スコープを通して狙撃犯が彼らに狙いをつけている。

 この映画、タイトルからするとパニック映画のように見えるかもしれない。実際、その要素はあるんだけれど、僕はミステリ映画に位置付けている。基本的に、警察とスワット隊の活躍が描かれているからだ。彼らの動きが物語を進めていく。と言うのは、犯人側はまるで動こうとしないからである。

 犯人は誰を標的としているのか、何を目的としているのか、動機は何か、そういうことは一切知らされない。それだけになかなかアクションを開始しようとしない犯人が不気味に見えてくる。何度もスコープから客席を眺める。まるで獲物を物色するかのようにである。自分たちが狙われていることも知らないまま試合が展開し、客たちのドラマが進行するという、この解離もまた恐ろしい。

 スワット隊は、作業員になりすまして配置につく。犯人は見事な腕前で一人、また一人とスワット隊員を狙撃する。一人の隊員が犯人を撃つが、致命傷を与えることができなかった。手負いの傷を負った犯人は無差別に観客を撃ちまくる。客たちはパニックに陥り、皆、一斉に外に逃げ出そうと駆け出す。この辺りの描写がパニック映画と言えば言えないこともない。ヘストンとカサベテスらはスコアボードに突撃して、狙撃犯を始末する。

 事件は一件落着。誰もいなくなった夕暮れのスタジアムに一人佇む支配人ことマーティン・バルサムの哀愁でもって幕を閉じる。

 さて、この映画、最後まで犯人が何者で、その目的、標的、動機も一切解明されないまま終わる。何とも後味の悪い感じがしないでもないが、犯人の内面も背景も、一切合切が明確にならないからこそ恐怖感が尾を引いて残るのだ。

 一体、この男は何者だろうか。銃を改造するくらいだから、それに関する知識や技術を多分に有しているのだろう。また、狙撃の腕前は一流であるので、軍隊で訓練を受けた人間であろうか。ベトナム戦争の帰還兵だろうか。いろんなことが考えられそうだけれど、犯人側の詳細を一切描かないところに本作の命があると思うので、余計な詮索はしないでおこう。

 それで、この映画の何が怖いのかと言うと、たった一人の、正体も何も分からない無名の一人の男が、何万人という人間をパニックに陥らせることができるというところにある。この力関係である。一人の人間が帯びてしまう過剰なパワーである。こういうのは映画の世界だけにしてほしいのだけれど、現実にこうした無差別大量殺人が起きる世の中である。不幸な世の中になったものだ。

 さて、出演者は上述の三人のほかに、スリ役をウォルター・ピジョンが演じている。『我が谷は緑なりき』の純粋な神父役が僕の中では印象に残っているけれど、こういう役もこなすのだ。いい味を出していると思う。無職の父親はボー・ブリッジス。ジェフ・ブリッジスとは兄弟で、確かに顔がよく似ておる。その他、多数の出演者がいい演技をしてサスペンスを盛り上げる。

 

 本項ではミステリ系の作品を二作取り上げた。唯我独断的評価をしておこう。

 『盗聴作戦』は四つ星。観て損はないし、それなりに楽しめる作品だ。

 『パニックインスタジアム』は断然五つ星だ。見るべし。

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

 

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