<自己対話編―21> 平成24年7月2日 

 

<対話> 

C:本当は昨晩これをする予定だった。でも、Yさんと急遽会うことになって、そっちを優先した。彼女は今もう一つ仕事を始めようかどうかで悩んでいる。もちろん、彼女の悩みはそれだけではないのだけれど、僕はその件でいろいろ考えてみたりした。その時、僕は速やかに解決したがっている自分を発見したんだ。つまり、Yさんの悩みをさっさと解消したがっている自分を体験したんだ。Yさんに全部任せておけばいいものを、僕があれこれ口出ししたりしているんだ。(1) 

T:そのことがあなたにとってどう問題なの?(2) 

C:Yさんのことを子ども扱いしているような気がしてきた。それに、見ていてもどかしいし、一喝したくなる時もあるんだ。彼女が望んでいるような事柄を実現するためには、あるいは彼女が求めているような生き方をするためには、彼女は今のような生活をもっと変えていかなければならないんだ。今の彼女の生活では、彼女は望んでいることの半分も達成できないだろうって、僕には思えるんだ。来年の2月にイギリスに行きたいと彼女は言う。用事があって行くのだけれど、じゃあ、2月に行けるようになるために具体的に計画を立てているかっていうと、どうもそうではなさそうなんだ。彼女は自分のことをきわめて漠然としか考えることができないんじゃないかって、僕にはそう思えるんだ。それで行けなかったとか、できなかったとかって、後から嘆かれても、僕からすれば当然じゃないかって思えてくるんだ。もっと自分に関してしっかり考えなければいけないって僕は思うんだ。余計なおせっかいかもしれないけれど。(3) 

T:それで昨夜は彼女の肩代わりをして考えてあげたように思うのですね。そこが何か気になっているということでしょうか?(4) 

C:彼女に考えさせて、計画を立てさせなきゃって思っているのに、最後は僕の方が一方的にプランを提供したりしているんだ。どうも間違ったことをしてしまったような気がしてならないんだ。協力したいとは思うのだけれど、どうも行き過ぎてしまったんじゃないかって。(5) 

T:彼女を放っておくわけにはいかないんですね。それでつい手を出し過ぎてしまう。(6) 

C:時々、そういうことをしてしまう。過去に出会った人であれ、クライアントであれ。彼らの人生なんだから、彼らに選択させなければならないし、決定してもらわなければならないし、彼らに悩み、迷ってもらわなければならないんだけれど、つい、僕の方が一方的になり過ぎてしまっている。そう気づくことも多いんだ。(7) 

T:そういうことをするのは援助じゃないっていう気がするんですね。(8) 

C:そう、言い方は悪いけれど、面倒をあっさりと処理してしまいたいっていう感じかもしれない。(9) 

T:彼らに引き受けさせるべきなんだけれど、あなたが引き受けてしまいそうになる。でも、よく見ると、あなたも引き受けようとしているのではないという感じでしょうか?(10) 

C:そうだね。非常に悪いことをしているなと僕は自責するんだ。本当の人助けなら、彼ら自身に引き受けさせることを目指すべきなんだけれど、どうもそれが、頭では理解できているのだけれど、いざ具体的な場面では反対のことをしてしまっている。(11) 

T:あなたは彼らの力になりたいと思い過ぎるということになるのでしょうか?(12) 

C:力にはなりたいと思う。時には、見ていて、僕の方がいろいろ焦ってしまう感じなんだ。焦るというか、見ていてもどかしいっていう感じなんだ。(13) 

T:そういう時に待てないということがあなたの抱える苦悩の一つなんでしょうか?(14) 

C:そう。待てないのかもしれないな。待っているつもりで、できていないのかもしれないな。そういうところが僕のよくない所だと思う。もっと、大らかに待てばいいんだけれど、どうもそうならない。(15) 

T:あなたが待てなくなる焦りは、どういうところから来ているって思うでしょうか?(16) 

C:うーん、いろんな場合があるんだけれど、ある人が何かをしようとか、そういう話をするとする。僕はそれは明らかに無理だろうって見えてしまう。ここで決定しているのがよくないことなんだろうけれど、何となく、その人がそれをするならもっと頑張らないといけないとか、時間が足りな過ぎるとか、遅れをもっと取り戻さないといけないとか、そういうことが見えてしまう。(17) 

T:じゃあ、その人は明らかに無理な事や厳しいことをやろうとしているということがあなたには見えてくるんですね。(18) 

C:Yさんが望むような生活というのは、僕から見ると、大学を出て、就職して、ずっと勤続してきた人ができるような生活なんだ。バイトやパートでそれをやっていこうと思ったら、毎日フル稼働しないとできないことなんだ。でも、そんなに働けないと言う。それなら正規の社員になって、数年勤務してからやっていくか、理想の方を下げるかしなければいけなくなる。理想の方を下げるというのは、生活の質を落とすということで、贅沢を少し諦めるということなんだけど、彼女は貧乏はイヤだって言う始末なんだ。(19) 

T:なんか、現実を見てくれないっていう感じがして、もどかしくなるということでしょうか?(20) 

C:そう。彼女がそういう生き方を目指すのはいいんだ。それは彼女の価値観なんだから。でも、そのためには今よりももっと仕事に励まないといけないんだ。でも、それも難しいというのが僕には分かる。彼女は自分を抑制することに全エネルギーを使っているようなもので、とてもそこまで励めないだろうと思う。少なくとも今のままではね。それに、勤勉さというか、労働に対しての感覚が幼いんだ。Yさんのことなので具体的には言えなくて、抽象的な言い方になってしまうのだけれど。(21) 

T:彼女の中に何か未発達なものを見ているということになるのでしょうか?(22) 

C:そう。ある部分でとても幼いんだ。そこを何とかして伸ばしたいと思っているのだけれど。どうもなかなか思うようにはいかないし、そういう発達はある程度の時間がかかるものなんだけれど、それが分かっていながら、つい、焦ってしまう。(23) 

T:あなたにはそういう知識やあなたなりの経験があるので、余計に見えてしまうのかもしれませんね。Yさんの中に未発達な部分を見てしまうということは、あなたにとってどのような意味があると考えますか?(24) 

C:彼女を子ども扱いしてしまうし、子供のように無力だと思ってしまう。その分、僕がリードしていかなければならなかったりする。そうか、僕が優位に立っているということを実感しているということになるのかな。(25) 

T:そして劣位にある人を導いてあげたいって、そう思うのかな?(26) 

C:そうかもしれない。援助者には三つのタイプがあるって、僕は常々思うんだ。一つ目のタイプは、クライアントよりも先に行って、「ここまでは大丈夫だから、ここまでおいで」と言うタイプで、いわば自ら先に進んで、クライアントの手を引っ張ってあげるタイプだ。二つ目は、逆に後ろから背中を押すタイプだ。「そこまでは大丈夫だから行ってごらん」と、クライアントを先に行かせて、その後ろを押してあげるタイプだ。三つ目は横並びに行くタイプなんだ。「大丈夫だから手をつないで行こう」という感じだな。僕は、個人的にはどれが正しいとかは考えないんだ。どれも一長一短があると思うしね。その時々に応じて、一つ目のタイプになったり、二つ目のタイプになったりするだろうと思う。(27) 

T:クライアントを先導するか、後押しするか、同行するか、そのどれもが大事で、どれもできないといけないって思うのですね。(28) 

C:場面に応じて、対応は変わっていくべきだって思う。一つの傾向が強まりすぎるのがよくないんだって、僕は考えるんだ。つまり柔軟性がなくなって、一つに固執してしまうのが良くないってことなんだ。そして、Yさんとの関係では、僕は一つ目の対応をやりすぎているっていう感じがしているんだ。過去に、Yさんが僕にある提案をしたのだけれど、それは僕のその傾向をよく表しているなと、今では分かるような感じがする。その提案は具体的には述べないけれど、それの意味している所は、僕にあまり先に行き過ぎないでくれ、横並びで歩調を合わせて欲しいということだったんだなって思う(29)。 

T:知らず知らずのうちにYさんを置いてきぼりにしてしまって、自分だけすごく前方の方に立って、物を言っているなという感じでしょうか?(30) 

C:僕はそこでYさんを無視してしまっているのかもしれない。無視って言うと、言葉がきついんだけれど。(31) 

T:もっとYさんのことを考えなければならない所で、十分に考えなくやってしまうという感じになるのかな。(32) 

C:そう、無視とまでは行かないんだけれど、Yさんにもっと合わせるべき部分で、合わせることができていないという感じかな。(33) 

T:それをすることは、あなたが望んでいる関わり方とはまるで違うことなんですね。(34) 

C:そうなんだ。僕ももっと横並びで歩調を合わせて相手に同行するという関係を築きたいって思っているんだ。でも、気がつくと、自分だけ先に進んで、とても遠くから関わってしまっているように思えてくるんだ。それをしても、僕は辛くないんだけれど、相手が辛いと体験しているかもしれない。(35) 

T:置いてきぼりにされる側の気持ちが、あなたには分かるんですね。(36) 

C:だから肩を並べてっていう関係を結びたいんだ。(37) 

T:それが気がつくと、自分だけ先に行ってしまっている。(38) 

C:Yさんのことを、遅れを取ってしまった人っていう具合に見てしまっている。そして、この遅れを何とかして取り戻してあげなきゃと感じてしまう。それが焦りになっているのかもしれない。Yさん自身は焦っているのかどうか分からないのにね。(39) 

T:そういう時、Yさんをありのままに見ている気がしないのですね。(40) 

C:遅れてしまった人というように、概念化して見ているかもしれない。僕は好きになった人を子ども扱いしてしまうことがあるようだ。大学生の頃、大学一年の時だったな。アルバイトのD店で、バイトの女の子からすごく好かれたことがある。その子は、当時高校一年生で、少し前までは中学生だったんだ。そこが僕には引っかかっていて、仕方がなかったんだ。その子はいい子なんだけれど、付き合うとなるとなあ、この間まで中学生だった子だからなあって、なんか抵抗感があるんだ。それでも仲は良かった。バイトの同僚として、友達として、普通に接することはできていた。ある時、バイトが終わって、僕たちは自転車で帰路についていた。夜の8時くらいだった。僕は明日のレポートのことで頭がいっぱいだったんだ。僕はそのまま真っ直ぐに行く、彼女は右手に折れる。そこでお別れをするわけだ。翌日、バイトに行くと、彼女が妙に沈んでいるんだ。明るい子だったのに、なんか沈んでいるんだ。僕は何があったのと尋ねた。彼女は「昨日、あの後、襲われた」って。僕はすごいショックだった。彼女いわく、僕と別れてから間もなく、電柱の陰から男が体当たりしてきたということなんだ。自転車もろとも転倒したそうだ。彼女は悲鳴を上げて、自転車をそこに残したまま、走って逃げたって言うんだ。被害がそれだけで済んだのは不幸中の幸いというものだった。今でも、それを思い出すと、僕は苦しくなる。(41) 

T:その子がそんな目に遭うなんて、あなたには想像もできなかったのでしょうね。(42) 

C:まさか、襲われるなんてって、すごく意外だった。それが僕の子ども扱いなんだ。子供だから襲われるはずがないっていう意識がどこかにあったのかもしれない。当時は今とはもっと違っていたからね。今だったら、子供の方が却って危ないっていうことになるのだろうけれど、当時はあまりそういう風潮ではなかったな。いずれにしても、僕はその子がまだ子供で、つい数か月前までは中学生だったって思っていて、女としては全然見ていなかった自分に気づいたんだ。ずっと後になって気づいたんだ。そのことがあってから、何年も僕は罪悪感に襲われた。どうしてあの時、少々回り道をしてでも、彼女を家まで送ってあげなかったんだって。電柱の陰に潜んでいた男も、女性に同伴者がいるとなれば手出しできないだろう。だから、僕はただ彼女の家まで一緒に行ってあげるだけで良かったんだ。それすらできない自分に、そういうことにすら気が回らない自分に、僕はすごく嫌気がさしてしまったんだ。(43) 

T:その子が襲われたということに、あなたはすごく責任を感じている。(44) 

C:それで、そういうことを二度と経験しないようにしようって決めたんだ。そうしたらね、おかしなもので、今度はやたらと心配して、「送ろうか」とか「独りで帰れるか?」って、いちいち訊くようになるんだ。そして、無事に帰ったかどうか連絡してくれとか頼んだりしてね。以後、友達になった女性に対してもそういうことをするようになったんだ。女性からは「子供じゃないんだから」って、呆れ返られていたね。でも、それだけ僕は心配になっていたんだ。考えてみると、これも子ども扱いしているっていうことになるのかもしれないな。今ではそこまでしつこく心配することはなくなっている。でも、ある時、Yさんと駅の所で別れて、その当時は彼女の家を知らなかったので、僕は「家はここから近いの」とかいろいろ尋ねてしまったことがある。彼女は無事に帰れるからということを言うのだけれど、僕はその後、電車の中で妙な胸騒ぎを覚えてね、かつてのようなことがまた起きるんじゃないだろうかとか、いろいろ脳裏をよぎって、すごく不安になったんだ。翌日だったかな、またYさんと会って、Yさんがケロッとしているのを見て、ああ、あれは僕の取り越し苦労だったんだって思えて、それで一安心したんだ。次に会うまで不安でならないんだ。(45) 

T:あなたが苦しみたくないんですね。(46) 

C:何か起きれば、お互いに苦しむことになるだろう。そうなればYさんも苦しいだろう。でも、確かに、僕自身があの苦しいことを再体験したくないっていう気持ちの方が強いかもしれない。(47) 

T:あなたは相手を子ども扱いして失敗した経験を繰り返したくないと思うからこそ、相手を子ども扱いしないように気をつけている。(48) 

C:矛盾しているだろうと思う。それでも気がつくと、相手を子ども扱いしていたりするんだ。(49) 

T:相手が子供で、あなたは大人でいたいということでしょうか。(50) 

C:大人同士の関係をと願っているんだけれど、どこかでそれに抵抗感があるのかな。(51) 

T:相手は子供でないといけない、そういうことでしょうか。(52) 

C:そう。子供って言っても年齢のことではないよ。Yさんも立派な成人女性だ。でも、どこかで子供視しているのかな。(53) 

T:同じように、あなたは自分を大人視しているということでしょうか。(54) 

C:大人として振る舞いたいという願望があるのかな。いや、確かにあるだろうと自分でも思う。優位に立ちたいと言う気持ちもあるかもしれない。それはある意味では相手を支配するということになるんだろうな。(55) 

T:そういうことをしてしまうということに関して、何か思い当たることがありますか?(56) 

C:自分が子ども扱いされることには耐えられない。これは昔からある感情だな。すごく屈辱的な体験をするんだ。(57) 

T:誰があなたを子ども扱いしたの?(58) 

C:誰だろう。一番に思い浮かんだのは兄だ。父や母もそうなんだけれど、彼らからすれば、僕は本当に子供だったのだから、子ども扱いもするだろうとは思う。(59) 

T:あなたはかつてお兄さんがあなたに対してしていたのと同じようなことをしてしまう。言い換えると、お兄さんとあなたとの関係の在り方を、他の人に対してもしてしまう。違うのはあなたがお兄さんの立場にあるということなんですね。(60) 

C:そう。ここでも僕は兄になろうとしているのだろうか。この兄の霊がいつ取り払われることか、僕は絶望的な気分になる。(61) 

T:少なくとも、あなたは一つのことに気づいた。それだけでも今後変わっていく可能性が生まれるものですね。それでは時間になりましたので、ここまでにしておきましょう。(62) 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

 

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