<自己対話編―19> 平成24年6月24日 

 

<対話> 

C:夕べは久しぶりにぐっすり眠れた。今日は調子がいい。でも、朝食を素早く食べたので、胃腸は若干もたれ気味だ。流し込んだっていう感じで食べたんだ。それと言うのも、早く家を出て、これを始めたかったからなんだ。実は、夢を見た。生憎なことに、断片的にしか覚えていないんだけれど、いくつかの場面が残っている。夢の中で、僕は数人の人たちと一緒にどこかに行くんだ。施設か何かの建物だった。最初の場面は、風呂に入ろうとして、脱衣室のような所に行く。和室風の部屋だった。そこで服を脱ごうとすると、係の人が来て、ここは一人で占有しないでくれと僕に言う。僕は仕方がないのでそこを後にする。それから場面変わる。僕は何かの賞を獲得したんだ。二等賞だということで、なぜかパンツに賞を獲得したということの証明となる印を捺されているんだ。僕はそれを数人の人の前で見せる。すると一人の人が一等賞だと何貰えるのだとか、何人くらいが一等賞を得られるのだろうとか、何かそういうことを質問した。彼はあまり賞には拘っていないようだった。さらに場面が変わる。浴室に行こうとすると、そこは会議室みたいになっていて、数人の人が会議をしている。長い机を輪のように組んで話し合っている。浴室へはそこを通り抜けないと行けないことになっている。会議が終わるまで待ってくれということだった。それから、浴室の方に行くんだ。その間のことは抜け落ちている。浴室といっても小さなユニットバスがあるだけで、床に水が流れている。トイレもあったので、そこで小便をする。その後、また場面が変わって、僕たち数人が集まる。実は僕たちはスパイであり、破壊活動をしているということだった。銘々が一匹の虫をその場に残しておくんだ。僕も同じようにした。みんなは散って行ったけれど、僕はその場に残っていた。みんなの居た場所にはヘビのようなものが置いてある。ヘビかと思ったそれは立ち上がり、ピョンピョン跳ねて、四方へ散って行った。まるでタツノオトシゴのような形だった。それが施設内で悪さをするということだった。僕も一瞬危ないと思ったけれど、そのタツノオトシゴが苦手な匂いを発散する薬を飲んでいたから大丈夫だと思った。それらは散って行って、施設の各所で混乱を起こしたようだった。何となくだけれど、混乱した物音を聞いたように思った。それで、僕は上手くいったというような感じを覚えたんだ。それが今朝見た夢なんだ。(1) 

T:不思議な夢だね。いくつもの場面があって。夢について、何か思い当たりますか。(2) 

C:一番に気になったのは、そのタツノオトシゴなんだ。「一体、あれはなんだ」って、真っ先に思ったね。タツノオトシゴって、何というのか、不思議な形をした、よく分からない生き物だなあという感じがある。それにとても太古的というのか、あまり進化を達成していない生き物で、神秘的というイメージがあるな。(3) 

T:そのイメージに基づいて、夢はどういうことになるだろうか。(4) 

C:僕の中の何か太古的で、未進化で、よく分からない神秘的なものが動いて、活動しているということになるのかな。それも破壊的なやり方で活動いている。でも、その破壊は僕が背負った任務でもある。そして混乱が起きている。しかも、その任務は僕を含めて数名で行っているのだけれど、僕だけが最後まで残って見届けようとしている。はっきり数は分からないのだけれど、僕たちは5,6人のグループだった五分の一か六分の一か、僕はその程度しか、その作業に関わっていないという感じがするな。つまり、タツノオトシゴで象徴されているものが、何か破壊的な活動を始めているのだけれど、僕の中の大部分はその作業からは撤退して、関与しないようにしているのかな。僕はそれでタツノオトシゴについて少し考えておこうと思うんだ。今はそれ以上言えることがないような気がする。(5) 

T:では、夢のその他の場面についてはいかがでしょうか。(6) 

C:次に気になったのが、お風呂のことなんだ。以前、シャワーで身を清めようとする夢を見て、それから湯船に浸っているという夢を見た。何となく流れがあるように僕には感じらた。湯船に浸っているという夢では、僕の足に毛が一本もなく、女性か子供の足のようだったんだ。今回の夢では、僕は風呂には入らずに終わっている。最初は脱衣室を追い出されるんだ。そこは一人で使用してはいけないっていう具合に。次は会議中で通れなかったんだ。通ったけれど、トイレをしただけだということになっている。これはどういうことなのだろうな。一人で使用してはいけないこと、つまり複数でないといけないということで、この僕一人というのは、不完全な僕で、前後に現れるグループで示されるように、僕の五分の一とかそれくらいのことなんだ。さらに、会議が終わるまで待てというのは、今はそのタイミングではないということなのかな。会議はみんなが輪を作っている。この輪は、一つの全体性を表すだろうと思う。そして、会議とは、まとめる作業である、そういう印象がある。だから全体性を先に回復してからだということになるのかもしれないな。今の僕は全体の五分の一か六分の一か、それくらいでしかないぞと、全体が揃ってから、脱衣室も使っていいし、会議も終わって、風呂の使用が許されるだろうということなのかもしれないな。別に風呂に拘らなくてもいいのかもしれないけれど、過去の夢がそれなりに示唆に富んでいたように思うので、つい気になってしまうんだ。シャワーは身を清めるためだった、湯船に浸るのは女性性や子供と一体になっている感じだった。だからいい意味合いがあるように感じるんだ。(7) 

T:だから今回の夢はそれが妨げられていて、あなたとしては何か後退した感じがしているのでしょうか。(8) 

C:うーん、必ずしも後退したという感じでもないんだけれど、どのように捉えたらいいかですごく迷っている。もちろん、一つの意味に限定しなくても構わないのだけれど、何となく漠然としたものが僕の中に残っているんだ。でも、僕にはこの夢の一つの意味合いが感じられているんだ。それは僕と母とのことに関する事柄で、どうしても母のことはここに書くわけにはいかない。母だけでなく、他の人に関しても、あまりその人の個人的な事柄を書くわけにはいかないと思っている。だからはっきり述べることができないんだ。僕は最近なんだけれど、母に対して非常に悪いことをしている自分を体験している。母は許してくれているが、僕はそういう自分を許せないし、何とかして変えていきたいと思っている。夢はその部分と関連しているように僕には思われてならないんだ。(9) 

T:母というのは夢のどこからそう感じたのでしょうか。(10) 

C:その建物なんだ。この建物はある意味では家庭であり、人間の生活空間なんだ。そして人を、多くの人を収容することのできる施設なんだ。施設というものは、利用者を良くするために様々な設備があるものだろう。だから、ある意味ではその人を良くするというよりも、その人をいい方向へと育ててくれるっていうイメージが僕にはあるんだ。(11) 

T:人を受け入れ、人を育て、家庭や生活空間を形成する。それが母親のイメージと結びついている感じがするんですね。(12) 

C:そう。それを僕が破壊しようとしている。それも原始的な生命でもって。つまり、僕の原始的な部分がそれの破壊に手を貸しているという感じがしてならないんだ。これが望ましい破壊であればいいのだろうけれど、どうもそういう感じではない。(13) 

T:この破壊工作はあなたにとっては危機感を覚えさせるようなものなんですね。(14) 

C:僕が母、並びに家庭を破壊しているのではないかって、そういう気分に襲われている。しかも、僕の原始的な部分、十分に発達していない部分がそれをしているのではないかって、そんな風に思えてしまうんだ。(15) 

T:あなたは現実に自分が家族を壊しているように体験しているのですね。(16) 

C:そう。僕はいつもそういうことをしてきたような思いがする。これまでもそうだった。子供の頃から、僕がいない方が家族は幸せなんじゃないかっていう気に襲われてきた。今でもそれをどこかで抱えているのかもしれない。(17) 

T:あなたは自分が家族にとって諸悪の根源であるかのように自分を感じる?(18) 

C:悪いのは僕だって信じている。(19) 

T:家族の中でさえ、あなたは自分が許されているという感じがしていないので、それが辛いのですね。(20) 

C:そう、迫害されて、追放されればそれまでだって、そう思う。(21) 

T:だから、あなたは家族を破壊したいと思ってしまう?(22) 

C:そうかもしれない。じゃあ、これは復讐じゃないかって、そういう気がしてきた。でも、一方で、確かにこれは復讐していることになるなとも思っている。(23) 

T:復讐したがっているのは、あなたの全体ではなく、あなたの一部であり、あなたの原始的で未発達で幼児的な部分だということになるのでしょうか。(24) 

C:そういうことなんだ。この夢を自分なりに解釈していった時に、辿り着いた結論はそういうことなんだ。もっと違った意味があるかもしれないけれど、少なくとも今の僕にはそれが妥当で、それ以外のことがイメージできない。(25) 

T:あなたは本当は破壊したくないのですね。(26) 

C:そう。だから夢に見るのかもしれない。でも、なんで母や父を苦しめなければならないんだ。僕は苦しんだ。でも、それは本当に父や母が悪いとも証明できないことなんだ。もし、父や母に罪があったとしても、罪があるというだけで、父や母を恨んでいいのだろうかとも感じているんだ。親に反抗するのは、親を恨んでいるからではないだろうと僕は信じている。いや、怨恨に基づく反抗は、その人を望ましくない方向に導くはずなんだ。(27) 

T:あなたはそれを避けたいと願っている。(28) 

C:そう。怨恨ではないんだ。親を恨んで、親をやっつければいいなんていう、そんな単純な話ではないんだ。時にそれを現実にしている人がいるけれど、それは間違ったことなんだって、僕は思う。本当に恨んでいるのは、親その人ではなく、自分の境遇のはずなんだ。そして、自分の境遇は変えることもできるはずなんだ。たとえ過去の出来事だって、今現在の自分が変われば変わっていくものなんだって僕は信じている。(29) 

T:あなたは親をやっつける方ではなく、自分を変える方を選んだ。それなのに親を破壊する夢を見たことで動揺してしまっているのですね。(30) 

C:自分のしていることはそういうことなんだって、夢が教えてくれているようだ。そして、僕の中に今だにそれがあるということを知って、確かにショックを受けている。どうしてそこから抜け出せないんだろうって、今は思う。(31) 

T:抜け出すとしたら、どういうことをしていかなければならないと思いますか?(32) 

C:その原始的な部分が発達を遂げることだと思う。そのためには、僕は自分の原始的な心性を把握していかなければならないし、理解していかなければならない。意識の光をそこに当てていかなければならないというように、今は思えてくる。でも、これはすぐに達成できるような事柄ではないとも思う。もしかしたら、僕のライフワークになっていくかもしれない。自分を成長させるということは、どの人にとっても一生懸ける仕事だと僕は思っているのだけれど、僕もそれをしなくてはいけないし、どの部分でそれをしなければならないのか、見えてきた感じもしている。(33) 

T:一つ具体化された感じもしているのですね。(34) 

C:そう。だから取り掛かるべき部分が見えてきたということでもある。僕が求めれば、母は僕に援助の手を差し伸べてくれる。親だから当然だと思うかもしれないけれど、僕はそれは間違っていると今では思う。母はそれだけ負担を背負い込むことになってしまう。僕は母の援助に甘えてしまって、ある部分が未発達のままになってしまっている。それもいつか恩返しができればいいのだけれど、今の僕にはその目途すらつかない。(35) 

T:そういう自分がイヤに思えてくるのですね。(36) 

C:そう、僕もダメだし、兄もダメなんだ。兄も僕と同じようなことをしている。兄の方が僕より若干ひどいとは言え、程度の差で比較してもしょうがないんだ。内容を見なければいけない。やっていることは同じなんだ。(37) 

T:ダメな兄と同じことを自分もしているように思えてくる。それもまた許せないことなんですね。(38) 

C:許せないね。僕はそこから抜け出したいんだ。一度にできるわけではないし、一日で達成されるような事柄ではないんだけれど、少しずつでもそちらに歩を進めなければならないんだ。こんな言い方は失礼なのだけれど、こういう時、Yさんは役に立たない。彼女が悪いわけではない。彼女は僕のこういう事情を知らないでいる。僕がその作業をしていく際に、Yさんのことを負担に感じる。(39) 

T:あなたが独りになりたいって思うのもそれのためなの?(40) 

C:それもある。独りになって、僕は自分の人生を作りなおしたい気分なんだ。いや、現実には既にそれを始めている。何か目に見えるような結果にまではまだ結びついていないのだけれど、それを始めている。(41) 

T:最後に一つ訊きたいのだけれど、そういうあなたが、今、しなければならないことはなんでしょうか?(42) 

C:僕自身になることだって思う。すごく抽象的な表現をしているとは思うけれど、自分自身になって、人生を作ることだって思っている。そして、一つの目的を常に見据えておくことも肝心だし、進み始めたら振り返らない、つまり後悔しないということも肝心だなと思えている。具体的なことは、僕の中ではあるのだけれど、ここで書くのはちょっと憚られてしまう。(43) 

T:あなたの中に見えているのであれば、それでいいと思いますよ。では、そろそろ時間になりましたので、今日はここまでにしておきましょう。(44) 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

 

 

 

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