10月10日(日):断酒9か月
女性友達と知り合ってから、僕は一人でお酒を飲むことがバカらしくなった。お酒を止めたのは、今年の1月10日からだった。だからちょうど丸9か月が経過したことになる。その間、僕は一滴もお酒を飲んでいない。
1月10日という日付を覚えているのには理由がある。前日の9日の晩は飲んだ。10日はアルバイトに行っていたので飲む機会がなかった。翌日の11日に、新年の挨拶も兼ねて、僕の師匠に会いに行った。師匠が「今日は1月11日。オール1の日ですね」と言ったので、僕が「だから一番出来の悪い弟子が訪ねて来てるんや」と冗談を飛ばしたのを覚えている。師匠の家から帰る途中、夕食にしようと思った。その時にビールを注文したのだけど、ビールが喉を通らなかったのだ。初めて経験することだった。従来なら、一日休肝日を挟んだので、この日は絶好調で飲めるはずだったのだけど、飲めなかったのである。以来、アルコールを摂取することはなく、今日に至っている。
酒を止めると、食べる量も減って、瞬く間に痩せていった。半年間で10キロほど体重が減った。久しぶりに会うという人はみな口をそろえて「痩せたな」と言ってくれる。中には「病気になったのか」と心配してくれる人もいた。誰が見てもそれと分かるくらい痩せたのだ。
僕は時々、彼女に酒を飲んでいないということを報告する。彼女は「すごい」とか「意志が強い」とか言ってくれる。彼女は僕の酒飲み時代の姿を知っている。それは「後期」の姿だったけれど。それに、彼女から「酒を止めてほしい」と頼まれたわけでもないのだ。僕が自分勝手に始めて、それを時々彼女に報告していただけである。
彼女が「意志が強い」と言ってくれても、僕自身は意志の力というものを認めていない。挫折して、なんて意志が弱いのだなどと嘆く人がいるけれど、意志力なんて人間にはないのだ。人間には意志はあるけれども、その意志そのものに強さや力があるわけではない。あるのは、目標と決断と欲求だけである。そのうち人間を動かすのは欲求だけである。酒を飲みたくないという欲求だけが僕を突き動かしていたのであって、この欲求が強かっただけである。意志の強さではないのだ。酒を飲みたくないという欲求から、酒は飲まないという決断をしているだけである。そして酒を止めることで達成したい目標があっただけのことである。彼女と別れても、僕はこれを続けるつもりでいる。
もし、彼女と別れたことで、僕が以前の状態に戻ったとしたら、僕は本当の意味では変容していなかったのだ。本当に変容を達成した人は、以前の段階には戻らないものである。同じことを繰り返すのは、その人が本当には変わっていないからだというのが、僕の考えである。
こうなると、意志力はさらに無関係になる。僕がお酒を飲まないのは、ただ、以前の僕とは違っているからだということになる。それだけの理由である。
でも、酒を止めることで達成したかった目標というのは、彼女と決別してから、ひどく曖昧になったし、重要さが減少した感じがある。当初の目標は今は僕の中ではあまり意味をなさなくなった。
しかし、得たものも多い。酒を飲む幸福と酒を止める幸福の両方を経験した。同じように、酒を飲む苦しさと酒を止める苦しさも経験した。経験の幅が広がったように、今では感じている。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)