6月28日:書架より~『疑わしき母性愛』 

6月28日書架より~『疑わしき母性愛 

 

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『疑わしき母性愛』(ヴァン・デン・ベルグ著)川島書店 

 

 最初に読んだのは96年頃だったろうか。その時にも深い感銘を受けたのだけれど、今回、読み直して、同じような体験をした。著者はオランダの精神科医で、とても啓蒙的な本を何冊も著しており、邦訳書も何点かある。 

 家族や親子関係について、今、僕はいろいろ調べたりしているのだけれど、その一環として本書を読み直した。160ページ程度の小冊子で2時間もあれば十分読み通せる。でも、それは内容が簡単という意味ではない。薄いけれど内容の濃い本だ。 

 ホスピタリズムの発見は、「人生の初期において、十分な愛情を欠如した子供は、後年、大きな心理的障害を抱えるようになる」という結論を導き出したが、著者はまずこの結論の妥当性を検証する。 

 スピッツやボウルビーの著書を参照して、その縦断的研究の欠如を指摘する。継続的に被験者を追跡調査できていないのに、これらの著者らはその結論に飛躍しているということを明証する。 

 そして、その結論が支持されるのは、それまでの精神分析や心理学の見解と一致するからである。つまり、学者は自分の理論の方に変更を加えるということをしないという意味である。 

 この結論は、従って、「子供にもっと愛情を」というアドバイスをもたらす。著者は、愛情欠如よりも、こうした愛情過多の方が問題が大きいと論じる。愛情過多に陥ると、親は両極的なあり方を取らざるを得なくなる。両極的な親に育てられた子供は、そのパーソナリティを吸い取られてしまい、両極的な社会に出た時に発病すると述べる。 

 上記の理論に、僕は一部疑問を覚えるのだけれど、確かに納得のいく理論だと思う。それよりも重要なことを著者が述べている。それは、育児はごく自然に思える普通の仕方が大切なのだという点である。それのできない母親がどれほど多いことか。 

 多くの僕がお会いする母親は不安なのだ。不安であるがために、子供に対して自然な態度が取れないのだ。不安で自然な態度が取れないとなると、その母親は技巧にしがみつく。どうすれば子供を泣き止ませるか、どうすれば子供が悪戯をしなくなるか、どうすれば・・・、こうしたことを書籍やネットで調べまくるのだ。 

 本書はそういう母親にこそ読んでほしいと思う。 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー 

 

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