<T024-20>高槻カウンセリングセンター便り集(20)
(本ページの内容)
・高槻カウンセリングセンター便り:58通目~悪化する人たち(1)
・高槻カウンセリングセンター便り:59通目~悪化する人たち(2)(失敗に方向づけられている人たち)
・高槻カウンセリングセンター便り:60通目~悪化する人たち(3)(失敗に方向づけられている人たち)
・終わりに
高槻カウンセリングセンター便り:58通目~悪化する人たち(1)
「治る人・治らない人」のシリーズを続けていますが、すこし番外編を挟みます。
カウンセリングや心理療法を受けて、「治らない」ではなく、むしろ「悪化した」という人たちがいます。しばらくこういう人たちのことを述べようと思います。
この「悪化」は正しく評価されなければならないものであります。治癒の過程において必然的に生じるものである場合もあれば、本当は望ましい何かが生じているのにその人が「悪化」とみなしている場合もあるからであります。
しかし、ここではそのようなケースは省くことにします。
実際に「悪化」する人たちもおられるのです。むしろクライアントとはそういう人たちであると私は考えているのですが、その辺りのことも追々述べていけたらと思います。
この人たちは、通常では快方に向かうはずのところを正反対の方向に進んでしまうわけであります。精神分析の世界では「陰性治療反応」として概念化されている現象であります。
陰性治療反応も、それをどこまで含めるかで臨床家によって見解が異なるうえ、考え方もそれぞれ相違が見られるものであります。詳細に述べようとすれば、それこそ本が一冊書けるのではないかと思います。
ここではほんの一部分だけを述べることになるでしょう。私が取り上げたいものだけを取り上げ、私の見解だけを綴ることになるでしょう。
さて、陰性治療反応には臨床家側の要因もあります。しばしば指摘されるのは「早すぎる解釈」であるとか、臨床家の陰性逆転移反応などであります。私の個人的見解では、前者はむしろカウンセラーが早い段階でクライアントの早期体験を取り上げすぎるものであると考えています。これは今後取り上げていくテーマとなるでしょう。
一方でクライアント側の要因もあります。本項ではそちらを取り上げます。クライアントの性格傾向などをいくつか取り上げることにしたいと思います。
このようなことを最初に述べるのは、「悪化をすべてクライアントのせいにしている」という批判を招かないためであります。おそらく、そう見えてしまうことになると思います。そうではなく、クライアント側の要因だけを取り上げるので、そのように見えてしまうということなのであります。誤解を招かないために予めお断りする次第であります。
クライアント側の要因として、ここでは大きく三つの傾向を取り上げる計画を立てています。一つは「成功」に対する態度であり、二つ目は「権威」に対する態度であり、三つ目は「理想」に対する態度であります。
あくまでも私の個人的見解でありますが、陰性治療反応のようなことが起きるということを知っておくだけでもクライアントの利益になると考えています。私の書くことが誰かの役に立てば本望であります。
(2022.11.10)
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)
高槻カウンセリングセンター便り:59通目~悪化する人たち(2)
(失敗に方向づけられている人たち)
カウンセリングや心理療法を受けて、通常なら快方に向かうところを悪化の方向に向かってしまうという人たちのことを考察します。これは陰性治療反応として概念化されているものであり、そのうちクライアント側の要因だけをいくつか取り上げていきます。
最初に取り上げるのは「失敗に方向づけられている」という人たちであります。これはフロイトが「成功して破滅する人」として概念化した性格傾向であります。
成功とか失敗とかいった表現は大雑把でありますが、分かりやすいので便宜上使用することにします。
まず、人は成功することに恐怖感を持つことがあります。一つ成功すると次も成功しなくてはならないといったプレッシャーを感じてしまうという人もあるでしょう。この体験はどの人にも多かれ少なかれあるのではないかと私は考えているのですが、そうした恐怖感が非常に大きいという人たちもいるように私は思います。
この人たちは、成功のために努力を惜しまないことがあっても、最後には上手くいかないといった経験をするわけであります。常に失敗に終わってしまうといった人たちであります。
成功することへの恐怖感に「被害感情」が混じることもよく見られるように思います。この場合、自分が成功したら他の人の恨みを買ってしまうのではないかといった恐怖感になるわけであります。そうして、失敗するというよりも、成功を回避したい(他者からの攻撃を回避したい)という欲求が生じてしまうようであります。
こういう人は(あくまでも私の個人的見解でありますが)、上手くやるだけの能力はあっても、その力を発揮しないといった傾向を発展させるように思います。
次に、恐怖感よりも罪悪感を経験してしまう人たちも多く、自分が成功すると、成功した自分を処罰したい欲求に襲われてしまう人たちであります。そこまで極端ではなくても、成功した自分に違和感を覚えるとか、居心地の悪い思いをするとかいった人たちもおられまして、それはどこか自分に「罪」を感じているように私には思われるのです。。
成功することに強い罪悪感が伴う場合、成功すればするほど、上手くいけばいくほど、自分が「悪い人間」に感じられてしまうということであります。むしろ、失敗している方が安心感を得られるといった感じの人たちであります。(これは、例えば、母親よりも幸福になることであるとか、父親よりも高い地位に就いてしまったとか、そういう場面で生じることがあるものです)
罪悪感に「処罰」傾向が加わると、例えば一つ成功すると過剰なまでに自分に義務を課すとか、次の成功のために徹底的な抑制を自分に強いるとかいったことをする人もあります。実際、そういう人もおられるのでありますが、罰するといっても、その処罰はさまざまな形を取りえるわけであります。そして、この過剰な「処罰」がいつか当人に失敗を招いてしまうということになるようであります。
今回は成功することに対する態度として、それに不随する恐怖感と罪悪感を取り上げました。具体的な例を挙げていないので抽象的な話になったと思います。続きは次回に引き継ぐことにします。
(2022.11.10)
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)
高槻カウンセリングセンター便り:60通目~悪化する人たち(3)
心理療法を受けて却って悪化してしまうという人たちについて、その性格傾向を述べています。
前回は「失敗に方向づけられている」人たちを取り上げ、成功に対しての恐怖感や罪悪感について述べました。
こういう人たちの中には常に失敗しているというわけではなく、順調に成功を重ねていって、頂点に達したところで、くだらない理由で転落してしまうというタイプの人もあります。一見すると成功者のように見えるのですが、些細な事件などを起こして、それまでの成功を一気に無化するようなことをしてしまうのであります。
こういう人は、私の考えでは、成功への欲求と罪悪感がせめぎ合っているのではないかと思うのです。成功を回避したいとか、失敗に動機づけられているとか、そういった傾向と同じくらい正反対の傾向がその人の中で対立していたのではないかと思うわけであります。
このタイプの人たちの人生はけっこう劇的であります。頂点からどん底までを何度も繰り返してきたりしているのであります。
この人たちのこれまでの成功はその失敗を際立たせるための前座のように私には見えてしまうのであります。その失敗を決定的なものにするためにこれまでの成功があったかのような印象をうけてしまうのであります。
さて、成功に対する態度には、こう言ってよければ「軽い」ものから「重い」ものまであると私は思うのですが、問題になるのは「重い」側に属する人たちであります。小さな成功でさえ彼らを落ち着かなくさせてしまうということもあるように私は感じています。
この人たちは、例えば褒められると怖くなり、いい評価をされると落ち着かなくなり、期待されると逃げ出したい気持ちに襲われたりすることもあるようです。「褒めて伸ばす」が通用せず、褒めてくれた相手を非難したりすることもあるのですが、ちょっとした誉め言葉によっても恐怖感や罪悪感が掻き立てられてしまうのではないかと思います。
そして、彼らはカウンセリングでも自分の失敗経験を延々と話すといったことをするのであります。不思議に聞こえるかもしれませんが、自分の失敗を語っている時の方が生き生きしているように私には見えてしまうこともあります。
あまりに自分の失敗談を繰り広げるので、「そういう失敗経験ばかり話しているのは辛くならないですか」ということを尋ねたことがあります。そのクライアントはむしろそういう話こそ聞いてほしいとお答えになられたのでした。その時に、この人は失敗している自分に安心できるようだという印象を受けたのを私は覚えております。
さて、成功することに恐怖感や罪悪感が強いといった性格傾向を取り上げてきましたが、もう少しその背景、並びにカウンセリング場面でのことも取り上げたいと思いますので、続きは次回に引き継ぐことにします。
(2022.11.10)
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)
(終わりに)
今回は高槻カウンセリングセンター便りの58通目から60通目までを収録しました。「治る人・治らない人」のテーマで続けてきましたが、ここで少し目先を変えて、却って「悪化」してしまう人たちを取り上げることにしました。
58通目は、カウンセリングや心理療法によって却って悪化してしまう人たちのことを取り上げるに当たって、その前置きのような内容となっています。「悪化」に関して、クライアント側の要因だけを取り上げている点は常にご記憶願いたいと思います。
59通目は、「悪化する」人たちに見られる「失敗に方向づけられている」傾向を取り上げます。これは成功することに対しての恐怖感や罪悪感を背景に持つものであると考えられるのです。
60通目はその続きになります。常に失敗するわけではなく、頂点を極めてから転落するといったパターンを示す性格傾向を取り上げています。こういう人は一見すると成功者のように映るのですが、必ずしもそうとは言えないと私は考えています。
(2023年7月)
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)