6月20日(月):ミステリバカにクスリなし~『リマから来た男』
僕が読んだジョン・ブラックバーン唯一の本。若いころに、「コワいなあ」などと思いながら読んだのを覚えているのだけれど、どいうわけかもっと他の作品も読みたいという感じにはならなかった。
面白く読んだ記憶はあるのに、最後の方を覚えていない。今回、処分しようと思うので、もう一度だけ読んでお別れしようと決めた。
冒頭でリマから来た男が南米の町マチパロを焼き払う場面が描かれる。リマから来た男の悪魔的性格が刻印づけられる。
それから16年後。各国で大臣や要人が暗殺される事件が相次いで起きていた。ウイリアム・レイヴン外相も雪だるまに潜んでいた殺人犯に殺されてしまう。
細菌学者マーカス・レヴィン卿はある男の死体鑑定に立ち会うことを要請される。男は外相を殺した犯人であるが、その血液中から未知の微生物が検出されたのだ。それはかつて、狂気の学者クルト・ベルゲンが南米の奥地で発見したウルスス・セルヴァエのようであった。
この微生物は自然界の法則に反するさまざまな兆候が見られた。マーカスは弟子であるピーターに培養を頼むが、ピーターは感染し、狂死する。
マーカスは、妻のタニアとともに、調査をする。一体、この微生物はどこから来たのか。要人たちはなぜ相次いで暗殺されるのか。調査線上に南米の小国家ヌエヴォ・レオンが浮上してくる。
彼らはこの小国家にダムを建設しようとする技師に面会を求めるが、僅差で敵に出し抜かれてしまう。彼らの面前で技師が殺されてしまうのだ。
マーカスとタニア、それにチャールズ・カーク将軍はヌエヴォ・レオンに向けて旅立つ。
ヌエヴォ・レオンにて大統領と面会することのできた二人だが、そこでも大統領の暗殺事件が起きる。小国家の崩壊である。各地でクーデターが起こり、討伐隊が派遣される。混乱を極める中、三人とヌエヴォ・レオンの警察長官ブライアン・ジョイス大佐は逃亡を試みる。
彼らはジョイス大佐の所有するローズ号に乗って、密林の奥地、かつてマチパロの町があり、ベルゲンが初めてウルスス・セルヴァエを発見したかの地へと向けて川を遡行していく。
ここまでが前半の大まかな流れだ。僕が書くと何の緊迫感も生まれないのだけれど、実際に読むとハラハラする展開である。
後半は、ついにかつてマチパロであった場にたどり着く。リマから来た男とも対峙する。男は、あの微生物を人工的に変異させ、人類滅亡を企んでいる。囚われの身となった四人は、なんとかしてリマから来た男の陰謀を阻止しなければならない。
彼らは脱走し、兵隊蟻のゾーンを通り抜け、ローズ号から反撃を加える。一難去ってまた一難の冒険が展開される。おまけにタイムリミットまである。通信機も使えない。使える武器といえば、かつてのドイツ軍からの払下げで船に装備された古びた88ミリ砲だけときた。
どんな苦境であれ、どんな悪条件であれ、どんなに最悪なものに見舞われようとも、最後は主人公たちが勝つことが分かっている。分かっていても読んでしまう。冒険小説の面白さが十分に堪能できる。
前半にはスリラーの面白さがあり、後半には冒険小説の面白さがある。一冊で両方楽しめるという豪華さである。でも、僕は前半の方が好きだ。
さて、本書は面白く読んだのだけれど、だんだん僕の好みと合わなくなってきてる。こういうスリラーとかちょいホラーっぽいのが受け付けなくなってきている。僕が年をとったせいだろうか。
一応、僕の唯我独断的読書評価では4つ星半だ。面白いことは面白い。でも、僕は本書とはお別れするよ。
<テキスト>
『リマから来た男』(The Young Man From Lima, 1968)ジョン・ブラックバーン 著
菊池光 訳 創元推理文庫
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)