1月19日(木):ミステリバカにクスリなし~『シャフト旋風』
アーネスト・タイディマンの黒人私立探偵ジョン・シャフトが活躍するシリーズ。
シリーズ一作目は『黒いジャガー』のタイトルで映画化されており、4作目である本作も映画化されている。著者のタイディマンは『フレンチ・コネクション』の脚本も書いており、映画方面での仕事も多いためか、本作も映画のような場面展開を見せる。シャフト、敵たち、その他の人物の登場シーンのシークエンスがきめ細かく、小気味良くストーリーが展開する。
ストーリーはシャフトが休暇旅行先のジャマイカから冬のニューヨークに帰ってくる場面から始まる。その夜、親友であるアスビーから助けてほしいという電話を受け取るシャフト。アスビーは詳しいことも言わず、とにかく助けに来てほしいとしか言わない。夜中にも関わらず、アスビーの経営する葬儀・保険会社のビルへ赴くが、シャフトが到着するやいなや、アスビーのビルが爆発する。何者かによって爆弾を仕掛けられたのだ。
アスビーは一体何を依頼しようとしていたのか、どんな危険が彼に迫っていたのか、親友を殺された復讐心に駆られてシャフトは調査に乗り出す。
シャフトはアスビーの妻であるアーナの身辺を警護し、やがてアスビーの共同経営者であるケリーに目をつける。調査を進めていくうちに、アスビーが賭博の胴元に手を染めていることが明らかとなる。
そういうストーリーであるが、僕の記述は主人公目線でしかないもので、これでは映画にならない。シャフトの動きを追いながら、敵側の動静も描写される。
アスビーは賭博の売上金50万ドルを棺桶に隠すのである。マフィアであるマスコラはそのカネを追っているのだ。読者にはネタバレしてるのだけれど、それで面白味が半減するわけではない。
敵側の動きが読者に示されるので、シャフトに危険が迫っていることや、敵に出し抜かれていることなどが伝えられるのである。主人公が襲われるよりも先に危険が迫っていることを知らされ、主人公が追い付くよりも先に敵が先手を打つなどのことが知らされるわけである。こういうところが映画的演出のように僕は感じた。
加えて、読者は真相を知っているのである。アスビーが何をしたかを知ってるのである。シャフトも敵も、双方から徐々にその真相に近づいていくところにスリルのようなものを体験する。
さらに、主人公シャフトが非常にアクティブである。アクションシーンも満載である。ラストのカーチェイスシーンなど映画にしたらさぞ面白いだろうと思うところである。もちろん、小説としても楽しめる。
作品としてはエンターテイメントであるが、僕はミステリに含めている。純粋に謎解き作品ではないものの、探偵の調査と活躍に主眼を置いているのでミステリに含めてもいいかなと思っている。
人物の言動だけを的確に記述する文体は脚本的とも言えそうだ。情景描写や内面的な記述は最小限に抑えられている感じである。その辺り、小説としては物足りないと感じる向きもあるかもしれない。
主人公が黒人というのも独特であるかもしれない。ブラックパワーの時代でもあったので、その時代の感覚を取り入れたのかもしれない。探偵としてはユニークなキャラであるかもしれない。白人の警部とも最後まで良好なパートナーシップを築けないところも一種独特である。
そして、日本に住んでいる僕には十分には理解できないけれど、差別の壁もあるのだろう。おそらく、作品の随所に差別が描かれているのかもしれない。そこは十分に理解できたとは言えなさそうだ。
一つ感心したのは、シャフトが高級マンションに足を踏み入れるシーンだ。彼の身分では絶対に入ることが拒絶されてしまうのだろう。しかし、彼だからこそそこに入れる手段もあるのだ。配達員に変装するのである。こういうさりげない場面に差別が見え隠れするのである。
さて、本作は意外に面白かった。大して期待せずに読んだのもあるだろう。思ったよりも面白く読むことができた。そのため少々採点が甘くなるかもしれないけれど、僕の唯我独断的評価は4つ星だ。いや、少しだけ割り引いて3つ星半としておこうか。エンターテイメントとしてはよくできていると思う。
<テキスト>
『シャフト旋風』(Shaft’s Big Score)1972年
アーネスト・タイディマン著
早川書房(ハヤカワNV)
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)