<#008-28>親の態度(2)
(親の態度―続き)
子供に問題がみられてからの親の態度を述べています。すでに放任する親、手をこまねく親、子に治療を受けさせる親と見てきました。最後にもう一つ加える必要があります。
④自身がカウンセリングを受ける親
それが子供の問題であっても、自分がカウンセリングや援助を受けることに抵抗の少ない親たちであります。カウンセリングを受ける以前に、児相、教育・養育相談、さらには行政の相談窓口などを利用していることもあります。
この親たちはしばしば無力感に襲われていることもあります。あるいは子供から何かと苦しめられているといった親も含まれるでしょう。
しかし、子供が引きこもりのような状態になってから、母親が動き出すまでにそれなりの月日を要している例も多いのです。自分でなんとか子を抱えようとされてきた経緯を認めることもあります。どうにもならなくなって受けにこられる母親も多いのであります。
②の手をこまねく親と似ているところもあるのですが、②は子に対してもあまり対処できず、且つ、なんらかの行動に移すことが困難であり、その辺りは④の母親と異なる部分であります。もう少し言えば、②に属する親よりも、④の親たちの方が自我が機能していると私は考えています。②と④とでは母親の状態が違うと言えるのです。従って、母親の心的状態が変化すれば、②から④に移行することもあると私は考えています。
(親の決意)
さて、子供の問題が顕在化し、それに対して親はさまざまな態度・姿勢を持ちます。カウンセリングを受けに来るのは一部の親ということになります。
カウンセリングを受けようと親たちに決心させたものはなんだろうか、私は非常に興味があるのですが、なかなかそれを言語化してくれる母親はおられないのです。自分自身が苦しくなったからという例が多かったように思います。あるいはこのままではいけないという危機感を覚えたからといった例もけっこうあります。
いずれにしても、母親の中でなんらかの変化が生じていると私は考えています。先述のように、この辺りの事情を母親から聞くことがほとんどないので、私の憶測でありますが、次のような経験をしているようであります。
まず、子が示している問題の受け取り方、解釈の仕方が変わった(思考の変化)といった例があります。また、このまま続けても動きが見られない、これまでもそうだったし、これからもそうなるだろうといった考えを持つ(現実感覚あるいは時間展望)といった例もあります。
あるいは、これまでの子への接し方が本当に正しいのかどうか確かめたくなったり、自分に何か間違っているものがあるのではないかと疑ったりして(自己批判)、それがカウンセリングを受ける原動力になっていることもあります。
単純に子への不安が動機づけになっていることもあります。子のことで、これまでも不安があったが、その不安がさらに大きくなったとか、現実に不安に襲われるといった体験(不安の認識と対処)をする親たちであります。
さらに、子を抱えきれず、心的に距離を置きたくなる(分離)親もあるでしょう。子のことで生活や人生が費やされることに耐えられなくなる(自身の幸福の追求)親もあるでしょう。カウンセリングを受けることを決意させた背景には母親自身のさまざまな心的変化が認められるように私は思うのであります。
(伝えること)
さて、こうして親がカウンセリングを受けることを決意します。カウンセリングを受けるということを子供にも、その他の家族成員にも伝えておくことを私は勧めています。
その際に、子供のことで受けるとは言わないことが肝要であります。母親はあくまでも自分のためにカウンセリングを受けるということを明確に伝えておいてほしいと私は願います。
それを明確に伝えても子は信じないかもしれません。子は、母親が自分のことで相談にいくと信じるでしょう。そう信じるならそれでよろしいでしょう。そこで母と子が議論を展開しても意味がなさそうであります。ちなみに、子と議論することの不毛さは後に子供の問題に関するページで取り上げたいと思っています。
それに子の方は、自分が問題視されていることを意識していることもあるため、親が自分のために受けると言っても、その母親の言葉が信じられないという側面もあるでしょう。母親のカウンセリングを自分と関連付けて解釈してしまうこともあるでしょう。親のすること、家族のすることに対して猜疑心を募らせている子もあるでしょう。誰かが何かをすれば、それは自分に対する何かだと解釈するかもしれません。こうした自己関連付けの傾向も子の問題に関するページで取り上げたいと思っています。
子がそんなふうに疑ったりするので、親が子に内緒でカウンセリングを受けに来るのは好ましくないということになります。母が自分に隠れてなにかやっているようだ、しかもそれが自分に関することのようだということになれば、子の恐怖心を高めるだけになるでしょう。それに内緒にすればするほど、余計な疑惑を子に与えることになるかもしれません。
親たちはそんなことはないと思うかもしれないのですが、しばしば、こういう子は鋭敏に周囲のことを感じとるのであります。過度な敏感さが認められることが多く、それが社会的な人間関係を苦しいものにしていることもあるのです。子にそういう傾向があればなおさら隠し事はしない方がいいということになるわけです。実際、親は何もやましいことをしているわけではないのだから、子に隠す必要はないと私は考えています。
カウンセリングの予約を取れば、その日時も伝えておくといいでしょう。子は親のカウンセリングに対してさまざまな反応を示すのでありますが、身構えさせる、心の準備をさせる必要のある子もいるからであります。そういう事情もあるので、親カウンセリングはあまり直近で予約を取らない方がいいと私は考えています。一週間くらいは空けた方がいいと考えています。
(周囲の賛同)
母親がカウンセリングを受ける旨を伝えると周囲は反応を示します。基本的には賛成か反対かといった反応になるようであります。賛成の方から取り上げましょう。
母親がカウンセリングを受けることに関して、父親は賛成することが多いようです。同じように子のことで困っていることもあり、そういう父親は賛成するようです。父親の中にはあまり積極的に賛意を示さないこともあるのですが、それはカウンセリングがよくわかっていないためであることもあります。少なくとも父親たちは反対はしないようであります。
ごく少数の例では父親が反対することもあります。それはどうも自分たち家族の問題をあまり外部に漏らしたくないという気持ちが強いようなのです。それでも母親がカウンセリングを受けること、その必要性を認めていることも多いように思います。
IPの同胞、つまり引きこもっている子の兄弟姉妹たちも反対することは少ないようです。中には母親がもっと早く受けたら良かったのにと思う人もあるのです。
こうした賛同者の存在は、母親の決意、カウンセリングを受けるという決意を後押ししてくれるだけでなく、その決意の正当性を認めてくれることになるのです。彼らは母親の支えになるのです。それによって、カウンセリングに対する母親の不安も減少し、安心することだろうと思います。
では、IP本人の反応はどのようなものがあるでしょう。非常に複雑な反応を示す例もあります。分量の関係で次項に引き継ぎます。
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)