<#015-7>初回面接~解説編(4)
S氏の初回面接の解説を続けることにします。
(95)T:(この時点で開始から45分ほど経過している)Sさん、ちょっとここで一区切りつけてもよろしいでしょうか。(S:ええ)。Sさん、今日、ここに来て話し合いをしてきたのですが、感想なんかを聞かせてもらえませんか。
(96)S:感想ですか。そうですね(考える様子)。良かったと思います。(T何が良かったですか)。思っていた以上に義母を意識していたことに気づいた。人格障害ではないと言ってもらえたことも嬉しかった。
(97)T:今日は来てよかったなと思いますか。(S:思います)。また来たいと思いますか。(S:できれば来たい)。私もまたSさんとはお会いしたいと思っています。でも、今のところ、その期待は薄いように僕は感じています。
(98)S:(ビックリした感じ)そうなんですか。
(解説)初回面接においては次回につなげるための時間を確保する必要があります。だから少し早めに話し合いを終えるのです(95)。
カウンセリングの感想を私は尋ねています。まあまあ無理な質問をしているなとは自分でも思うのです。というのは、もう少し時間が経過しないと感想は形を成してこないだろうからです。だから、この時点で述べられた感想は不十分なものになるのは否めないことであります。それでも直後に尋ねることにもメリットがあるものです。
大抵の場合、そのカウンセリングにおいて最も印象に残っている部分がここで語られるのであります。彼は義母に対する意識の強さ、人格障害ではないと言ってもらえたことをここで挙げているのですが、その時点において、それがS氏に強く印象に残っているということであります。それはそれで構わないのです。
ちなみに、本当に「人格障害」的な人であれば、この時に述べる感想に独特なニュアンスが認められると私は考えています。何も感想を言えないか。体験レベルの感想ではなく知覚レベルの感想を言う、あるいは末端的なことを感想として言う傾向があるように私は思います。ここにもS氏が「人格障害」ではないことの証拠を見ることができるのであります。
続く(97)はいささか私が誘導しているように見えるかと思います。「来て良かったと思いますか」と尋ねられれば、大抵の人は「良かった」とお答えになられるのです。そして、そういう場合、クライアントはそのカウンセリングで良かったことを念頭に置いておられるのであります。誘導的ではありますが、カウンセリングを終えるためにはそれが必要でもあるのです。「悪い方」を念頭に置くと、そこから「議論」等が始まってしまい、終えることができなくなるからであります。
私はSさんとまた会いたいと思っていると述べます。これは私の正直な感想であります。そもそも、私を選んでくれたというだけで、長くお会いしたい気持ちになるのであります。ただ、その期待は薄いと私は述べています。
私がこういうことを言う時には、しばしば、私の逆転移が強すぎる場合があるのです。誤解のないように言うのですが、それも陽性の逆転移であります。どうしてもまた来てほしいという気持ちが過剰になると、些細なことで「この人は来てくれなくなるのではないか」などと心配になったりするわけであります。
S氏の場合もそうでした。ただ、S氏の場合、妻と義母がどう動くかで今後のことが方向づけられてしまう危惧があるのです。S氏がビックリした(98)ということは、彼はそこまで考えが至っていなかったのでしょう。
(99)T:今日、Sさんは妻と義母の意見に反して僕の所へ来ました。Sさんの言うことを聞いたのだから、今度はこちらの言うことを聞いてもらうと義母たちは言うかもしれません。どんなことを義母たちが持ち出してくるかわかりません。そうなってもSさんは義母たちの言うことを聞いてしまうだろうと思うのです。
(100)S:ああ、そうか。そんなふうに考えたことはなかった。
(101)T:もう一つ言うと、今後、状況はますますSさんにとって厳しいものになるかもしれません。もう一度、僕はSさんのことを考えてみたいと思うのですが、今の時点ではいい兆しがまるで見えない思いがしています。(要約-その理由として、義母の存在が大きく、妻は義母の側についていること、そのため夫婦間の問題ではなくなっていること。おそらく、義母が支配権を持つ関係になっているだろうと思われること。義母のやり方として、最初に相手の言うとおりにして、次に、今度はこちらの言うとおりのことを求めるという傾向があるように思うこと。この場合、後から言う方はいくらでも言えることになる。相手の言い分とこちらの言い分とが不釣り合いであっても構わないことになる。義母たちはS氏が私のところで受けるのを反対していたのであり、私に対していい感情を持っていないだろうから、義母たちからするとたいへんな犠牲を払ってS氏の言い分を認めたといった体験をしているかもしれないので、その反動として今度はどんなことをS氏に求めるか予測がつかない)
(102)S:どんなことを義母たちはすると思いますか。
(解説)私は義母たちが彼にさまざまな要求を出してくるだろうと予期していました。これを読む人は(101)のような私の話を「クライアントの不安を煽っている」などと思い込まないように願っております。
確かに、過度に現実に直面化することは控えた方がいいとしても、今後生じる可能性のある出来事については考えておく(あるいは意識しておく)だけでもクライアントの利益になると私は思うのです。ちなみに、しつこいようですが、「人格障害」的な人であれば、こういう話は耐えられないことが多いと私は感じています。今後のことを考えられない(時間的展望の喪失)とか、これが今後とも続くかもしれないというだけで(不愉快なことの直面化)激しく動揺するかもしれません。
(103)T:まず、私のカウンセリングを受けることを禁止するでしょう。あなたが受けたくでもダメだと言うでしょう。一回受けたからいいじゃないかとか、今度はこちらの病院に受診して高槻のカウンセラーはその後にしなさいとか、なんじゃかんじゃ言って禁止するだろうと思います。
(104)S:まさか、そんな。
(105)T:もし、義母が私のところを拒否していても、妻が推薦しているとかいうのであれば救いがあったのですが、妻もまた私のところに対していい感情を持っていないのでしょう。だから見込みが薄い気がしているのです。だから、Sさんが私のカウンセリングを続けたいとなれば、そういう禁止や反対を押し切らなければならなくなるのです。今のSさんを見ていると、そこまでできるかどうか覚束ない気がしているんです。
(106)S:そんなこと考えたことなかった。けど、確かにそれも一理あるような気がしてきた。僕はまた受けたいと思います。そのためにどうすればいいでしょうか。
(107)T:一つの方法として、二回目の予約を今日のうちに取ってしまうということです。義母たちが介入してくるよりも先に次回のことを決めておくわけです。
(108)S:でも、それも無理なんです。今日、受けて、その後のことはそれから話し合うことになっているんです。次の予約とかを取らないように釘刺されているんです。
(109)T:Sさんはそれに従おうとされている。(S:そうです)。わかりました。継続していく上で困ったことがあったら一緒に考えることにしましょう。(以下、私の方の感想も述べ、いくつか枠組みに関する話などをして、終了となる)
(解説)彼は義母がどういうことをしてくるかと尋ね(102)、私が答えています(103)。私の経験では、家族の中にカウンセリングに反対している人がいる場合、その家族はあらゆる手段を講じるのであります。たいていのクライアントはそこまではしないだろうと高をくくるのでありますが、家族はその人がカウンセリングを受けられないようになるためにさまざまな手を使うのであります。もちろん、家族は意識的にそういうことをしている場合もあれば、無意識的であることもあります。いずれにしても、「反対工作」が生じるものと考えておいた方がよいように思うのです。
S氏の(108)ではすでに義母たちの「反対工作」が見られるのです。次の予約を取るなと彼に求めているのです。彼はそれに従おうとされているので(109)、彼に無理強いするわけにもいかないのであります。
以上、S氏の初回面接の解説をしてきました。次に、この面接における注目点を掲げて、私たちはS氏の2回目面接を見ていきたいと思います。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)