8月24日(木):書架より~『強迫性障害の治療ガイド』
ずいぶん前に興味本位で買った本だ。著者は飯倉康郎医師である。1999年の出版となっている。僕の所有しているのは初版なので、その時期に購入したものだろうか。どういう経緯で買ったかはあまり覚えていない。
本書は導入編と実践編とから成る。
導入編では強迫性障害についての簡単な説明がある。不安を下げるために強迫行為をしてそまい、強迫行為を止めると不安が上がるという悪循環を強調しておられて、この悪循環を断つというところに治療の焦点が当てられているようである。
治療は行動療法である。暴露反応妨害法が採用されている。これは暴露法と反応妨害法とを組み合わせたものである。暴露法とは、恐れている対象、不安を喚起する対象に敢えて立ち向かうというものである。反応妨害法とは、強迫行為をしたくなった場面で、敢えて強迫行為をしないというものである。これを順次段階的に進めていくものである。
実践編では、導入編で得た知識に基づいて、独力で治療を試みられるように記述されている。
治療に入る心構えとして、「強迫症状を治そうと思うこと」とある。それは結構であるが、その信念が強迫的になれば、治療強迫が生まれることになりそうにも僕は思うのだけれど、まあ、そこは置いておこう。
次に、「治療中に陥りやすい考え」としていくつか挙げられている。治療に対する抵抗として捉えることができるものばかりである。
例えば、「なんでこんなことしないといけないのですか」という疑惑が挙げられている。この思考そのものが強迫的思考であるように僕は思うのだがいかがなものだろうか。
次に、「この治療は自分に合わない」というものが挙げられている。こういう疑惑が生まれる背景にあるものが僕には気がかりになる。これは治療を続けて苦しい思いをしている人が発するものだと思うのだけれど、なぜ苦しくなっているのかが問われなくてはならないことであると思う。後で述べようと思うのだが、強迫性障害が精神病の防衛の働きをしていることがある。この防衛が破綻しそうな恐怖感をこの人は訴えているのかもしれないとも僕は思うのである。
実践編の最後は、実際に治療をやってみようということで、いくつかの記録用紙なども付録でついている。こうした用紙をコピーして活用して、治療していきましょうということだ。
僕はべつに著者の考え方にケチをつけるつもりはない。人それぞれの考え方というものがあるので、本書のような見解もそれはそれで結構である。
ただし、いくつかの点で僕は危惧するところのものがある。
まず、この方法は強迫性障害として症状が結晶化している人が対象となる。つまり「定形的」な症状を抱えている人にのみ有効であると僕は考える。症状が一定しないとか、流動的で「非定型的」な症状を抱えているという人の場合、ここで一つの強迫症状を治癒しても、別の強迫行為やその他の症状を発現させてしまうかもしれない。
特に、その強迫性障害が分裂病を防衛している場合であれば、その治癒は防衛の破綻となってより重篤な症状を生み出すかもしれないとも思うのである。
また、この方法は強迫行為を伴う例においてのみ有効であると思う。つまり、行為を伴わない強迫観念に悩まされている人には通じない方法であると僕は思うわけである。行為に関しては、具体的な計画を立てやすいけれど、観念に対してはそれが難しいようにも思うわけだ。
なによりも、その人の自我を強化することを抜きにして症状だけを取り払うという考え方に僕は反対する者である。本書においてもそれが欠けているので僕としては賛同できないのである。症状も含め、その人の人格全体を考慮しなければ危険であると僕は考える。
まあ、そんなこんなで、本書は処分決定となった。
<テキスト>
『強迫性障害の治療ガイド』(飯倉康郎著)二瓶社
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)