10月22日:トクリュウ犯罪 

10月22日(火):トクリュウ犯罪 

 

 何気なくワイドショーを見た。というより、家のテレビがついていたから偶然見たという感じだ。どうせオータニのことしか言わんのだろうと思っていたけど、最近はトクリュウ犯罪の報道が多いようだ。事件が多発しているためであろう。 

 トクリュウ犯罪というのは、匿名・流動性という意味で、要するに、闇バイトで実行役を集めて、指示役が実行役に指示を出して、強盗などを実行させるという形の犯罪だ。 

 20代の若い人たちが実行役で捕まったり、自首したりしている。中には中高校生もいたというのだから驚きだ。 

 彼らは闇バイトに応募してしまう。それから個人情報などを握られて抜けられなくされてしまうそうだ。脅迫までされ、犯罪ではないかと気づいても、抜けだすことも警察に通報することもできず、そのまま実行してしまうようだ。 

 この問題に関して、イシバも乗り出し、国を挙げての対策をしていくようである。それはそれでけっこうなことであるが、もっと本質的な部分もあるのではないかと思う。 

 

 まず、闇バイトに応募してしまう人は、何らかの生活苦があるはずである。そうでない人もいるとは思うけれど、応募した人それぞれの事情があるはずである。経済的苦境に陥っている人にとっては、高収入のバイトは魅力に映るだろう。 

 でも、それだけではない。彼らが犯罪行為を途中で抜け出せない一因がここにもあると僕は思う。途中で思いなおして強盗を止めたとしても、生活苦が変わらないのであれば、自暴自棄的になってしまうかもしれない。いっそのことムショに入った方がましだと思い、強盗や殺人を遂行してしまうことだってあるかもしれない。 

 仮に、強盗を思いとどまったとしても、強盗未遂、家宅侵入などの罪は犯してしまっていることもある。いずれにしても罪に問われ、前科を抱えることになる。強盗を遂行しても、途中で思いとどまっても、結局のところ、同じことであり、実行役が救われることはないということになりそうだ。 

 なによりも貧困をなくすことだと僕は思う。そこは国がやるべきところなのに、イシバはピントがずれているようにも思う。闇バイトに手を出さないようにという忠言はだれでもできるし、そこは政治家が口出すことではない。闇バイトに魅力を感じるような階層の人を生み出さないことが政治家の仕事ではないかと僕は思う次第である。 

 

 ところで、実行役の人たちが指示役の言いなりになってしまうという点も考えよう。警察もワイドショーの出演者たちも、脅されているので言いなりになってしまうと考えているようだ。実行役になってしまった人の中にはそういう人もあるだろうとは思う。でも、指示でも無いよりかは有ったほうがいいという人もあるだろうと思う。要するに内面が空虚な人たちもいるだろうと思うわけだ。自分の内面に目を向けると、深淵しか見えないという人たちだ。そういう人は自分の中身を指示役の指示で埋めてしまうのである。そんなものでも有った方が、自己の空虚さを見なくても済むので、助かるわけだ。言いなりになるのは、それが彼らの存在様式と適合しているからである。そういう人もいるだろうと僕は思っているわけだ。 

 闇バイトに応募してしまったら、指示役と接点を持ってしまったら、勇気をもって警察に通報しようなどと呼びかけていたけれど、素朴な人間観だ。彼らは勇気がないわけではない。むしろ自分というものがない人たちであり、無意志な人たちが実行役になってしまうという観点が欠けているのである。 

 だから、闇バイトに応募しながら、止めたという人もたくさんいるはずである。闇バイトに応募して、実行役にまでなってしまう人たちとならない人たちとがいるはずである。問題となっているのは前者の人たちであるが、前者の人たちと後者の人たちとは違いがあるはずである。その違いを研究してみたらいろいろ分かることもあるだろうとは思う。 

 後者は、危険を感知するだけの自己覚知があり、危険を感じる自己があり、ヤバいと思って早めに止めようと判断することができ、自分の身を守ることができた人であると僕は思う。実行役になってしまう人とは雲泥の差があると思う。 

 警察もワイドショーの面々も、後者のような人にアピールしていることになるわけで、まったく無意味なことをしているように見えてしまう。つまり、実行役になることのない人に実行役にならないように忠告していることになるからだ。 

 本当は実行役になってしまう人たちにアピールしなければならないのである。それができないのは、実行役になってしまった人たちを理解しようとしないからであり、そういう人を理解する準拠枠を有していないからだと思う。 

  

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

 

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