10月5日(土):書架より~『人格心理学』(2)
昨日に引き続き放送大学テキスト『人格心理学』を読む。今日は6章から10章までを読んだ。
6「3理論の位置づけと比較」
3~5章で、精神分析、現象学、行動主義のそれぞれの人格理論を取り上げてきて、本章ではそれらの理論が思想史上、あるいは心理学的にどのような位置づけであるかを説く。こういう章はその他の類似のテキストではあまり述べられることがないので、ちょっと独特な感じがする。
中世のキリスト教時代は神的決定論の世界であった。すべては神によって作られ、それに基づいて事物が説明されてきた。この世界観が変わったのはデカルトの「物心二元論」からである。ここで因果律パラダイムが生まれることになり、この因果律がその後の自然科学、物理学の基礎となる。物理学モデルを身体に用いることによって身体医学が発展したが、精神医学も同じモデルで説明できると考えられてきた。心理学が誕生したのもその時代である。行動主義の理論は物理学・力学と同じような理論構造を持っている。また、心的決定論を主張する精神分析も因果律に則っているといえる。しかし、人間の心とか精神というものを因果律で説明できるのであろうか、それに対する批判も生まれてくる。その批判から、まず、ディルタイの了解概念が生まれ、20世紀に入ってフッサールの現象学が生まれる。ロジャースはフッサールの現象学をそのまま受け継いでいるわけではないが、影響を大いに受けている。人間を理解するためには、客観的・物理的世界よりも、その人の主観的・意味的世界を重視しなければならないとする。著者のまとめとして、人間理解には、物理的・客観的理解と主観的・意味的世界の両方が重要であるとする。
7「人格の形成(1)乳幼児期」
本章から9章までは人格形成のテーマが充てられている。これを発達順に述べていくわけだが、いくら簡潔に要領よくまとめられているとは言え、人の一生を3章に圧縮されているという点を念頭に置いておいた方がいい。本章では乳児期、幼児期、児童期がまとめて綴られている。
人間は出生の時点で、すでに高い能力を持っている。外界に適応するための能力を新生児は持って生まれるのだけど、個人差がすでにある。これらの個人差、つまり生まれながらに備わっている個人差は気質に基づくところが大きい。トマスとチェスによる気質の9次元並びにそれに基づく3類型。また、乳幼児の気質的行動が養育者側の反応を引き出す。幼児は養育者との間で情緒的な関係を形成していく、つまりアタッチメントを形成していく。アタッチメントの証明としてのストレンジ・シチュエーション。幼児の人格はどのように形成されていくのか、養育者や周囲の大人、文化や社会などからの発達期待と学校教育の影響も述べる。
テキストの分量の関係でそうならざるを得なかったのだろうけれど、本章は大部分が乳幼児期のことで占められている。章題に偽りはないのだけれど、児童期がほとんど欠落している観は否めない。
8「人格の形成(2)青年期」
人格形成テーマの2章目。児童期を飛ばして、青年期に入る。
周辺人としての青年。青年期は身体との出会いから始まる。第二次性徴の出現は、身体の「質」を変える。そうして身体的に成熟することによって、親との間に第二の分離―固体化が青年に課せられる(第一のそれは乳幼児期になされる)。親からの分離―個体化の達成は、アイデンティティの形成へとつながる。ただし、青年期に確認されたアイデンティティの地位は安定したものではなく、変化していく可能性を秘めている。アイデンティティの形成も人格の形成も、一度確立したからといってそれで終わるわけではなく、ある程度の柔軟性を認める必要がある。
9「人格の形成(3)成人期・老年期」
本章では人生の後半がテーマである。「大人」とは。日米の若者への調査より、アメリカよりも日本の方が「大人」に課している条件が多いこと。ユング、レビンソンのライフサイクル論。シーヒィの女性の成熟危機。女性の方が中年危機が早く来るらしい。中年期の問題は20代、30代をどう生きたかに影響される。最後に老人の性格について。概して、老人になると自己肯定感が増すとは言えるが、それも中年期をどう生きたかによって影響される。
人生は連続的である。児童期をどう生きたかが青年期に影響し、青年期をどう生きたかが成人期に影響して、成人期をどう生きたかが老年期に影響する。どの年代にあっても、しっかり生きることが大切なんだなと改めて思う。
また、本章は15章と関連が深いので併せて読む方がよさそうだ。
10「人格と適応(1)正常と異常、神経症と精神病」
本章から14章までの5つの章は適応のテーマである。人は自らの人格でもって外界に適応していると考えれば、適応のテーマは人格とは切り離せないことになる。
本章では、まず、正常と異常という観点から紐解き、健康な人格とはいかなるものかを説く。これはオールポートとロジャーズの理論が取り上げられている。次いで、心の病に関する歴史的な記述を挟み、心の病の分類という内容に移る。ここでの分類は、精神病、人格障害、神経症の三本柱に基づいている。加えて、臨床の場で注目されている各種の適応障害を取り上げる。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)