1月7日:書架より~『心理学者との対話』

1月7日(木):書架より~『心理学者との対話』(片口安史)

 

 片口先生と言えばロールシャッハテストの第一人者だ。片口式のロ・テストはクロッパーに基づいているんだけれど、その日本版と捉えていいだろうか。僕はエクスナー式で学んだが、ロ・テストを学ぶには先にベック式やクロッパー式を学んでおいた方が良さそうに思う。ロ・テストに関しては、どうも僕は順番を間違えた感じがしている。

 それはさておき、そのロ・テストの第一人者の手になる本書はちょっと変わった本だ。心理テストを中心に性格に関する諸々のテーマを一般の読者向けに啓蒙する目的で書かれたものだけれど、架空の心理学者と二人のジャーナリストのインタビュー形式で綴られている。

 架空の心理学者は林先生といい、二人のジャーナリストは八瀬と出部と言う。痩せとデブか、この時点でクレッチマーが出てくるなと予想がつくが、案の定だった。一応、一週間に一回面談をするという形式を取り、計8回のインタビューが収録されているという体裁である。それぞれの回の中心テーマが疑問文の形で章のタイトルになっている。

 以下、それぞれの章題を記すと、

「1・心理学者は見透かし屋?」

「2・性格ってなんですか?」

「3・わたしの性格のタイプは?」

「4・性格テストの種類は?」

「5・性格テストってほんとうに当たるんですか?」

「6・不安の程度を測ることができますか?」

「7・性格は変わりますか?」

「8・性格テストの役立て方は?」

 となっている。

 まず、心理学全般ないしは心理学者を取り上げ(1)、その中から性格という一分野に焦点を絞り(2)、性格研究のために必要なタイプ分け、つまり類型論などを論じ(3)、その測定に関するテストにはどのようなものがあるか(4)といった流れになっている。(5)以降は幾分実用的といっていいような内容に踏み込んでいく。

 

 本書は昭和38年出版という、およそ60年前の古い本ではあるけれど、現代においても大切なことが述べられている。それがインタービュー形式でさらりと綴られているあたりよくできている。ウッカリ読み流してしまわないようにしなければならない。

 理論と実践の混同のこと、人間理解の温かい理解と冷たい理解のこと、性格テストが食い違う時のこと、シュプランガーの類型はドイツ的すぎる(つまりその国独自のものとかその国の傾向が理論に持ち込まれている)こと、人間研究の立場のこと、内向外向は変わりうること、タイプ分けは出発点であること、不安の高低は病気の段階と関係があり治癒することで不安得点が高くなることもあること、性格の輻輳節は実証性に欠けること、人格変化という言葉の意味はドイツとアメリカとでは異なること等々、ためになること、重要なことがさりげなく語られている。

 

 古い本のいい所は、今では言われなくなったこと、現在ではなされなくなったことなんかの記述があることである。ジャンポロジーなんてよう考えついたな。これはアメリカの写真家であるフィリップ・ハルスマンのアイデアによるもので、人間は飛び上がった瞬間に意識的な構えが取れて、その人の性格や資質がむき出しになるという。だから、被験者にその場でジャンプさせて、それを写真に撮り、それで性格判定ができるというわけだ。

 興味のある人、時間のある人は試してみたらいいかと思う、友人や知人に頼んで、その場でジャンプしてもらうのだ。飛び上がった瞬間を写真に撮るわけだ。一人一人飛び方が違っているだろうし、空中における姿勢にも違いがあるだろう。そこからその人の性格を考察してみると面白いかもしれない。

 ただし、このテストは信頼性や妥当性がまったく検証されていないので。あくまでも個人の楽しみでやってみられることである。ちなみに、僕はそんな暇はないし、お願いできる人も数少ないので御免蒙る。

 

 さて、片口先生と言えばロールシャッハテスト、僕の中では両者はセットになっている。ロ・テスト抜きの片口先生なんて想像もつかなかったけれど、本書によって、先生の別の一面を垣間見ることができて、なかなか貴重な体験だった。真摯に性格を研究し、人間を理解しようとされている学者の姿を見ることができて、なんか嬉しい感じがしている。片口先生に興味の無い人でも、本書は普通に読んで普通に面白い一冊だと思う。でも、読むと片口先生のファンになってしまうかも。

 

 本書の唯我独断的読書評価は4つ星だ。この2倍3倍の分量でも良かった。

 

<テキスト>

『心理学者との対話』(片口安史 著)牧書店

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

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